名探偵対魔法少女☆ブリリアント・ア・ニッキ
この作品を読むものは、一切の期待を捨てよ(白目)
「こんな所に居られるか! オレは一人で行動させてもらう!!」
絶海の孤島に唯一そびえ立つ、豪奢で荘厳かつ華美極まりない洋館。
そこで、館の所有者とそれに深く関係する者達が集まって、小さなパーティーをしていた。
が、そこで事件が起きた。
殺人事件である。
パーティー中に館の所有者と口論となり、参加者一同が後ろ暗い事をしている同じ穴のムジナだと、わめき散らした柄の悪い男が殺された。
パーティーの翌日、いつまでも食堂へ降りてこない男を心配した館の所有者が、使用人に頼んで呼んできてもらおうとした際に、死んでいたことが発覚。
使用人が鍵がかかっていた扉越しにいくら呼び掛けても反応が無く、仕方なく管理室から鍵を持ち出して入室したら、死体があったと言う。
それで、全員でその死体が本当に柄の悪い男なのか、確かめた直後にとある男が叫んだセリフが冒頭のものである。
恐怖と怒りが混じった感情そのままに、場を単独で離れる男。
彼の名前は、ニッケー。
ビジネススーツを着こんだ、とても地味な男性だ。
館の所有者との関係は、実はあまり無い。
正確にはその柄の悪い男に弱みを握られ、部下や手下同然にこの館へ連れてこられた男だ。
あの柄の悪い男が殺されたのなら、繋がりのある自分も殺されるかもしれない。
そう思っての、現場離脱だ。
絶海の孤島で殺人事件。
こんなの連続殺人が起こる未来しかない。
そうしたら自分なんて真っ先に狙われて、死ぬしかないじゃないか。
自分が犯人でないなら、あの連中の中に犯人が紛れているのは確実だ。
誰か早く、名探偵を呼んでくれ!
名刑事でも良いぞ!
油断無く部屋に閉じ籠り、籠城していればいつかは、犯人が捕まって平和になる!
だから早く、事件よ解決されてくれ!!
「解決を待つんじゃないクル。 キミが解決するんだクル!」
そうやって怯えている男性に、不思議な声が聞こえた。
慌てて声の元を探すと、そこには謎の物体が。
「やあ! クルはクルクル」
「…………?」
自身をクルと名乗る謎の物体。
15センチ位の木の棒に、先っぽが小石みたいなのに繋がっている毛糸にしか見えない手足と、棒からはみ出て浮いている双瞳と口。
どこからどう見ても謎の物体。
そんなのを観察していると、何かの我慢の限界なのか、クルとやらが叫びだした。
「今回の事件の解決には、キミの力が必要クル!」
とてもよく分からない事を言い出す謎の物体。
なにせニッケーはそっちの仕事の経験がないのだ。
普通の事務員であり、推理小説を読む趣味すらない。
なのに事件を解決しろとか、無理が過ぎる。
それを謎の物体へ訴えたが、返答は次の通り。
「キミしか出来ないことクル!」
こいつはヤバい事態に巻き込まれている。
ニッケーはそれを確信した。
~~~~~~
あの後も根気強く問答し、面倒ごとの回避を試みたニッケーだが、結局謎の物体のしつこさに折れてしまった。
「良いクル? これから言う言葉を復唱してもらうクル」
「…………わかったよ」
ニッケーの瞳は死んだ魚の様になっており、もうどうにでもなーれ! の境地に立っていた。
それでもちょっと緊張したのか、ずっと深呼吸を繰り返している。
「“ブリリアント☆チェンジ!”と言うクル!」
「ぶりぶり……あ?」
困惑するニッケー。
だって何らかの契約とか宣誓とか、そんな言葉を言わされると思っていたから。
「“ブリリアント☆チェンジ!”クル!」
そんな困惑なんて知らず、謎の物体は謎の言葉を再度強要してくる。
――――ちなみに、ブリリアントとは 立派や素晴らしい 等の意味である。
「ブリリ、アント? チェンジ?」
ニッケーは謎の物体の勢いに負けて、ちゃんと復唱してしまった。
が、謎の物体から出ている空気は、とても不満そうだ。
「声が小さーーいクルーー、もう一度クルーー!!」
特に意味を見いだせない理不尽な指導が、ニッケーを襲う!!
「ブリリアントチェンジっ!」
「ブリリアントとチェンジの間に“☆”が入ってないクルー!!」
「普通は出せねーよ!?」
~~~~~~
「ブリリアント☆チェンジ!」
と、なんとか“☆”を出せる様になったニッケーに、変化が訪れた。
原色の光に周囲を包まれて、自身もその影響で輪郭くらいしか見えない状態に。
ビリィッ!!
「うわっ!? 大事なスーツが!!?」
それから服が全てビリビリに破れて散る。
が、輪郭のみなので裸は見えない。
……別に見たくもないが。
身長が変身前から15センチ位小さくなり、肩の形も撫で肩へ。
腰の位置もちょっぴり上がり、胴と足では足の方が長くなる。
そして全体的な肉付きが丸々ぷにぷにとした感じに変わっていくが、そんな男を別に見たくはない。
それと言い忘れていたが、あくまでも変身用の演出なので、変身を解けばスーツは戻るので心配無用。
「うわわっ!? 今度はなんだ!??」
次は白いブラウスとなった光が上半身にまとわりつき、勝手に着用している状態に。
続いて茶色い地味なリボンタイが首に巻き付く。
とどめとばかりに、茶色のジャケットが肩にかけられた。
「うわわわっ!!? なんだコレ、なんだコレーーー!!!」
叫ぶだけでピクリとも動かない――――動けない?――――ニッケーをよそに、変化は続く。
下半身を覆う様に、茶色地のストッキングが。
更に腰から膝下辺りまでに、フリルが多量に使われた茶色のタイトスカート。
最後の仕上げにちょこんと茶色をした鹿撃ち帽が頭に乗れば、同時に後ろ髪が肩辺りまで延びるついでに黒髪から茶髪へ変わる。
それだけでなく髪の毛先から少し視線をずらせば、喉仏が消えている事がわかる。
ここまで来たら、後は決めポーズのみ。
体をカメラ (?) から見て横方向で80度位の角度にして。
右手で鹿撃ち帽のつばを触って。
カメラがありそうな場所へ、カメラ目線でニヒルな口角を作って。
はい、ポーズ!
まる1日を消費して、言葉に“☆”を混ぜられるようになったら、後は直ぐだった。
能動的にニッケーがしなきゃならないのは、決めポーズ位しか残ってなかったので。
そのポーズも、謎の物体が「ブリリアント☆チェンジと言ったら、必ずこんなポーズをするクル!」なんて言われていたので“☆”を入れるのと平行してずっと練習していた様なものだ。
「よし。 ちゃんと変身出来るようになったクル!」
「変身? そんなことよりおなかがすいたよ。 もう日が昇っているし、ごはんが食べたい」
喉仏が消えている所から推測できるだろうが、やはり声の高さが変わって、女の子らしい高さの声になっている。
「ごはんより事件の解決クル! 身だしなみを整えてから、全員が揃ってる食堂へ突入するクル!」
「訳が分わからねぇ。 けど、社会人として身だしなみが必要なのは同意する。 ええと、鏡、鏡~っと……………………なんじゃあ、こりゃーーー!!?」
「なんじゃあこりゃも何も、その姿こそが“ブリリアント・ア・ニッキ”クル!」
「ブリリアント・ア・ニッキクル! じゃねぇぇええーーー!!!」
余談だけど、ニッケーが籠る部屋から変な叫び声が上がるとして心配されたが、叫ぶセリフがセリフだったので気味悪がられて総スルーだった。
お陰でお昼と夜のご飯は食べてない。 とてもペコペコだ。
~~~~~~
「朝ごはんを食べてからにしたいんだけど、ダメか?」
「駄目クル! 既にヤツは動いているクル! 早くどうにかしないと、もっと人が死ぬクル!」
「……畜生め」
「分かったなら、みんなの反応がある食堂へさっさと入るクル!」
そんなやり取りを済ませ、ニッケーは食堂の扉を開けながら叫んだ。
「今から“ブリリアント・ア・ニッキ”が捜査を始める! 全員動くな!!」
そんな叫びが食堂の扉から聞こえれば、食堂に居た人たちは当然びっくりして、身をかたくする。
その様子に構わず、ア・ニッキが室内を見渡すと、違和感があった。
「昨日の朝より人数が減ってる……何があった?」
違和感の正体はすぐに分かり、疑問をぶつけてみたらすぐに返答が来た。
「昨日の朝の一人を含め、合計で三人殺された。 それと一人、部屋に籠って奇声をずっと上げている、心が壊れた者がいる」
……素直に返答が来たのは、そうとうに疲れているからだろう。
見知らぬ少女がいきなり出て来て、変なことを言っても誰も咎めないのだから。
咎めない様子を怪しんで全員の顔を見渡すと、食堂にいる者達は、昨日の朝より少しやつれている。
おそらく追加の殺人があって、まともに食事が出来ていないのだろう。
これに気付いたア・ニッキは、ごはんが食べられていないのは自分だけじゃないと、心の中でひっそりガッツポーズをした。
そして奇声を上げ続けている人に心当たりがあったが、そこにア・ニッキは触れなかった。
「分かった。 いまからその殺人犯を、見つけ出してみせよう」
代わりに、今一番必要な提案をしてみるア・ニッキ。
それに反応して、一瞬だが疲れた場の空気が吹き飛ぶ。
しかし一瞬は一瞬。
どう見ても十代半ばにしか見えない、それも茶色のビジネスレディスーツで社会人のコスプレして楽しんでいる様な子。
そんな子がどうにか出来るなんて、期待する方が間違っていると思い直して、再び空気が悪くなる。
しかし、しかしだ。
変な格好をしている少女がもし、本当になんとかしてくれるなら。
疲れた心が、つい期待してしまう。
「…………出来るなら、お願いする」
このまま正体の分からぬ殺人犯に殺されるより、この少女の出現で事態が動くなら。
ここは絶海の孤島の唯一の建造物である洋館。
なのに見知らぬ人間が居ることに気付かぬほど、洋館にいる人間は疲れている。
~~~~~~
「ではこれから、被害者の情報を集めようと思う…………で良いんだよな?」
ア・ニッキは小声で、ジャケットのピンブローチになりきっているクルとやらに、確認を求める。
なにせ探偵なんて、したことがないので。
一応手順を突入前に訊いていたが、自信なんてないのだ。
「その時に全員のそばを、グルグルまわることが大切クル」
なぜか供述だの証言だのに言及しないクル。
だがそれにア・ニッキは怪しいと思わずに、指示通り動く。
「う…………ううぅ」
今は存在証明の聞き取りの段階まで来ていたが、そこで一人の男性使用人が唸っている事に気付いた面々。
奇しくもそいつは、第一被害者の様子を見に行って死んでいたと報告した、その人だった。
全員がその使用人に注目していると、使用人が突然人間とは思えない脚力を見せ、食堂の隅にまで後ろ飛びした。
そこまで飛んでから鼻をつまみ、絶叫する。
「ニッキ臭えええぇぇぇっ!!」
鼻声だが、それは食堂全体に響く。
「この洋館の人間全てを殺して、俺が乗っ取ってやる計画だったのに、なんで俺の嫌いなニッキ臭をピンポイントで撒き散らす奴がこんな時に出てくるんだよ!?」
はい、犯人を発見。
この大暴言に反応したのは、謎の物体ことクルのみ。
「いたクル! あいつがクルの敵、犯人星人クル!」
あんまりにもあんまりなネーミングセンスに、一同呆然。
「ア・ニッキ! 今なら犯人星人はニッキの匂いで身動きが取れないクル! 必殺技で倒すクルよ!!」
「……っ!? おう」
クルのセリフに気を持ち直したア・ニッキは、静かに仁王立ちのポーズになってから、腰をゆっくり落とす。
腰を落としたときに、タイトスカートの性質から裾が太腿辺りまでずり上がったけど、気にしない。
そしてゆっくりと両腕を肩幅くらいの間隔をあけて、前に向けて手の平を突き出すと、声を張った。
「ニッキ飴ボンバー!!」
これも事前に、クルから教わっていた必殺技。
ポーズ込みでこうしろと聞いていたので、言われた通りについやってしまったのだ。
その必殺技だが、突然鹿撃ち帽が少し持ち上がり、頭と帽子のスキマが犯人星人へと向いた。
すると、そのスキマから何やら筒がのびてきて、ちょっと揺れて止まる。
そして動きが止まってから、1秒も経たずに……。
PON!!
そんな破裂音が宝かに鳴り響いたとおもったら――――
「ウギャアアアアアァァァァッ!!!」
犯人星人の体が穴だらけに……!!
…………ならず、何十何百と言う数の(推定)ニッキ飴が、犯人星人にめり込んでいた。
「うわ……痛そう」
やった本人が引いているが、それも当然。
クルがそうしろと言っただけで、ア・ニッキ自身はどうなるかを聞いてなかったから。
そしてこの行動が招いた結果を見たから。
「おのれぇぇ…………我らの天敵、ニッキ星人めぇぇぇ」
ニッキ飴がめり込んだ部分から煙があがり、やがて犯人星人の体がドロドロと溶けていく。
「ニッキ飴ボンバーは、対犯人星人用に特化して品種改良したニッキを使った、強力な飴クル! それの防御に服なんかでは足りないクル!!」
ついでに、やたらと殺意の高いクルにも引いている。
そんなア・ニッキなどを気にせず、勝ち誇るクル。
「犯人星人は絶対に許さないクル! あいつ等の存在は、宇宙の恥クル!」
この声を聞けるのは、今のところア・ニッキだけ。
しかもこんな色々と酷い状況になっていると理解したア・ニッキは、放心して佇むしかなかった。
本当は、
「こんな状況にまともで居られるか! オレは逃げさせてもらう!!」
と言いたいのだが、当事者の一人なので逃げられない事を悟ってしまったので。
この後、色々置いてけぼりになった連中を置き去りにしてア・ニッキは逃げる。
それでニッケーに戻って食堂へ顔を見せたら、なんか微妙な顔をされる。
んで、ドロドロになった犯人星人の残骸をゴミとしてまとめてポイしたら、とりあえずごはん。
そこで語られた事件の顛末と、生殺しになった未解明のアレコレへの文句を肴にして、食事は終了。
後はこの洋館の今後をちょろっと所有者が話して、孤島から離脱したらエンドクレジット。
蛇足
ブリリアント・ア・ニッキ
今回は揚げ玉ぼんb…………ゲフンゲフン。
ニッキ飴ボンバーだけを見せたけど、設定として存在している他の必殺技を含めてテキトーな部分を紹介。
ニッキ水○○
基本はニッキ水をぶっかけるものだが、高圧噴射する事でウォーターカッター的な使い方もできる。
水を剣みたいな形にすれば、格好をつけられる。
どうにしろニッキ水をかけられた犯人星人は、例外一つなくドロドロに溶かされる。
ニッキお芋ハンマー
ニッキがまぶされたさつまいものお菓子が、金槌の頭に替わって刺さっている、ハンマーを呼び出す。
古いアニメの、枯れ葉でやる焼き芋みたいとか言うな。
さつまいもで殴られて、メチョッとくっついた部分からニッキの粉が肌に浸透して、犯人星人はドロドロに溶かされる。
生橋/焼き橋カッター
某京都銘菓より。
カッター……と言うか投げナイフみたいに使って、相手の口へ放り込む。
犯人星人は、体内からドロドロに溶かされる。
ニッキ飴ボンバーの真実
ベルトのバックルから、散弾銃の弾みたくニッキ飴が撃ち出される予定だった。
でもタイトスカートに巻くベルトは、あまり目立たないタイプが多いので不適切と判断。
色々な場所を検討した結果、鹿撃ち帽からニッキの筒が出て、そこから撃ってもらう事で落ち着いた。
鹿撃ち帽の意味
意味はほぼ無い。 犯人星人を追いかけるのは探偵。
そんなふざけた連想から。
ついでにア・ニッキには喫煙用パイプも持たせる気でいたが、却下。
そこから 紙タバコ→却下→ニッキ棒 と検討が進んだが、あまり良い案と思えず、全白紙。
ジャケットの意味
男の矜持。 体が女性になっても、気持ちは男であるその証明。
なぜブラウスとタイトスカート?
社会人である矜持。 見た目が女の子でも、自身は社会人であるその証明。
なぜリボンタイ?
スーツで働く者の矜持。 弱みを握られ、柄の悪い男の下僕みたいな立場になっていても、スーツ姿ならタイを巻きたいと思うその証明。
…………ぼそっ(普通にネクタイでも良かったけど、魔法“少女”にさせたなら、ワンポイントでもリボンが欲しかったので)
ア・ニッキのプロポーション?
特には特徴は無し。
あの部分もいわゆる普通サイズだし。
微妙にお肉があって、肌を掴むとぷにゅっとする。
なぜ配色が茶色ばっかり?
ニッキだから。 画像を検索してみると良い。
決めポーズでニヒルな口角って?
実際はニヒルではなく、仕事に疲れて口元がひきつっているだけの、上手くできていない営業スマイルです。
なぜニッキ?
最近新しくなった、ミラクルなアニキを思い出したので。
それを脳内でこねくり回していたら、なぜかこうなった。
名探偵対魔法少女?
真実が語られた回のエンディング、又は次回のオープニングから少し変わって、対魔名探偵魔法少女となる。
対魔。 つまり感度がどーこーなっちゃうアレ。
じゃなくて、この犯人星人が、実は悪魔だったんだよ!
とかって伏線になるけど、絶対に回収されない。 なにせ続きを書く予定は無いので。
ニッケー
ニッキの別名で肉桂ってのが有るらしい。
どっかの新聞の略称では決してない。