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勇者と魔王の後日談 〜クールな女勇者に振り回されるとある魔王のお話〜

作者: ふたば雅

短編第一弾になります。

どうぞよろしくお願いします。


「どうも」


「うげ」


未だ激戦の爪痕が色濃く残る魔王城最深部。

そこにかつて魔王と呼ばれていた男とそれを討ち滅ぼした勇者の女が対面していた。

勇者は自身の突然の訪問で呆気にとられている魔王のすぐ傍にある豪華な椅子にどかりと腰を下ろす。

元々はもっと意匠のこったデザインであっただろうに、今は正面から左の2割ほどが斜めに切り裂かれてしまっている有り様であった。


「この椅子右の肘掛けがないのが不便よね」


「お主が切り落としたんだろうが!というより玉座に当たり前のように座るな!」


「あっはっは。滅んだ国なんだから玉座なんかに何の価値もないわよ」


「それもお主のせいだろうが」


がくりと肩を落とす魔王を気にしない気にしないと慰める勇者。

はぁぁと深い深いため息をつきながら勇者から少し離れたところにあった瓦礫に腰を下ろす魔王。

その行動に不満げな表情を隠そうともせずに勇者は聖剣を魔王に向かって放り投げる。

放たれた聖剣は一直線に魔王が腰かけたばかりの瓦礫を粉々に粉砕して地面に突き刺さった。

いきなり支えを無くした魔王は突き刺さる聖剣の刃に向かって倒れかけたが必死の形相でそれをなんとか避けて地面に転がった。


「待て!本当に待て!今なんで聖剣を投げた!?危うく自重で切れるところだったぞ!最近運動不足でちょっとポッチャリしてきたんだからやめてくれる!?」


「そんな離れたところに座るからでしょ?もっとこっち来なさいよ。あとその剣も持ってきて。拾いに行くのめんどい」


「口で言えよ!しかもちょっと照れたようにそっぽ向くな!・・・って熱っ!!おい、熱すぎてこの剣持てないんだけど!」


律儀に聖剣を持っていこうと柄に手をかけた魔王であったが、聖剣に触れた途端、肉を焼くような音と共に手に走る激痛に我慢しきれず聖剣を取り落としてしまう。

ガランと地面に転がった聖剣から大きな金属音が響いた。


「由緒正しい聖剣よ。雑に扱わないでもらえる?」


「お主がそれを言うのか」


魔王の呟きに勇者は何の反応も示さなかった。

都合の悪いことは聞こえない便利な耳をしているようだ。

魔王も承知しているようでそれについては触れずに要望通り聖剣を勇者の前まで運んだ。

両手を焼け焦がしながら。


「あら、ありがとう。そんなになってまで私のために剣を持ってき来てくれるなんて。愛されているのを実感するわ」


「正直早く帰ってもらいたい気持ちが十割だ」


「十で割っちゃうなんてよっぽど帰ってほしくないのね」


「割るなよ!そのまま100%って意味だ!」


「ところで」


「本当に自由だなお主」


彼女が脈絡なく会話の内容を変えるのは「いつもどおり」だった。

魔王軍が単独で乗り込んできた勇者である彼女に殲滅されてから1年。

特に用事がないにも関わらず彼女は魔王に会うために、ここ、魔王城跡地までよく顔を出すのであった。


「自由は勇者である私が勝ち取る物だもの。その当人である私が自由でなくてどうするの?ま、実際は世界のためやら平和のためやらと綺麗事に縛られて自由なんて全くないブラックな人生なのだけれどね」


「お主も苦労しているのだな」


「そう。だからここで多少のわがままを言っても許されるのよ」


「許した覚えはないんだがなぁ」


「力で勝ち取ったのよ」


「不本意ながらそれなら納得」


魔王はガクリと頭を垂れる。

どうしてかわからないがこの勇者は魔王を殺すつもりはないらしい。

その代わり魔王以外の配下は全てこの世から去っているが。


「それでさっき言いかけたことなのだけれど、魔王軍の再編は進んでいるのかしら?」


「質問に質問で返そう。何故我はここで一人で居ると思う?」


「私と二人きりになりたいからに決まっているじゃない」


「決まってないんだなぁ・・・」


「そうでないなら一人の部下も集められない無能という事になるのだけれど、まさか魔王ともあろう貴方がそんなはず、ねえ?」


「その言い方と目をやめろ。普通に傷付く」


勇者の生暖かい視線に堪らず目をそらす元魔王。

しかし、魔王もこの魔王城跡で何もせずに時を過ごしていたわけではない。

どうにかして魔王軍を立て直そうと人員募集をしたことはしたのであったが。


「就活生の取り込みが上手く行かなかったのね?」


「言い方が妙に魔王軍らしくないところが引っかかるがそのとおりだ。お主が提案した『魔王軍幹部 七つの大罪』は特に大失敗であったぞ」


『魔王軍幹部 七つの大罪』

これは新魔王軍の幹部7人に与えられる特別な役職である。

「傲慢」「強欲」「嫉妬」「憤怒」「色欲」「暴食」「怠惰」からなり、魔王を表から裏から支えるエリート集団である。

である、いや、であった。

いや、であったはずなのだったが。


「何が大失敗なの?わざわざ貴方が好きそうなチューニビョウ的なものを考えてあげたのに」


「別に我はそういうものが好みなわけではないぞ!普通に我に仕えていた四天王とかそういうので良かったのに」


「四天王・・・あぁ四天王ね。貴方と戦う前に5人だか6人だか居たわね」


「四天王だぞ!4人だろ!」


「細かいわね。しかも過去に縋るとか女々しすぎ。そんなのだから壊滅するのよ」


「一から十までお主のせいだがな」


「で、何が大失敗なのって聞いているのだけれど?」


お主が話の腰を折ったんだろうが、という言葉をぐっと飲み込み遠い目をした魔王の脳裏には数日前の悲惨な情景が思い浮かんでいた。


「お主の言うように大罪の募集をしたのだ。『今なら憧れの役職持ちになれるかも?限定七名!未経験者大歓迎!』といった感じでな」


「アルバイトの募集かしら」


「違うわ!」


否定をしておきながら魔王自身も少しそれっぽいと思っていたが、今までそんな募集をしたことがなかったためこっそり人間界で情報収集をした結果、そのような募集の仕方になってしまったのだった。

しかし魔王を責めることは出来ない。

何故なら彼は情報収集からビラ作成、そしてビラ配布に当日の面接官まで全て一人でこなしたのだから。


「まぁそれでだ。大罪の名を与える幹部の募集をした結果どうなったと思う?」


「そうね。誰も来なかったといったところかしら」


勇者の返答に一瞬勝ち誇った顔をして「違うな」と答えた後、今度は一転、疲れ切った表情で魔王は続けた。


「いっぱい来た。200弱は来ていたはずだ」


「あら意外。貴方呼び込みの才能があるんじゃないの?」


「魔王にはいらん才能だなぁ。で、だ。来た事自体は良いのだが来た奴らが大問題だったのだ」


勇者は声を発することなく視線で続きを促す。

魔王もそれを察し、ひと呼吸置くと当日の情景を頭に浮かべながら言葉を発した。


「募集に集まった奴らの8割前後が『怠惰』に募集してきたのだ。奴ら曰く「働かずに幹部とかマジっすか」やら「俺マジ怠惰っすから。ちょっとそこらの怠惰なヤツとは違うっすから」やら「働いたら負けだと思っている」やら「レスバなら負けたこと無いです」やら!奴らは断じて怠惰などではない!あれこそ「強欲」だ!欲ばかりが深すぎる!!」


「あっはっは!それ面白いわね!」


「何一つとして面白くはないのだが・・・」


「他にネタはないのかしら?」


「ネタって言うな!・・・後は「色欲」がキツかった」


魔王は青ざめた顔で虚空に視線を投げる。

そして深く呼吸をすると当時を思い出しながら続けた。


「なんというかだ。あと一世代早ければ「色欲」として雇えていた者ばかりであった」


「どういう意味かしら?」


「察してはくれないのか。つまり、「色欲」に応募してきたものが皆、我の母親世代であったのだ」


沈黙。


「は?」


「出来れば二度言わせないで欲しかった。「色欲」に応募してきた者は際どい衣装で攻めた母親世代だったのだ!」


「あははははははは!!!」


涙を流しながら指を指し大爆笑する勇者に本物の殺意を抱くが、襲いかかったところで返り討ちに合うだけ、とぐっと我慢をする魔王。

その魔王の肩を笑いが止まらない勇者がバシバシと叩き続ける。

笑うと無意味に他人を叩く者が居ると思うが、勇者はまさにそのタイプであった。

容赦なく笑われることでどうでもよくなってきた魔王が情報を付け加える。


「しかもその内の一人が幼少期の友人の母親で「あらマオちゃん。おばさんもまだまだいけるでしょ?」と投げキッスをしてきた時には何故か我が恥ずかしさのあまり悶てしまったわ・・・」


「あっはっはっはっは!ひぃ、いっひひひひ!!く、くるし!」


笑いすぎて呼吸困難になり地面を転がる勇者は、魔王が見た中で過去一番苦しそうな姿をしていた。

直接殺し合いをしたときでさえここまで追い込むことは出来なかったことに大きな虚しさが胸をよぎる。


(我の大魔法より友人のおばちゃんの方が破壊力は上か)


ちょっと目頭が熱くなってしまう魔王であった。

しばらく悶ていた勇者が聖剣を杖代わりにして立ち上がると、大きく深呼吸をして魔王の近くにまた腰を下ろした。


「他は?」


「ないわ!」


「あら、残念。多分人生で一番笑えたというのに」


「それはどうも。勇者様にご満足頂けまして恐悦の至でありますよ」


「拗ねたの?可愛いわね」


「あーもう!ああ言えばこう言うやつだなお主は!全く勝てる気がせんわ!」


「今更気が付いたの?」


髪をかきあげ微笑む勇者の姿に何故か目を奪われそうになる魔王は慌てて話題を逸らすことにする。


「そ、そういえばお主はそれを聞きに来ただけなのか?」


苦し紛れでわざとらしい話題転換であったが、それはきちんと成功した。

一瞬キョトンとした表情になった勇者であったが、そうそう!と手を胸の前で叩くと、


「私、死ぬことにしたから」


とあっけらかんと言い放った。


「・・・・・・はぁ?」


死ぬことにしたから?

シヌコトニシタカラ?


「何よ変な顔して?聞こえなかったの?」


「むしろ聞こえたから変な顔になってるんだと思うが・・・って、え?何?お主死ぬの?」


「ふふ、人は誰でも死ぬのよ」


「いや、そんな臭い台詞は良いからってひぃぃぃ!」


神速で振られた聖剣により魔王の前髪が1cm短くなった。


「冗談よ。この前神様が目の前に現れてね。世界を救った褒美に転生させてくれるらしいのよ。しかも記憶を持ったままね」


「なんだと!転生だと!ということは何か?転生先で子供の頃から最強でそのまま世界最強になっていくということが出来るわけだな!「元勇者だけど転生したら世界最強になった」とか逆に隠居するもやはり最強で「元勇者、戦うのに疲れたから隠居するも勇者スキルで世界最強」とかそういうことをするつもりであろう!」


「貴方最強が好きね」


勇者の冷ややかな目にコホンと一つ咳払いをして心を落ち着かせ、柄にもなく興奮してしまった自分を戒めて魔王は気になったことを口にする。


「それで、いつ転生するのだ?」


「明日よ」


「え?無茶苦茶急な話であるな」


「私からも質問なのだけれど、私が居なくなると・・・寂しい?」


急に真面目な顔をして澄んだ瞳を向けてくる勇者に魔王の思考が一瞬止まる。

そして今までのやり取りが脳裏をよぎる。

そう、勇者とのこれまでのやり取り。

出会ってから今の今までの。

そう、答えは決まっていた。

わざわざ確認するなど野暮なことをするまでもない。


「寂しいに決まっておる」


こう答えないと死ぬ。

今までのやり取りから気に食わないことがある度に暴力を振るわれてきた。

先程1cm短くなった前髪が「返答を誤れば次は君が短くなる番だよ。何がとは言わないけど」と危険を告げてくれているようであった。


「そう言ってくれると思っていたわ。ふふ、では貴方が可哀想だから転生先はこの世界にしてあげるわ」


「なん・・・だと」


最大の仇敵を労せず排除する絶好の機会を失ったことに魔王は気付いた。

しかし、先程の回答で「いや、全然」などと答えていた場合、失っていたものはもっと別の大事なものになっていたに違いない。

つまり問われた時点で詰んでいたのだ。

むしろ詰んだ状態の中では最上に近い結果だったのかもしれない。


「け、軽々に決めることでは無いと思うぞ?ほら、異世界最強とかどうだ?」


あくまで最強に拘る魔王を一瞥する。


「別にこの世界でも最強だし」


「そうですよねー!」


勇者は呆れたように笑うと、がくりと項垂れる魔王に静かに近付き背後からそっと丸まった情けない体を抱きしめた。

そして驚き硬直する魔王の耳元で静かに囁く。


「ありがとう。今まで私の相手をしてくれて。平和になった人間界に私の場所なんて無いから嬉しかった。生まれ変わってまた勇者の力が授けられたら絶対会いに来るから。だから待ってて」


「・・・ふん。次は八つ裂きにしてくれるわ」


勇者がわずかに微笑んだような気配と共に魔王の背中から温もりが離れた。

そして振り向くとそこには相変わらずのキツい目付きをしたいつもの勇者がいつものように仁王立ちをしていた。


「さて、私は行くわ」


「もう来るな」


「ええ。一生来ないわ」


「二度と来るな」


「それは了承しかねるわね」


それじゃあね。

そう、短く告げると勇者は来た時と同じ様に一瞬でその姿を消した。

いつもの彼女らしいあっさりとした挨拶に苦笑し、わずかに残った体温を背中に感じながら魔王は一人つぶやく。


「・・・我も鍛え直さなければな」


たった一人が居なくなっただけの広間が、何故か先程までより広く感じる。

そのなんとも言えない寂寥感を誤魔化すように呟く魔王の姿はただの青年のようであった。






数十年後、魔王と七人の幹部が率いる魔王軍が世界を恐怖の底に陥れようとした時、一人の女勇者が勇敢に立ち向かったという。



その戦いの結末は、また別の物語で。


読んで頂きありがとうございました。

近い内に全く別の長編を投稿予定です。

もし見かけたら少々でもお時間をいただけると幸いです。


では、またどこかで。

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