Prolouge 1
初めまして! しめじです!
初めて小説を書きますが、どうか温かい目で読んでもらえると幸いです!
――――遺伝子情報、確認。虹彩データ、指紋データ、声紋データをもとに身元を確認中…………完了。性別、男。名前、佐々木ルカ。年齢、十七。ようこそ『アウスヴァル』へ、お気をつけてお進みください。
無機質な機械音声が止まると、静かな動作音とともに自動ドアが開く。
ルカは先ほど音声に促されたとおりに進み、『アウスヴァル』の中へと足を踏み入れる。
周りに島という島が存在しない島。所謂、絶海の孤島に存在する施設。それが天体研究施設『アウスヴァル』だ。
観測対象は星座や恒星、流星、火星や金星などの惑星。天体そのものや天体の動き、変化を観測することによって天体現象のデータ解析や仮説立証を目的に活動している。世界的に見ても大規模の施設であることはまず間違いがない。
しかし、ルカはこれがこの施設の表面上の活動と知っていた。
それを知ることになったのは、家に届いた一通の手紙と秘密保持と書かれた書類だった。
手紙の中には「適性があると認められ」や「世界を救うため」、「魔術とは」などと、正直ルカが耳を疑うような言葉が羅列されていた。しかし、その中でもルカの興味を引く一文が目に留まる。
――参加いただけるのであれば、あなた様のご家族、配偶者、特定の人物の安定した生活を保障します。
そんな文を目にし、ルカの頭に真っ先に浮かんだのは両親のことであった。
自分を育ててくれた親に孝行ができるのでは? と考えたルカは、書類に一通り目を通すと秘密保持の欄にチェックを入れて発送元に送り返した。
後日、母親から口座に謎の大金が振り込まれていたとの連絡が入った。何か知らないかと聞かれたルカは、事の顛末を教えようとして秘密保持の書類に書かれていた一文を思い出す。
――この件において、誰に対しても情報の拡散は認められません。情報の拡散が確認された場合は今回の契約は抹消され、お伝えした情報等について消去させていただきます。
咄嗟に「良いバイトが見つかった」と心配をかけない程度の嘘をついた。
終始母親は心配をしている様子であったが、ルカの「大丈夫」という言葉を聞くとそれ以上の詮索はしてこなかった。
数日後に自宅の呼び鈴が鳴り、出ると『迎え』を名乗る黒服の男性に連れられてルカは現在の場所に至る。
黒服の男はルカに施設の見取り図を手渡し、『14:oo』までにメインホールAという場所まで来るようにと告げてどこかへと行ってしまった。
玄関口で一人取り残されてしまったルカは先ほど受け取った見取り図を開き、自室と書かれた部屋を見つける。
「俺の……部屋か」
スマホの画面を開いて時間を見ると、現在の時刻は12:45。
予定の時間まではまだかなりあるので、ルカは自室へと向かうことにした。
幸い、玄関口からさほど遠くないところだったので迷うことなく無事にたどり着く。
「それにしても、本当に何もないなここ。天文なんちゃらって施設だったらポスターの一枚や二枚ぐらいはあってもいいと思うんだけどなぁ」
壁や廊下は潔癖を思わせる白一色で、無駄なものが本当になかった。
それ故ルカは、自室に辿り着いた際に白一色の壁に突如現れる自室の扉に何か違和感を感じていた。
扉の開閉ボタンのようなものを見つけ、ルカは少し躊躇いながらボタンを押した。
静かな動作音とともに扉が開くと、部屋が姿を現した。
「わっ!? 誰だい君は!?」
部屋の中には木製の机と椅子、白いベッド……とベッドに腰かけている少女がいた。
年齢は11~13歳ほど、小学校高学年を思わせる容姿とは裏腹に服装は大人びたそれであり、驚いた表情でルカを凝視していた。
「誰も何も……ここは俺の部屋のはずなんだけど」
「うん? ん~ん? ということは、君が一般人から選出された候補生君かい? あ~あ。それじゃあ私の秘密のさぼり場所とはこれでお別れかぁ。君、名前何ていうの?」
「佐々木……ルカだけど」
「ルカ? ……なんだか可愛い名前だね!」
屈託のない笑顔を見せながた言った少女の一言に、ルカは少しムッとした顔をする。
そんな様子に気づいてか気づかないでか少女はまた話し出す。
「私はアシュランド=スリズリー、ここで特殊技師兼候補生統括を担当しているよ。気軽にアシュリーちゃんと呼んでもいいよ~」
――ということはここの従業員? こんな子供が?
言葉には出さなかったが、ルカは内心驚いていた。まだランドセルを背負っていそうな少女が、こんな施設で働いているということに。
「あ、その顔は疑っているな~。こうみえても私は君よりも年上だぞぉ」
「え!? 嘘っ!」
ルカは驚愕の事実に、今度は思わず声に出していた。
その様子をみてアシュリーはケラケラと笑い出す。
「あはは! 皆はじめはそうやって驚くんだよね! さて、ルカ君はこの施設のことを見回ったかい?」
「いや、まだだけど。時間はまだあるし、とりあえず自室に行ってみようかなって思って」
「そして私と出会ったわけだ。フムフム、まあここに座り給え」
アシュリーはポンポンと自分が腰かけている場所の近くを叩き、そばに座るように促す。
ルカは人の部屋であるにも関わらず、まるで自分の部屋であるかのように振る舞うアシュリーに少しの不満を覚えたが、あえて口には出さずに促されるまま座った。
「それではお姉さんがこの施設、そして魔術について少しお話ししようかな」
顔を覗き込むようにして身を乗り出すアシュリー。その顔が近すぎてルカは思わず顔をそらす。
その様子を見てアシュリーはまたしてもケラケラと笑い出す。
ルカが再びムッとした顔をすると、今度は気づいたようで「ごめんごめん」と笑いながら謝る。
「それじゃあ、お姉さんが無知なルカ君にいろいろ教えてあげようではないか!」
ぺったんこな胸を自慢げに張って笑顔になるアシュリーの姿をみて、ルカは苦笑いをした。
「よろしくお願いします……」