表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご病気の調査役  作者: 新庄知慧
49/64

警察に行けば、また、そこに・・・

49


入口に若い警官が立っていた。


これといって特徴のない、1度みてもなかなか覚えられそうにない顔の警官だった。


部屋の奥にスチール製の机がある。古い木製の茶色いドアがその横にある。殺風景を絵にかいた場所だ。


調査役は警官に、報告したいことがある、と言い、奥の応接に行き、話した。


「殺人事件?」警官は声をあげた。


調査役は昨日のセブンマイルでの出来事を話した。


警官は目を丸くし、メモをとりながら聞いた。


「そうですか。しかし、なんですぐに通報してくれなかったのでしょうか」


調査役は続いて外国人たちに追い回されたことを伝えた。警官は頷き、それは大変でした、と同情の声を出した。住所や名前を聞き、電話をかけた。


カプセルホテルで見た少年のことも、話しそうになったが、幻覚症の男と思われてはまずい思い、やめた。ましてや部屋の中にいる怪物みたいな生き物のことなど、話せるわけがないと思い、やめた。


電話で話す警官は、軍隊口調で、はい、とか、はっ。とか言い、かしこまっていた。表情はだんだんと険しくなった。


「お時間は、少しありますか」


「はい」調査役は答えた。


「ここで少し、お待ち願えますか」


「ええ」


調査役は、その交番で40分ほど待たされた。何度も人が交番を訪れた。すべて、道案内を求める訪問客だった。交番はけっこう多忙だった。


やがてパトロールカーが到着した。


私服刑事らしい男が降りてきた。その刑事を見て、調査役は声をあげた。調査役が何か言うよりも先に、刑事が調査役に声をかけた。


「やあ。その節はどうも…」


地下鉄発砲事件で調査役に事情聴取した刑事だった。


「お宅さまも、不運ですな。事件続きで」刑事はポケットから煙草をだしながら言った。


「いや、どうも、これは…・」調査役はしどろもどろに言った。


刑事は煙を吐き出した。「立派なところにお勤めなのに、また、ずいぶんと、いかがわしいところへ、しかも夜おそくに出かけられましたな」


調査役は、ますます、しどろもどろになった。


事情があって、やむをえず行ったのだ。狼狽しているような受け答えはするまい、と思ったが、そう思えば思うほど、しどろもどろな感じになってしまった。


刑事は調査役を無表情に見据えて言う。「まあ、お仕事もきつかろうし、金曜の晩ですし」


「いえ、違うんです。人に呼ばれたもんですから」調査役はあわてて言った。


「呼ばれた?」


「ええ」調査役は、まずいことを言ったかと思った。


「知り合いが、あの店にいまして」


「どんな知り合いです?」刑事は興味を示した。


「いえ、知り合いが、あそこに来ていると、電話がありまして」


「だから、どんな知り合いです」


妻…


と言いそうになって、調査役は慌てて口を閉ざした。妻が家出しているなどと、言いたくなかったのだ。


すると、刑事の目が少し輝いた。この沈黙はまずかった。調査役は考えたが、間をおいて言った。


「妻です」


「奥さん?」


それはまた、妙な時間に妙な場所に奥さんがいたものですな、と言いたげな顔だった。


「…まあ、いい。ややこしい事情がありそうだ。そうですか。まあ、いい。とりあえずの本題とは関係ない…」


嫌な言い方だ。調査役は不安になった。交番に飛び込んだのは、失敗だったか…


刑事は話題を変えた。


「今、その、セブンマイルの店、現場検証してますが、連絡によれば、死体はない。


あの店は、地上屋にやられて、今は廃屋になってましてね。


ときどき、いかがわしい連中が出入りしてますがね。いかがわしいことをしてるらしい。


売春とか薬の取り引きとか。とにかく、死体はなかったです。しかし、お宅さまは、死体を、ご覧になったんですね」


「はい」


「死体が、どこかへ歩いて逃げたかな…」


そう言って、刑事は少し笑った。


「いや、失敬。からかうつもりじゃなくてね、狂言まがいのことも、ときどき、あるんですよ。


特に、薬の取り引きがこじれそうになると、脅しの材料に使おうとするらしい。


殺人なんか起きるとね、素人さんは、おどろいて、思わず大金も出してしまうんです」


調査役は黙ってうなずいた。そして、なに?と思った。


刑事が何を言おうとしているのか、ますます不安になった。


そして、つい、言ってしまった。


「化け物みたいな女もいました。それで、隣の部屋にいた男に、私も、銃で撃たれたんです」


「もう少しで、あなたも被害者になるところだった。と、こういうわけですな」


そして、刑事は思い出したように言った。


「そういえば。申し遅れましたが、あの地下鉄事件のガイシャです。あれは、麻薬の売人です。


客と取り引きしようとしてたんです。そこを、仲間に撃たれたんですな。いざこざがあったんです。


ブツを横取りしたらしい…・・。そういえば、あのとき、あなたも、もう少しで撃たれるところだったわけですな」


調査役はうなずいた。汗がでてきた。


刑事はうんうん、と頷いてから言った。


「でも、大丈夫ですよ、奴等だって、大事な客を撃つほどのヘマはしません」


調査役は、唖然とした。「なんですって?!」


・・・・・・・つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ