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ご病気の調査役  作者: 新庄知慧
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キャンディ・マミ

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遠い上の方から、音が次第に近づき、あっという間にすぐ頭の上まで近づいてくる。


最初はカサカサカサという感じの、蛇の尾みたいな音なのだが、すぐに竜の頭になって、カーーというような大音響になるのだ。


爆弾がおちてくる、という音だ。


裸の女は赤く染まって、赤黒い空間に溶けて見えなくなった。


そして、拍手が鳴り響く。真っ赤な東京の下町に、誰かがやってくる。


爆弾が雨あられと降り注ぎ、ステージの袖に仕掛けてあるフラッシュがいっせいに花火みたいに点滅した。ますます、ものものしい。


そして、また暗転。すると、天井の端から、一条の光。サーチライトだ。


そのライトが、舞台の上に人を浮かびあがらせた。


客席から、指笛が鳴る。


とたんに、ヌード小屋にありがちな、マンボみたいな、いやらしい音楽。


ライトがピンクになったり、青くなったり、白くなったり、忙しい。


ライトの中にいるのは、白いドレスの女だ。


調査役は、目を大きく見開いた。


美しい女性。肉感的。あの入り口の看板に出ていた女。


キャンディ・マミだ。


マミは、音楽にのって踊りだした。ライトが踊り動くマミにしたがって、おともした。


客席もときどき照らし出され、尾行男も見えた。また口をあんぐり開けて、だらしないこと、この上ない。


マミは、きわめて嬉しそうな表情で、生き生きしていて、性的だった。


セックスアピールたっぷりで、人気ストリッパーというのが理解できた。観客席が波打って、喝采のうずができた。


そして、一枚、はおっていたブラウスを脱ぐ。男の黄色い声があがる。


今度は、客に背中をつきつけて、チャックをはずさせる。ウインクして、客を悩殺する。


突然、脚をあげて、チラリと太股の奥を見せて、ターンする。まったく板についていた。


これが、あのカプセルホテルのテレビに映っていたのと同じ人物か、調査役はまったく確信がもてなくなった。


目をこらして、何度も自分の記憶の中の彼女と照らし合わせた。


ドレスを半分脱ぎかかった姿で、ブラジャーもはずれかかって、それを手で押さえて、内股になったり、リズムにのってタップを踏んだり、いやらしいさを発散させながら、楽しさにあふれたしぐさを、次々に繰り出した。


本当に、けれんみのないエッチそのものだった。


この女性は、あの妻と同性同名の女性なのか、いよいよわからなくなり、もっとよく見ようと思って、手すりを離れて前へ出ようと調査役は体を動かした。


それとほとんど同時に、マミは舞台を下りて、通路を踊りながら、歩き出した。


その顔が、さらに性的に、はっきりと見え始めた。


調査役は、ごくりと唾を飲み込んだ。そして後ずさりした。あまりに魅力的で圧倒されたのだ。


マミは、そんな調査役にはおかまいなく、踊りながら、どんどん通路を歩いてくる。


通路の脇の席にいた客が立ちあがり、ひときわ大きく指笛を吹いた。


背のひょろりと高い男。さっきから指笛をさかんに鳴らしていたのは、この男だったらしい。


マミは、この男に顔を向けて、笑った。


その笑い、それは、このマミの性的な魅力の本質がどこにあるかを現していた。


それは、白痴美だったのだ、はくちのマミ。それが見る者を魅了してしまうのだ。


と、マミと顔をあわせていた男を見て、調査役は仰天した。


石本補佐だ。


そんな調査役の驚きにも、もちろん関係なく、マミはぐんぐんと調査役に近づいた。


ついに、すぐ目の前にきた。マミの顔と体が、すぐ目の前にあった。


口が半開きで、目はとろんとして潤んでいた。それは白痴そのものの顔だった。


調査役の顔を見ても、白痴はやはり白痴だった。


照明がその顔をとらえ、吐息が悩ましく調査役にかかった。


そのとき、マミが、半開きの口で、何か喋ったように思った。


マミの顔の向こうに、こちらを見る尾行男の姿が半分見えた。


 目の前のマミは、やはり白痴だった。


そして、また、しきりに、何か言った。


 急に着ていたものを脱ぎ、ブラジャーも完全にはずした。


 まばゆい大きな胸が現れたに違いない。しかし調査役は、マミと顔をあわせたまま、微動だにせず、マミの瞳を見つめた。


 彼女がしきりと言っていた言葉が、調査役にやっと聞こえたのだ。こう言っていたのだ。


 「おむら、さん。おむら、さん…」


彼女の目は虚ろだった。正気の人の目ではなかった。しかし、涙が流れ出した。


 どうしてなのだ。調査役は著しく混乱した。そして彼女は、調査役を抱きしめた。


 裸の胸が、調査役の胸にあたり、暖かかった。


 熱い吐息とともに、おむらさん、おむらさん…という声が、泣き声に変わっていくのを感じた。まるで、再会に感激した、とでもいうような泣き声…


彼女の芳香にむせかえりながら、調査役も、感激したように思った。


そのとき、調査役の後頭部にすごい衝撃が加わった。


さっき落下した爆弾のひとつが、今ごろになって命中したのかと思った。


 痛いと思う間もなく、調査役はそこにぶっ倒れた。


 ・・・・つづく




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