警察に行けば、また、そこに・・・
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入口に若い警官が立っていた。
これといって特徴のない、1度みてもなかなか覚えられそうにない顔の警官だった。
部屋の奥にスチール製の机がある。古い木製の茶色いドアがその横にある。殺風景を絵にかいた場所だ。
調査役は警官に、報告したいことがある、と言い、奥の応接に行き、話した。
「殺人事件?」警官は声をあげた。
調査役は昨日のセブンマイルでの出来事を話した。
警官は目を丸くし、メモをとりながら聞いた。
「そうですか。しかし、なんですぐに通報してくれなかったのでしょうか」
調査役は続いて外国人たちに追い回されたことを伝えた。警官は頷き、それは大変でした、と同情の声を出した。住所や名前を聞き、電話をかけた。
カプセルホテルで見た少年のことも、話しそうになったが、幻覚症の男と思われてはまずい思い、やめた。ましてや部屋の中にいる怪物みたいな生き物のことなど、話せるわけがないと思い、やめた。
電話で話す警官は、軍隊口調で、はい、とか、はっ。とか言い、かしこまっていた。表情はだんだんと険しくなった。
「お時間は、少しありますか」
「はい」調査役は答えた。
「ここで少し、お待ち願えますか」
「ええ」
調査役は、その交番で40分ほど待たされた。何度も人が交番を訪れた。すべて、道案内を求める訪問客だった。交番はけっこう多忙だった。
やがてパトロールカーが到着した。
私服刑事らしい男が降りてきた。その刑事を見て、調査役は声をあげた。調査役が何か言うよりも先に、刑事が調査役に声をかけた。
「やあ。その節はどうも…」
地下鉄発砲事件で調査役に事情聴取した刑事だった。
「お宅さまも、不運ですな。事件続きで」刑事はポケットから煙草をだしながら言った。
「いや、どうも、これは…・」調査役はしどろもどろに言った。
刑事は煙を吐き出した。「立派なところにお勤めなのに、また、ずいぶんと、いかがわしいところへ、しかも夜おそくに出かけられましたな」
調査役は、ますます、しどろもどろになった。
事情があって、やむをえず行ったのだ。狼狽しているような受け答えはするまい、と思ったが、そう思えば思うほど、しどろもどろな感じになってしまった。
刑事は調査役を無表情に見据えて言う。「まあ、お仕事もきつかろうし、金曜の晩ですし」
「いえ、違うんです。人に呼ばれたもんですから」調査役はあわてて言った。
「呼ばれた?」
「ええ」調査役は、まずいことを言ったかと思った。
「知り合いが、あの店にいまして」
「どんな知り合いです?」刑事は興味を示した。
「いえ、知り合いが、あそこに来ていると、電話がありまして」
「だから、どんな知り合いです」
妻…
と言いそうになって、調査役は慌てて口を閉ざした。妻が家出しているなどと、言いたくなかったのだ。
すると、刑事の目が少し輝いた。この沈黙はまずかった。調査役は考えたが、間をおいて言った。
「妻です」
「奥さん?」
それはまた、妙な時間に妙な場所に奥さんがいたものですな、と言いたげな顔だった。
「…まあ、いい。ややこしい事情がありそうだ。そうですか。まあ、いい。とりあえずの本題とは関係ない…」
嫌な言い方だ。調査役は不安になった。交番に飛び込んだのは、失敗だったか…
刑事は話題を変えた。
「今、その、セブンマイルの店、現場検証してますが、連絡によれば、死体はない。
あの店は、地上屋にやられて、今は廃屋になってましてね。
ときどき、いかがわしい連中が出入りしてますがね。いかがわしいことをしてるらしい。
売春とか薬の取り引きとか。とにかく、死体はなかったです。しかし、お宅さまは、死体を、ご覧になったんですね」
「はい」
「死体が、どこかへ歩いて逃げたかな…」
そう言って、刑事は少し笑った。
「いや、失敬。からかうつもりじゃなくてね、狂言まがいのことも、ときどき、あるんですよ。
特に、薬の取り引きがこじれそうになると、脅しの材料に使おうとするらしい。
殺人なんか起きるとね、素人さんは、おどろいて、思わず大金も出してしまうんです」
調査役は黙ってうなずいた。そして、なに?と思った。
刑事が何を言おうとしているのか、ますます不安になった。
そして、つい、言ってしまった。
「化け物みたいな女もいました。それで、隣の部屋にいた男に、私も、銃で撃たれたんです」
「もう少しで、あなたも被害者になるところだった。と、こういうわけですな」
そして、刑事は思い出したように言った。
「そういえば。申し遅れましたが、あの地下鉄事件のガイシャです。あれは、麻薬の売人です。
客と取り引きしようとしてたんです。そこを、仲間に撃たれたんですな。いざこざがあったんです。
ブツを横取りしたらしい…・・。そういえば、あのとき、あなたも、もう少しで撃たれるところだったわけですな」
調査役はうなずいた。汗がでてきた。
刑事はうんうん、と頷いてから言った。
「でも、大丈夫ですよ、奴等だって、大事な客を撃つほどのヘマはしません」
調査役は、唖然とした。「なんですって?!」
・・・・・・・つづく




