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食事


「お前が隊長の言っていた奴が。なるほど、お遊びとはいえカーリーと張り合えるのか。」興味深そうにウルエジを眺める。

カーリーからカラノスと呼ばれた男は近づくとと思いのほか背が高く、2人よりも頭1つ分抜き出ていた。そして、厚みのある擬態用の服が更に体格をよく見せている。


「カラノスだ。」手袋を取り、手を差し出した。


「う、ウルエジだ。」その体格差に一寸圧倒されながらも手をとるとカラノスの爪は非常に短く、指の皮がとても分厚く硬いということに気づいた。


「いつもあんな隠れ方を…?」初めてこの隊の隊員に興味を持った。


「ははっ、まあな。元々、こういうギリースーツ作りは趣味でやっててな。小さい頃は親に連れられて農場だの採掘場だので働いてて、その合間にちょちょいとな。まぁ、そのお陰で隊長に拾って貰えたんだがな。」


「自己紹介は終わったのか、カラノス。もうすぐ夕飯だぞ。」ロッソがドアの中からキャンプに来た父親が家族を呼ぶ様に言った。


「あいよ、今行きます。」カーリーとカラノスが揃って返事をした。ウルエジもそれに続く。


事務所に入るとテーブルの上には美味しそうに大皿に盛り付けされた料理が並んでおり、窓から入ってくる夕日に照らされていた。

「いつの間に……」呆気に取られたウルエジが更にロッソとネーナの2人が作ったのかと聞こうとする前にカーリーが「出前だよ。ここにはキッチンなんてねぇからな。」と、ロッキングチェアを引っ張ってきながら言った。


「カラノスは服を脱いで体も洗ってこい。」とロッソが言った。「はい、すぐに……戻ってくる前に無くなったりしないよな?」弱々しい声で聞くと「保証は出来ねぇな。元はと言えばお前がカッコつけて出てくるのが悪いんだよ。」とカーリー。「もしかしたらウルエジが大食漢かもしれないしね。」ソファに座ったネーナが付け加える。カラノスはわざとらしい舌打ちを残してどこかへ走っていった。

そんな3人の会話も意に貸さず、ウルエジはネーナの隣に腰を下ろして、パンにかじり付きながらフォークを持ち、どれから食べようかと迷っていた。一方、床に座り込んだロッソはすでにスープを飲み干し空になった食器を自分の膝の上に置き、手をテーブルに伸ばし骨つき肉を自分の取り皿に放り込んでいた。

まだ食べ始めていなかった2人は顔を見合わせ苦笑いを浮かべながら目配せをして食事を始めた。

「こりゃ、カラノスの分、残らんぜ。」食べながらカーリーが言う。

「口の中に物を入れてしゃべるな。」


「ウルエジ、なんだかんだで結構食べるのね。」


「こんな飯が食えるんならもっと早くここに来るんだった…」目も合わせず忙しそうに言う。


「あはは、たった1日でこの隊に馴染んでるよ。半ば強引に入れられたってのによ。」


「それでいい。ウルエジの入隊手続きはもう済ましたからな。住民票がなかったから少し面倒だったが。とにかく、もう逃げられないと思え。」


「隊長、食事中なのに話が重いですよ。」


「いや、いい。どうせあのまま森で暮らしてても戦い詰めだったからな。飯がある分こっちの方が都合がいいってもんだ。」とは言うものの内心は無理矢理連れてこられたことに憤りを感じていた。それきり全員口数が減り食事のペースも遅くなった。


「あ、そうだ。お前ら、コレ。」ロッソが沈黙を破って軽い口調で言いながら小さな巾着袋2つ投げた。どちらもウルエジがキャッチした。


「コレは?」片方の巾着袋を掌の上でひっくり返すと金貨が6枚出てきた。


「今日の報酬、お前の初給料だ。もう片方はネーナの分。」それを聞きウルエジはネーナにもう片方の袋を渡した。すると彼女も同じように掌に金貨を出してそれを数え始めた。


「あれ?私の分の方が多い?」


「ああ、ウルエジにやった制服あったろ。お前の分から引き抜いといた。」


「ウルエジの奴、初給料なのに減らされてんのかよ!」


「別にいいさ。今まで無一文だったし、儲けた儲けた。」そう言いながら巾着袋に金貨を戻してポケットに入れた。


「あなた、意外となんていうか温厚なのね。私はてっきり飛びかかって無理にでも制服を返品させるかと……」


「ただ金と縁がないだけだろ。」


「ご馳走さん。」唐突にウルエジはそう言うと制服を持って事務所を出ていった。


「あいつ、絶対制服を売っぱらいに行くぜ。」カーリーが言うと、今度は扉からカラノスが入ってきた。


「さっき、例の新人が出ていったけど何かあったのか?」


「い隊長がウルエジの初給料を減らしちまってよ、そんで拗ねて出ていっちまったんだ。」


「いや、拗ねた感じでもなかったけど?」


「あいつはすぐに戻ってくる。それより、カラノスも食いながらでいいから聞いてくれ。ネーナ。」


「はいはい。」そう言いながら、ネーナはテーブルの中央に置いてある食器を除け、水晶玉を置いた。


「知っての通り、今日のオーリエスの群れを倒したのは同じく今日入ったばかりのあのウルエジだ。その際、ネーナも同行させたんだがその理由というのが……」


「ウルエジの戦い方で気になる点が在った。ですよね。」カーリーが被せて言う。


「ああ。ネーナの水晶玉に記憶させてあるんだが、まずは見てくれ。」そう言うと、水晶玉の中にはウルエジがオーリエスの群れと戦う姿が斜め上の視点から映された。4人が身を乗り出して覗き込む。


「この水晶玉、本当に便利だな。」


「しっ……!」


「ここだ!スローにしてくれ。」


そこはウルエジが蹴りを放つ瞬間だった。実はあの瞬間、薙ぎ払う様に繰り出された蹴りはオーリエスの群れを一気に蹴ったのではなく、一羽一羽の首を確実に折るように蹴っていた。


「確かに凄いが、別に気になるってことは……」水晶玉から目を離し、カラノスが言う。


「問題はだな、ウルエジの奴は自分の実力を正確に

把握しきれていないということだ。あくまでも、奴は自分が他の人間よりは全然強い、程度にしか認識できていない。」


「こんなことがあり得るかどうかは分からないけど彼自身の“感覚“や“思考“が“身体の突然変異“に追いつけていないの。この蹴り技も彼は薙ぎ払うつもりで出した。けど身体は確実に相手を仕留めるためにこんな形になり本人はそうなった事を自覚できていない。」


「はあ、それは分かるが、それでもいいんじゃないか?」


「いや、これがまた捻くれた問題なんだよ。奴とやったから分かるんだが、あいつ自分の体力量を計算して戦えてないんだよ。力加減も大雑把ですぐに息を切らす。もし相手が魔空生物だったとしたら、この癖は致命的だ。」


「なるほど、なんとなく話が見えてきた。」


「全員、察しはついていると思うが、ウルエジ程の実力が有ればこの街も安全だろう。その為にも俺達が全霊をかけて育て上げる。これが我が隊のこれからの方針だ。いいか、奴はこの街の新たな希望だ。」



一方その頃、ウルエジは服屋に行っていた。


「えっと、この制服の手直しをお願いしたくて……」


「あれま、またバスコ隊の制服かい。アンタらこの制服嫌いだねぇ。」



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