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ご病気の調査役  作者: 新庄知慧
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小さき神の、創りしもの 

 40



袋の裂け目から、槍か角が勢いよく飛び出すかと思って、調査役は身構えた。


しかし、破れた袋から出てきたのは、1本の管だった。真っ赤に染まった管であった。


 その管から、赤い液体が流れ、テーブルの上が赤くなる。


また、「ひっく、ひっく」というしゃくり上げるような声がして、その袋は、弱々しい動きになった。


 「ひっく、ひっく、ぐうぐう…・」と、繰り返し声を発し、次第に声は小さくなり、だんだん弱って、死んでゆくような感じになった。


やがて、袋は動かなくなった。


しばらくの間、調査役は椅子にへばりついたまま、唖然としていた。奇妙な袋。一体こいつは何だっていうんだ。


何分したか、何十分たったか、わからない。


「大変な朝食だなあ」と、調査役をひとりごとを言った。そう言って、なおも袋を見続けた。


「死んじゃったのか…・」またひとりごとを言って、袋に近寄った。


袋に触れると、それはもう冷め切っていた。袋の端と端をつまみ、調査役は思い切って引き裂いた。


中から、それが姿をあらわした。


調査役は、息を呑んだ。喉から内臓がすべて飛び出してしまったように驚いた。


…・それは、怪物だったと言うべきだろう。


頭はいやに大きかった。目は閉じられていた。


 その、目と目の間はいやに広く、鼻は低い。あごのあたりには、スリット状の穴があり、それは鰓らしかった。


 手には水掻きがついている。口は三つ口で、とがっていて、犬の口だった。背中に鰭みたいな突起があり、お尻のあたりにまで続いていて、お尻からは尾が飛び出ている。


 腹から管が出ていて、それは先ほど袋を破って外に出た、あの赤い血を吐く管だった。


「…・」


調査役は、気が動転した。目を閉じて、また開き、そして、またひとりごとを言った。


「個体発生は、系統発生を繰り返す」


その生き物は、胎児から人間の赤ん坊になる途上にある生き物に思われた。


人間の胎児は、たしか、魚類や爬虫類やその他の生き物の進化の過程を踏んで、人間の赤ん坊に成長してゆくはずだ、と調査役は考えた。


 こいつは、その過程にある生き物だ。


…・しかし、目の前にいる、この生き物は、それらのプロセスが、ごちゃまぜになって、一遍に発現してしまっている。だから、人間以前の、人間になる生き物かもしれないが、ただの怪物なのかもしれない、と調査役は思った。


「なんだこりゃ。本当に、本物か…?」あまりのことに、調査役は、また自分で自分に語りかけた。


おもちゃじゃないだろうか?新宿のコンビニでは、冷凍食品のケースの中に、こういう科学玩具?を、そっとまぎれこませて販売しているのじゃないだろうか…


調査役は、その生き物の腹のあたりを、指でつついてみた。ひくり、と生き物が反応して動いた。生き物の目と口が開いた。


「ぎゃあああ!」


叫び声がした。


 しかし、それは、その生き物の叫び声ではない。調査役が驚いて、悲鳴をあげたのだ。


 調査役は悲鳴をあげ、キッチンの隅まで逃げていった。


冷蔵庫の影に隠れて、その生き物の様子をのぞき見た。


その生き物は、テーブルの上で、少し動いたが、また静止し、横向きになって寝たまま、また動かなくなった。


調査役は、おそるおそるテーブルに近寄った。


生き物を、そっとのぞきこむ…


その生き物は、また目を閉じていた。そして、閉じられた瞼から、透明な液体を流していた。


そして、つらそうな、悲しそうな顔をしていた。


もとより、魚だか犬だか人間だか分からない顔ではあったから、悲しいのかつらいのか、本当のところは理解できないはずである。


しかし、涙はやはり涙だったし、この小さな生き物が、こんな顔をしているのは、やはり、悲しくて泣いているのだと考えるのが自然だった。


「どうしたんだ…」


調査役は、その生き物に、思わず声をかけた。



・・・・つづく


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