表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご病気の調査役  作者: 新庄知慧
54/64

また、あの関西弁だ

54


調査役は鞄の中から電話を出した。けたたましくベルが鳴っている。


「お邪魔かしら」彼女は言った。


「いえ。でも、ちょっと失礼」


そう言って、調査役はダイニングルームを出た。


携帯の受信スイッチを入れた。休日に電話を入れてくる人間なんていないはずだ。


電話の相手は予想がついた。胸騒ぎがした。


もしもし、と言っても、電話は少しの間、無言だったが、ややあって、聞き覚えのある関西弁の声がした。


「大変でしたな。さっきは」


「あんたか…。無事だったのかい」


「まあ、どうやら。あの方、頭おかしいんでしょうな」


「何の用だい。また妻の居場所がわかったのか」


「…・昨日の情報は、間違いだったようで。すみませんな。名前はあってたんですが」


調査役は、ふと気づいて言った。「あんた、どうしてこの電話番号を知ったんだ」


調査役の電話番号を知っているのは仕事関係の人間だけのはずだった。


「興信所ですから、調べればわかります」関西弁は、少し照れ笑いしてから言った。


「実は依頼人から聞きました。しかし、ありゃあ危ない依頼人ですな。私、恐くなりました。あなた、あの依頼人に狙われてますわ、きっと。殺されるかもしれん。私、さっきの件で、恐くなりまして、あんたに忠告しようと思って電話しました」


「忠告?それはご親切に」


「まあ、昨日ガセネタを流しといて、昨日の今日ですから、信じられへんやろけどね」少し言葉が切れた。それから、やや声色が変わった。


「これ、興信所としては依頼人への裏切り行為かもしれんけど、犯罪の手伝いみたいなことになっては、かないませんから、教えますけど、依頼人の方は、あなたがご存知の、さっき、あの新宿の劇場であんたを殴った方です」


「…・」調査役は頭の中が白くなった。どういうことだ?


「驚きましたか。…驚いてもいないようやね。知ってましたか」


「知らないよ、そんなこと」


「いえね、あんさん、石本さんの奥さんと、いい仲になったそうじゃないですか。それで、あんたの身辺を洗って、復讐の種を捜してたんですな」


「私が石本さんの奥さんと?そんな話はでたらめだ」


「そうですか。じゃあ、何だろうな。いえね、私のところには、監督先の信用調査ということでね、依頼があったんです。


官庁の方からこんな依頼があるなんて、珍しい仕事です。それで、あんさんの奥さんの失踪のことから調べたんです。


石本さんからは、あんたの奥さんの居場所がわかったら、教えてやれと言われてました。


で、妙なところから、奥さんの居場所がわかったんで、お教えした。


でも、さる筋から耳に入ったところでは、失礼ながら、あんたは石本さんの奥さんと不倫している…」


「そんな馬鹿な」


「いえ。少なくとも石本さんは、そう信じきってる。さっきも、そのことで、吠えまくってた。それで確信が持てました。


妻を奪われた腹いせに、あんたの身辺を洗って、何か弱みをつかんで、復讐をたくらんだ。


私は、奥さんが夜の新宿にいると言って、あんたをおびきよせる手伝いをさせられたんですわ」


「新宿では、確かにひどい目にあった…」


「そうですか。すみません。しかし、あの石本さんも、私まで使って、まわりくどい復讐をしはりますな。自分が表に出ないようにしようってわけやね…」


「どこかで会ってお話しませんか。電話じゃ、どうも話がよく見えない」


「いいえ。もうこんな危ない話からは手をひきますわ。ただね、さっきも言ったけど、あんたが気の毒になってね、電話しただけです。


あの石本さんは、エリートやけど、頭いかれてます。奥さんに逃げられたのは本当らしい。仕事でもなんかあったんとちゃうかな。


復讐すべき人間をメモに書き出して、そいつらを殺すのが、人生の目標というか快楽になってるみたいや。


さっき、そんなこと口ばしってました」


「私も、その一人というわけ…」


「一番新しい復讐相手やね」


「なんだそりゃ。誤解も甚だしい」


「うん。でも頭いかれてるから仕方ない。なんでも、学生時代の失恋相手とか、恋仇とか、6人いてはるそうですよ。


みんな殺すそうですよ。その人らが、人生を失敗に導いたって。お宅が、その6人目」


「そんな勝手な話があるか」


「あの人、エリートなのに気い狂ってるし、ほんまに暗い人やで。あんさん、危ないよ。はよう、警察にでも助けてもらいなさい」


「警察…」調査役は絶句した。


「あ、でも、警察も相手を選びなさいよ。あの人、大蔵省で警察関係の予算も担当したみたいや。警察にもコネがあるみたいよ」


「警察にもコネ…?」調査役の額に汗が浮かんだ。「ひょっとして、あの、セブンマイルの店の連中ともコネが…」


そう問いかけようとしたとき、ほな、さいなら、と言って電話が切れた。


調査役は、今の電話の話を、どう解釈したものか悩んだ。


考えがまとまらないうちに、キッチンの方で悲鳴が聞こえた。


思わず、調査役は悲鳴のする方へ走った。


・・・・つづく


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ