切る
街の病院に運ばれたウルエジはすぐに手当を受け輸血をし、病室にいたが早くもその日のうちに院内を自由に歩き回れるほど回復していた。
医者はウルエジを運び込んたロッソとカラノスに話していた。
「いやぁ、驚きましたよ。彼の生命力には。」
「我々もです。まさかあそこまで歩き回れるようになるとは……」
「全くです。それと手術の際にわかったんですが、あそこまでの出血を、具体的に言えば全身の血液の25%以上を失っていながら体温の低下が異常に少ないんですよ。体も青白くならずに……」
「体温…ですか?」
「はい。明に酸素が足りず、呼吸も浅いのに体温だけが……原因も全くもって不明です。異常としか言いようがありませんよ。」
「はあ…」
数日後、退院したウルエジは朝早くから事務所に行った。
「お疲れ様〜」ネーナが胡座をかいたまま振り返って言う。
「いつもここにいるな。」
「そりゃね、ここ元々私の家だもん。それより、はいこれ、直しといたよ。」投げて寄越したのはウルエジのズタズタに引き裂かれた制服だった。
「それと、カーリーが裏にいるよ。あなたに用があるみたい。」
裏庭に行くとカーリーが焦げ茶色の丸木杭を積み上げていた。周りには何本か地面に丸木杭が差し込まれている。カーリーはウルエジに気付くと手についた汚れを払いながら近づいてきた。
「よぉ、この前はお手柄だったな。退院おめでとうと言いたいところだがな、お前にちょっと覚えて欲しいことがあってな。かなりキツイぞ。」言いながら今度は地面に刺さった丸木杭の近くまでより、腕を大きく横に振った。振り終わった手には剣鉈が握られていた。
「これだ。切断。」振り向きながら指で剣鉈を回し、鞘に仕舞い込むと丸木杭の上半分がポトリと落ちた。切り口はまるでまたくっつくのではと思うほど綺麗に年輪が見えていた。
「今のを素手でやってもらう。そこにあるのを切ってみな。」有無を言わさずという顔だった。
困惑していたウルエジはすぐに顔を引き締めて丸木杭の前にたった。腕を振り上げ、素早い手刀を繰り出す。丸木杭は激しく音を立てて折れた。しかし、折れた丸木杭には断面すら出来ず断ち切れなかった繊維が危なっかしく逆立っていた。
「もう一回。」カーリーの声が響く。
その後、再三再四挑んだが切断には程遠く皆不恰好にへし折れていた。ウルエジの手には無数の切り傷や木の破片が刺さっており、ついに手首を握りながら膝をついた。
「もっと力を抜かねぇと。」積み上げていた丸木杭をとり新しく3本地面に突き刺すと、その内の1本に近づき大きく手を横に振った。今度は手に剣鉈は握られておらず素手だ。残りの2本も同じようにする。いずれも先程の剣鉈を使った時程ではないが綺麗に切れた。
「十分に手刀を加速させたら今度は物体との摩擦を考えろ。摩擦による発熱で物体はより簡単な力で切れる。いいか、少なくとも一本、まぐれでもいいからできるまで続けろ。」
その後、ウルエジは1日中丸木杭に手刀を打ち込み続けた。カーリーは途中から見廻りに出かけたがそれでも休むことなく続けた。そして夕方になる頃、積み上げられた丸木杭は全てなくなり最後の1本を前にウルエジは涙目になりながら息を呑み手刀を繰り出した。丸木杭は見事に真っ二つになった。転がった丸木杭の片割れを見たウルエジは体を震わし歓喜の叫びを上げた。
その直後、気配を感じて振り向いてみるとネーナが手招きしていた。
「退院後の体でこんなことするとは思わなかったよ。私も何度か止めに入ろうとしたんだけどね、あんまり必死しなってるもんだから気が引けてねぇ。」事務所でウルエジの皮も肉も骨もズタボロになった手に包帯を巻きながら言った。
「よし、動かないでよ。」包帯の上からそっと手を置くとその部分がぼんやりと光るとたちまち痛みが和らいだ。
「痛み止めと回復促進の魔法よ。治ったわけじゃないから無理はしないようにね。」
その時、ネーナがハッと何かに気づいた。
「この前に続いてまた出たわね……」
「魔空生物か…」
「1番、近いのは……カーリーね。」
ネーナはすぐに伝書を傘鳩に持たせて飛ばせた。
しばらく後、傘鳩が帰ってきた。
「あら?伝書がついてる。何かあったのかしら?」
紙を開いて目を通すと、一寸困惑する様子を見せて、ウルエジを見つめた。
「カーリーがあなたに来いって……」
ウルエジはすぐに夕日の中に駆け出した。
「無茶するなって言ったばかりなのに…」