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演武

「それ、開けてみれば?」事務所のテーブルに足をかけてソファでくつろいでいるネーナが床に放り投げられた小包みを見ながらそう言った。

一方、ウルエジは落ち着かないのか焦ら立っていらのかという様子でそこら中を歩き回っていた。

返事はない。

「そ、んじゃ、私が開けよ。」それを聞いた瞬間、ウルエジも動きをピタリと止め、ネーナの方を眺めた。そんなことは気にせずネーナはヒョイとソファから飛び降り、小包みを拾い上げるとそれを色んな角度から眺めたり振ったりした後、巻かれている紐を解いた。すると、周りを覆っていた布もブワッと広がり中から紺色を基調とした軍服らしいものと革手袋が出てきた。


「お、ウチの制服だ。伝書を送るついでにあなたの身体のサイズを隊長に送ってたんだけどもうできてたのか。包んでいた布はマントだったのね。」服をつまみ上げながら言う。


「制服?アンタら全員違う格好じゃ……」


「んあぁ、ウチはそう言うの甘いからね。一応、元は一緒だけどみんな好きに改造しちゃってるんだよね。まぁ、デザインが気に入らなかったらあなたも自分が使いやすいようにすればいいよ。それよりこれ、着てみなよ。」と、正に服を買いに出かけた女性という口調でそういい、服をウルエジに押し付ける。


「……(俺はもう完全にこの隊の一員と認識されてんのか……)」顔を顰めながら服を手に取る。

「まぁ、後で着るよ……」と呟いた。


「ふぅん……お、隊長達が帰ってきた!」冷めた様に言った直後、水晶玉から見えたのか2人の到着を察知する。


「よ、帰ったぞ。プレゼントは気に入ったか?」


「それがお気に召さなかったらしいですよ。」首をすくめながらネーナが答えた。


「まあ大体予想はついてたが……今までこの制服気に入った隊員はいなかったし……」自分の服を引っ張りながらロッソは苦笑いを浮かべた。「あぁ、そうだ。ネーナ、今日はここで夕食をとることにした。」


「お、それは久々の隊員全員集合ですか?」


「いんや、ここにいる俺達と後“カラノス“が来ると言っていた。“コイノス“と“ゼノン“は用事があるってよ。なんでも、西区の例のおばちゃん軍団にまた美容に良い薬草を遠くまで採りに行かされたそうだ。」カーリーがロッソの後ろから出てきて呆れ顔で言った。


(カラノス……コイノス……ゼノン。残り3人の名前か……)顎に手を当ててウルエジはそう思った。


「仕事が無いとやっぱりそうなるのね……でも、本当になんでいきなり魔空生物が襲って来なくなったんでしょうね?」


「それは後で話す。それまでは各自いつも通り休んでてくれ。ネーナは俺と2階へ。例のモノを……」


「はい。」

2人は真剣な顔で階段を上がっていった。


「あ、そうだ。カーリー、お前ウルエジとやりたがってたろ。誘ってみたらどうだ?」と、階段の上から声がした。


「そうっすね。そうさせてもらいますわ。」頭にハテナマークを浮かべているウルエジの方を向きながら2階に聞こえるようにそう叫んだ。


「やるって何を……」


「所謂、手合わせって言うのか?要するに、表に出ろってことだ。」


「いや、でも……」


「つべこべ言うな、さっさと行くぞ!ほれ。」


断っても無駄だと悟ったウルエジはカーリーの後に続いた。

事務所には裏庭があり、床は荒い砂地そこそこ広くなっている。


「まぁ、今回は俺の興味本位だからな、軽〜くでいいぞ。俺もそこまで鬼じゃない。」そう言いながら素早く腕を振るとその両手には20cm程の鞘に納められた剣鉈が握られていた。「どうよ、面白いだろ。物を隠したり取り出したりする手品は得意なんだよ。鞘からは抜かねぇから心配すんな。行くぞ!」


「す〜……ふぅ〜……よしっ!」靴を脱ぎ捨てながら深呼吸をして構える。

次の瞬間、カーリーが地面を蹴り、飛びかかってきた。それに合わせてウルエジも飛び上がる。身体を捻り剣鉈の攻撃を交わし、空中でのすれ違いざまに全体重を乗せてラリアットをお見舞いした。カーリーは空を仰ぐ様な体制で背中から地面へ落ちていったがすぐに体のバネを使って跳ね起きた。


「うぐぇ……テンメッ、軽くっつたろ……」構え直しながら。


「ご、ごめん…鞘にしまってあるからって強気に出ちまった。」


「くっ、よーし、こっからはこっちもちょっと本気だすぞ。」そう言うと剣鉈を振り回しながら距離を詰めてきた。ウルエジが身構え、いつ攻撃が来るか見切ろうとカーリーの腕を目で追った。そして、遂に無造作に振られていた腕がウルエジに向かって振り下ろされた。ウルエジはすぐに攻撃が当たると予想した顔を防御する。しかし、振り下されたカーリーの手にはもう武器は握られていなかった。振り下された腕はウルエジのガードを素通りする。「残念!」ウルエジがそう聞いた時にはガラ空きになった脇腹にいつのまにか握られていた鉈の柄が突き刺さっていた。


「う……ゲェ……」腹を押さえながらゆっくりと後ろに下がる。


「ひひっ、言ったろ。こういう類の手品は得意だって。」自慢げに剣鉈を弄んでいる。「まだやるだろ?」再び構え直したカーリーがそう聞く。返事をしない代わりにウルエジも構え直し応えた。


「ゥッシャア!」掛け声と共にカーリーが駆け寄ってくる。それを迎え討とうとウルエジ。互いに常人離れした手数で攻め合い、どちらも躱す。その内、ウルエジが顔面を片手で掴み、足を払って押し倒した。しかし倒れるその瞬間、カーリーは剣鉈をウルエジの口の中にねじ込んでいた。

2人とも肩で息をしていた。ウルエジは手にこめていた力を緩めて離し、カーリーも口から鉈を引き抜いた。

その時、パチパチと拍手の音がした。ウルエジが辺りを見渡すが誰もいない。


「ふぃ〜、引き分けってところか。おい、カラノス!いつまでもウザったい拍手してんじゃねぇ!」

手についた砂を払いながら立ち上がってきたカーリーが斜め下を向いて叫ぶといきなり地面が盛り上がり茶色い塊が出てきた。


「久々に面白い演舞が見れたな。いつから気付いてた?」茶色い塊は衣服だった。何かの木の樹皮や枯葉を付けて周りに擬態するためのものだろう。その中に入っていた男がそれを自分で掻き分けて顔を出した。


「ウルエジ、こいつがさっき言ってたカラノスだ。」

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