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ご病気の調査役  作者: 新庄知慧
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奇怪な冷凍食品

39


調査役は、まじまじと、その袋を見た。ハムのはずじゃなかったのか?


30センチ四方の四角い袋の表は真っ白で、細か英字が書いてあり、ローストハムみたいな写真が印刷してあった。…英字は、しかし、よく見ると英字ではなかった。スペイン語か、イタリア語だろうか。調査役には読めなかった。


見つめると、また、「うわー」という声がして、袋がもぞもぞ動いた。


密輸品じゃないだろうか。中に生き物がいることは確かだ。電子レンジの熱で、生き返ったのか、孵化したのか…。


調査役は首をひねった。


この声。猫かと思ったが、鳥の一種だろうか。


赤ん坊の、新生児の声にも似ている。しかし、それにしては人間離れした声に思える。


調査役は、そっと袋に触れてみた。


とたんに、袋が、のたうった。袋の一部が突起して、三角形に盛り上がった。魚の頭か、蛇の頭が袋をつついたかに思えた。


…とかげ?へび?鳥?さかな?


袋の中の正体について考えているうちに、また袋が唸った。


今度は、「ググググ…・」という声、というより音。


まるで、下痢をしたときに下腹が鳴ったような、不健康な音だった。


しばらく、その音が続き、また、「うぎゃあ」という、今度は人間に近い泣き声がした。


調査役は、ためいきをついた。


一体これは何だ。


あの、新宿のコンビニでは、一体、何を売っているのだ。ローストハムだと思ったのに、怪物の袋詰めだったのか…。


きっと、この袋を破った日には、勢い良く怪物の触手か、角か、手か、何か知らないが、飛び出てくるにちがいないのだ。オカルト映画やSFXホラー映画みたいな、恐怖シーンが用意されているに違いないのだ。


そうこうするうちに、また、袋が動き、「にちゃ。にちゃ、ぴちゃぴちゃ」という、粘液質の音をたてた。


ぐずぐずして、何かが飛び出さないうちに、捨ててしまおう。


しかし、どこへ捨てよう?


このマンションの1階のごみ捨て場か?


この昼ひなか、1階のあたりには、先ほど窓から見た通り、買い物の主婦連中などがいることは確実だ。


袋をごみ箱に投げたとたんに怪物が現れる。


それを捨てた犯人が調査役であることは、何人にも目撃されてしまうだろう。


責任問題になる。もちろん、窓から投げたりしたら大問題だ。階下のみんなは大騒ぎになる。


袋が、また動いた。


調査役は動転した。


恐怖のあまり、叫びたい気分だった。しかし、叫んだのは、調査役ではなく袋の方だった。


袋は、火でもついたかのように、「ぎゃー」と叫んで、ぐらぐら揺れた。


調査役は、目を丸くして袋を見つめた。腰がぬけて、動けなかった。


ついに、袋の一部が破れた。


赤黒い液体が、ぽたぽたと流れ落ち、白いテーブルクロスの上に沁みていった。



・・・・・・・・つづく


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