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奇怪な男

 

この世界とはちょっとかけ離れた世界


魔法が使える世界


奇想天外な生物が出る世界


そんな世界のある国の片隅に街があったとさ


その街では頻繁に危険な生物が出現する。それに対抗し、街にいる正規の兵士や騎士達とは別に特殊な部隊が編成されていた。僅か6人という小規模な部隊ではあったが実力はお墨付き。しかし、ここ半年間、街が襲われることはなくその隊は最近では便利屋としてこき使われていた。


「は、はあ。無くなった本、ですか……」頭を掻きながらその部隊、“バスコ隊“隊員の男カーリーが言う。


「そうなんですわ。あたしゃ、この街の誰に何の本を売ったかはぜーんぶ覚えちょる。だから、本が盗まれたらすぐにピンと来るんですわ」丸眼鏡をかけた、ずんぐりむっくりした店長が本屋の前で苛立たしげに訴える。


「そうは言われましてもねぇ、ウチの仕事はそういったことは……」カーリーが言いかけると「わかりました、必ずやその本を盗んだ犯人を見つけ出し本をお返ししましょう」隊長のロッソが力強く応えた。


「ああ、早いとこ頼むよ」相変わらず苛立たしげに言い捨てて店の中へ戻っていった。


「ちょっとちょっと隊長、何言ってんすか……!本泥棒なんて見つけられるわけないじゃないすか!ウチらは探偵じゃないんすよ!」小声で文句を垂れる


「やかましい…!俺達もこの国を守る兵士だ。どんな小さなことだろうと、本職から外れていようとも住民を助けるのが仕事だろうが。ほら、犯人はきっとまた来る、さっさと張り込みの準備だ…!」同じく小声で厳しく言い放つとロッソはどこかへ行ってしまった。


「ちょ……ったく、結構なこと言っときながら俺に丸投げっすか……」ぶつぶつ言いながら適当に本屋の周りをぶらぶらしていると、店内で男が本を懐に隠して持ち去るのが窓から見えた。

「あぁ!嘘だろ!こんな真っ昼間から!……オイ、コラ待てぃ!」

大声でその男を呼び止めようとすると、男はすぐさま走りだし煉瓦造りの家に挟まれた大通りを駆け抜けていった。カーリーもすぐに走りだし追跡を開始した。

「チキショー、あの野郎無駄に速ぇぞ……」



数百メートルほど走ったのち、どこからともなくロッソが男の前に立ちはだかり、突っ込んで来る男を投げ飛ばした。その直後にカーリーも息を切らしながら合流した。


「馬鹿野郎!盗みを働く奴を大声で引き留める馬鹿がいるかこの馬鹿!」

「えぇ⁉︎隊長こそ、見てたんならすぐに手を貸してくださいよ!あとそんなに馬鹿って連呼しないでくださいよ!」

「まさか馬鹿正直に追うなんて思うか、何のための張り込みだ。それより、この男から盗んだ本の在処を聞き出さなけりゃな。」

「もう売っぱらっちゃったんじゃないっすか?」投げやりにそう言う。

「売ってなんかねぇよ、持ってきたきゃ持ってけよ…」仰向けに倒れた男がボソっと言う。


「よし、話のわかるやつだ、本のある所を言え。」


「俺の家にある。だが……普通の家じゃない。森の中にある。俺しか知らない。」


「森だと…デタラメこくんじゃねぇよ。あんなところに住めるかよ。」カーリーが喰ってかかった。それもそのはず、2人がいう森とは街に隣接する危険地帯でバスコ隊が結成された理由でもある“魔空生物“という未知の生物が生まれるとされる場所だからである。

しかし、男は一向としてそれが本当だと言い張った。

ロッソとカーリーは一寸顔を見合わせてこの男に家とやらに案内させることにした。


男は特に腕を縛られたりすることはなかった。というのも全く抵抗せずに観念した様子で自分の家に歩き始めたからである。

「お前、名前は。」とロッソ

「ウルエジ…」ボソっと返す

それ以降一切の会話はなく緊張した空気の中街を横切り森の中へ入っていった。中といってもほんの少し入った程度で森の入り口からは数十歩程度の場所だ。木が切り倒されていて開けていた。地上2.5メートル程の場所で雨除けと思われる布が張られている。

その下には寝心地を全く追求した形跡のない布切れで作られたハンモック、使われて間もなく黒い煙を細々と吐き出す焚き火の後、木材の大きさを測り損ねた手作りの歪んだ本棚といっぱいの本があった。


「家と言うよりは野営地だなぁ……」呆れた様子でカーリーが本棚の本を抜き出している。

何かに気づいたロッソは途端にウルエジと名乗る男の後ろ首を掴み焚き火の側に連れ行った。


「おい、これは何だ!」ロッソがもう片方の手で指差した場所をよく見ると白いゴツゴツとした破片が無数に転がっていた。ウルエジは黙っている。

カーリーもその声に驚いて本を投げ出し、焚き火の側に寄る。

「これは、何かの骨か?」そう言いながら周りの土を掘ると今度は破片ではない拳ほどの大きさの何か鳥類のような頭蓋骨が丸ごとひとつ出てきた。


「こいつぁ……たまげた……“オーリエス“の頭だ…」静かに腰を抜かしたカーリーが言う。


「お前、こいつを倒したのか……いや、食ったのか?」ロッソは特に驚いた様子もなくウルエジに聞く。今度はうなづいた。


「は、はは……ありえませんよ隊長。オーリエスは魔空生物の中では小ぶりで弱い方だっていっても人1人食い殺すなんて訳ない奴ですよ、それを食ったて……」

カーリーも口ではそう言うもののなんとなくその事実を確信していた。


「カーリー、本を店に返してこい。幸い保存状態はいい、盗まれたものをまた売るかどうかは店長次第だがともかく任務は完了だ。俺はこいつを事務所まで連れて行く。」


カーリーは何も言わず本を手一杯に抱えて一足先に街に戻った。


「ウルエジ、俺とこい。恐らく、今からお前の人生は大きく変わる。」



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