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ご病気の調査役  作者: 新庄知慧
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拘束されて首都高速

57


マンションの前に覆面パトカーが止まっていた。


白いクラウンだ。刑事2人のうち、若い方が運転席に座った。助手席に食事療法士の彼女、年かさの刑事、そして、生物を抱えた調査役が座った。


「その変な化け物、しっかり抱いてろよ。座席をよごすんじゃないぞ」運転席から若い刑事の声がした。


「ええ」


調査役は力なく言った。また、肩に鈍い痛みが走っていた。


助手席の彼女は振り返り、面白そうに、生物を抱いた調査役を見て、笑いをこらえるような顔をした。


隣に座った年かさの刑事もまた、調査役を見て苦笑いした。


午後も遅い時間だったが、空はまだ明るかった。車は横浜公園横のインターチェンジから首都高速にのった。


車内には、しばらく沈黙が続いていたが、それを破って隣の刑事が生物を見て言った。


「あんたのその、ペット…ですか…。一体何者ですかな」


調査役は黙ってうつむいていた。痛みが続いていて話す気にもなれない。


「見たこともないものですな」年かさの刑事は、しげしげと生物を眺めた。


「刑事さん、それはエンブリっていうんだそうですよ」助手席の女が口をはさんだ。


「えんぶり?」年かさの刑事はぽかんと口を開けた。


「最近、発見された生き物だって」女は言う。


刑事は、納得しかねるといった様子だった。


「はあ。こんなものが。お化けにしか見えないな。本当に、生き物なんですか」


「ええ。ね、そうでしょ、あんた?」彼女は調査役に同意を求めた。


調査役は顔を上げた。しかし声が出ない。


「どうなんだよ、おい」運転席の刑事が言う。


「…・私は知らない」


調査役は、かろうじて答えた。


年かさの刑事が調査役に言う。「いやに元気がないじゃないか。具合でも悪くなったかね」


「はあ…」調査役は、また、うつむいた。


「ヤクが切れて苦しいか」運転席から声がする。


「私は、麻薬なんかやっていない…」


調査役は下を向いたまま、力なく抗議した。本当に具合が悪かった。痛みが止まらず、瞼がときどき痙攣した。


「まあいい。話を聞くのは、署についてからだ」年かさの刑事が諭すように言った。


「さっきも申しましたが、このかた、昨日、私どもの病院にいらっしゃって、健康診断を受けられたんですよ」助手席の彼女が言った。


年かさの刑事がうなずく。「ああ。それで、薬の反応があったとうかがいましたな」


彼女は言った。「ええ。それで、健康診断の結果は、本当にひどいものでして。お体が悪いんですよ。血液が、本当に汚れてしまっていて」


「ほう。そうですか」刑事の声。


「ヤクのせいだったんでしょ?」若い刑事がぶっきらぼうに言った。


「それもあるし、生活が、ふしだらで…」女の声。


「そんなところだろうね…」若い刑事の声。


車内には、調査役に対する、悪意と軽蔑が満ち満ちていた。


調査役を侮蔑するような言葉が三人の間で投げ合われ、ときどき嘲笑が混じり、何か調査役に詰問する声もあった。


何を反論しても駄目な気配に支配され、どうしようもなく疲れた。


調査役に、鋭い痛みが走る。調査役は下を向いたまま、固く目を閉じた。


おい、泣くなよ、という若い刑事の声が遠くで聞こえた。


調査役は、目を開けた。視界に、あの生物の顔が現れた。顔を上げて、目を開け、調査役を見ていた。



少し笑っているみたいだ!



…ああ、少し元気になったみたいだな。いいよ、安心おし。僕がいるから、大丈夫。


君も何者か得体が知れないけど、僕が守ってあげよう。しかし、君は頭が大きいなあ。


また痛みを感じて、調査役は眉間に指をあてた。目を閉じた。


そして、この生物に似た生き物を思い出した。


その生き物を、調査役の父親がだっこしていたのを思い出した。


また調査役は目を開ける。


でかい頭。


その表皮には、かさぶたができ始めていた。背鰭が、心なしか小さくなったように思った。


少しづつ、抜け落ちているのかもしれない。調査役は、また、まじまじと生物を見た。


似ている…と、また調査役は思った。


すると少し痛みが和らいだ。


調査役の耳に言葉が聞こえた。


「…本当だ。ぴったり後ろから走ってくるな…」


年かさの刑事の声だった。


車内の様子は、さきほどとは、うって変わっていた。


車の外を見ると、川崎にさしかかるあたりだった。車は流れてはいるが、道路は混雑していて、スピードはあまり出ていない。


若い刑事の声がする。「そうです。インターから、ずっと、ついて来てるな。追い越しもしない。乗ってるのは、男が二人です。なんてやつらだ。こっちを警察とも知らないで…」


「おい、あんた」年かさの刑事が調査役に言った。「誰かがずっと、この車を尾行しているよ。あんたの知り合いかね」


年かさの刑事は、確認しろ、という風に指で後ろをさした。


後ろの車を見ると、男の二人連れ。


一人には見覚えがあるように思った。それは助手席の男だった。しかし思いせない。痴漢を捕まえた刑事に似ているが…


運転席の男にも見覚えがあるが、記憶が定かではない。


「どうなんだ」若い刑事がじれったそうに言った。


調査役はだまっていた。そして前を振り向こうとして、横を走る車に目がいった。


「あ」


調査役は、思わず声をあげた。



・・・・つづく

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