女医さまの、語りは止まらぬ、躁のひと?
7
「家系図と病気を書くと、こんな感じですか?」
「ええ」
調査役はうなずいた。
家系図をみて、調査役はため息をつき、
「気づかなかったな。病気がいっぱいいるな。
私は何の病気になるんだろう。白血病かな。
私の白血球は大丈夫ですか」
「あ、それは平気ですね。まあ、今のところは。
でも、この血なら、あらゆる可能性をもってます」
「可能性…」
「あらゆる病の可能性」そう言って、女医はアメリカ人がやるように、肩をすくめた。
「そうですか」リアクションが大きくて、面白いような、疲れさせられるような、変な医者だなあと調査役は思った。
「健康診断では、いつも、ひっかかるんです。いつも、こうなんです」
「あまり、気にしてない?」女医は小首をかしげ、目をくりっとさせて言った。
「気にするも何も…」
「忙しくて、それどころじゃない」
「そういうことになりますかねえ」
「多いんですよね、そういう方。特に30くらいの若い方。まだ体力に自信あるし、そのうち回復すると思ってらっしゃる」
「まあ、そういうところもありますかね」
「また、そんな、他人ごとみたいに!お友達にも、いらっしゃるでしょう、似た方」
「ああ。そうですねえ。それで、心筋梗塞とかで、ぽっくり、死んじゃう。
ええ。朝、布団の中でぽっくりとか、ジョギング終わって気持ちよくぽっくり死んだとか、友達にいますよ」
嘘ではない。調査役には、実際、そのようにして死んだ高校時代の友人が少なくとも3人いた。
「3人…、いや、もっとかなあ学校時代の友達…」指折り数えながら、調査役は言った。
「そうですか。そうでしょうね。お客さん…
いや、患者さんは知らないだけで、実際には、もっとたくさん死んでるかもしれないですね。
もう死んでるのに、そのことに、自分が気づいてなかったりして!」
そう言って女医は、自分で自分の頭をたたき、「こりゃ失礼!大変なんすから、もう!」と言って笑い、舌を出した。
この女医は、やっぱり、変だ。と、調査役はあらためて思った。
女医は調査役には構いなく、カルテに色々続けて書いた。
一応、ドイツ語らしいのだが、幼稚園児が、下手ないたずら書きをしてるようにしか見えなかった。
しばらくして、カルテから顔を上げて女医は言った。
「で、どうします?」
「はあ?」
「お茶にする?それとも、歌?」
「・・・・・・」
「嘘ですよ。すみません。冗談。悪質な冗談。つまらなかったでしょう」
「何を、おっしゃりたいんですか」
「あ、いえ、その。注射にしますか。薬にしますか」
「はあ。それを私がきめるんですか…・」
「意見をきいてみたんですけど。ああ、でも、やめましょうね!」
「どうしてです!?」
・・・・つづく