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03.異世界転生1

 暖かい。言いようのない多幸感が全身を包んでいる。


 頭のてっぺんから感覚が広がり、つま先に至る。少しこそばゆい。しかし、幸せな感覚が包んでいた。目を見開いた……はずだ。暗闇ではない。視界が乳白色に染まっている。光に包まれているのか。しかし、眩しくもない。これは夢だろうか……?


 優しい、それでいて全身に響く声が聞こえた。

『私たちの世界へようこそ』

『不安定で大きな力の流れができています』

『流れる方向が決まってしまった、あなたたちは特異点になってしまった』

『世界に直接干渉する力は、さらなる不幸を招く』

『小さく無力な姿にしか出来ず、ごめんなさい……』

『その代わり、伝える力を贈ります』

『あなたたちが良い物語を紡ぐことを切に願っています』

『さあ、起きて……』『良い旅を』


 全身を寒気が包んだ。風呂場から洗面所に出た時と似た感覚だ。ぶる、と体が震えた。

薄目を開けた。焦点が定まらない。視界いっぱいの緑色。かなり遠くに陽が指しているのが見える。いつの間にか夜が明けたのか。ここはどこだろう。緑色は、木の葉っぱだ。森の中かな……。


 森の中で仰向けになっていた。はっ、と意識が鮮明になる。とたんに五感が澄んだ。土と木々、周囲に土の香りが、野草の香りがする。ドッドッド、と胸の鼓動が聞こえる。


 ザワザワ、サッ……といった葉擦れの音。周囲の音が痛いほど耳に届く。背中に触れる、少しひやりとした地面の感触。感触は冷たいが、大丈夫。寒いほどじゃない。口の中が乾いている。ごく、とつばを飲む動作をして、口の中に唾液を出す。


 パチクリ、と瞬きをした。まぶたの動きが軽い。何だろう。視界が広い。まぶたの範囲が広い気がする。まるで、目を見開いた状態でバチバチ瞬きをしているような感覚を覚える。視界に白い動物の毛が見える。右目と左目の間だ。毛の先には、黒くて湿った何かが付いている。


 彩佳(あやか)は仰向けから、体をよじって四つん這いになった。四つん這いになったはずだ。感覚がおかしい。両手と両膝ではなく、両手と両足裏が地面についている感覚が有る。あれ……少しうつむいて、耳を動かした。右にも左にも生き物の気配は無い。私耳を動かせたっけ。


 体が汚れてないかな。右手で胸を、体を触ろうとした。なんだろう。手が胸に当たらない。それどころか、右手がほぼ体と並行にしか動かず、左右に大きく振る事が出来ない。おや?


 彩佳はうつむいた顔の前に、右手を移動した。柔らかそうな灰色の毛が見える。毛艶は良い。これが有るから寒くないんだな。丸く小さい前足。指先にちょっと見える爪が可愛い。丸く小さい前足。足!?


 お尻に感じたことが無い感覚が有る。お尻の付け根の部分、尾てい骨のあたりだ。尾てい骨のあたりを右に左に意識すると、ぶんぶんと何かが揺れる感覚が有る。

 彩佳は右半身を下にして横になった。首を曲げ、腹を見る。右と左の両前足が見える。白く柔らかそうな腹の毛が見える。腹の毛の奥には、後ろ足が見える。尾てい骨のあたりを腹側に意識した。太く手触りの良さそうな、緑の毛が生えたしっぽがお腹を包む。しっぽの先は白い毛が少し生えている。


(小さく無力な姿にしか出来ず、ごめんなさい……)

 彩佳は少し前に聞いた声を思い出していた。と同時に悟った。これはあれだ。もふもふ小動物に転生する系の異世界転生だ。


 目の間に見える突き出た口先と左右にピピッと生えた獣ヒゲ。口先にちょこんとついた黒く湿った鼻。大きく動く左右の耳。体の割に大きいしっぽ。おそらく狐を一回り小さくしたもふもふ子狐の姿のはずだ。


 彩佳はBL(ボーイズラブ)だけではなくサブカルチャー全般に詳しく、なろうテンプレパターンからおおよその状況を理解した。

(まずは今いる環境の確認、自分が出来る事の確認、脅威と外敵の洗い出し)

(清潔な水の確保、寝床の確保、できれば焚火を起こして拠点を作る)

(拠点ができたら、周辺の探索と、安全な食事の確保)

(最後に転生した意味とか理由とか目的の考察だね)

 なろうテンプレのサバイバルパターンを想定し、行動方針を立てた。異世界転生特典のチートで何とかなるだろう。と気楽に考える。

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