女医さま、大いに語る
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猛然と、女医さんはしゃべった・・・!
「何といっても、悪玉コレステロールです。悪玉に支配された、悲しい暗黒街の血液です。とんでもない数値です。軽々と100を超えてます。この年齢で、このハイレベルは、あたし、はじめてみました」
「そうですか」調査役は女医の感動して言う様子に圧倒され、感動に足る何かを提供したのは、とても良いことだったのではないかとも思った。
「肝臓も、危うい。でも肝硬変にはまだ間がありますよ。安心できませんが、まあ大丈夫」
うん、うん、と一人で納得し、続いて矢つぎ早に質問を始めた。
日々の食生活、睡眠時間、運動量、基本的なことを丹念にきいてきた。
調査役は、ひとつひとつの質問に、生真面目に答えた。
女医は聞き取った結果を、黄色の鉛筆でカルテの上に書きつづった。
「あ、そう。朝ごはんは、なし。飯食うくらいなら、その分寝ていたい。睡眠四時間弱で、へとへと。仕事は大蔵省のお守り。モフ担っていうやつかな。そんな、たいそうなものじゃない?へえ」
女医は調査役の答えに対し、いちいち生き生きと反応した。
「ふーん。酒は毎日欠かしたことがない。15年間。継続は力ですね。はあ、そう!煙草は、40本くらい。そんなもんですか、うーん」
調査役は、そうして答えている間、頭がもうろうとする気配を感じた。目がうつろになり、視界にはいるものがみな、霞んでくる。しかし、そんな様子に気づかずに女医の質問は続いた。聞き取り結果を復唱しては、うなずいた。
「それでも食事は1日に4食。昼、夕方。そして午前2時に帰宅してヘッドホンで音楽を聴きながら相当量の酒、就寝前にやけ食い。やけ食いですか、毎日!」
調査役は、重たく鈍い肩凝りを覚えた。首を少し動かすと、電気のような痛みが肩に走った。
「痛い!」
「どうしましたか」
「いえ、ちょっと肩が痛んで」
「40肩の傾向もありますね」
「そうです。お腹も、いつも張ってます」
「その歳で。でも、毎晩腹12分目まで食べてるんですから仕方ないか」
女医は鉛筆の頭で頬をたたきながら言った。
「あなたはダントツです。わたしのお客さんの中で」
「お客さん?」
「あ、違った。患者さん」そう言って、彼女は快活に笑った。それから、また好奇の目を調査役に向けて、質問を続けた。
「お父さんやお母さんや親戚さんに、重い病の人とか、だった人はいますか」
調査役は考えるのと、肩凝りを直すのと2つの目的で、首をまわした。そして言った。父さんは、パーキンソン氏病。母さんは脳腫瘍。叔父さんは結核。別の叔父さんは癌…・
「アル中ってのもいたりして…」女医は元気に言った。
「ああ、います」そうだ、別の叔父さんはアル中だったし、おじいさんもそうだ…・調査役はそう説明した。
女医はそれを聞くと「やだあ!本当!」と口に手をあてて叫んだ。
それから熱心にカルテに何か書いた。
書き終わって、それを調査役に見せた。
・・・つづく