奇怪な冷凍食品
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調査役は、まじまじと、その袋を見た。ハムのはずじゃなかったのか?
30センチ四方の四角い袋の表は真っ白で、細か英字が書いてあり、ローストハムみたいな写真が印刷してあった。…英字は、しかし、よく見ると英字ではなかった。スペイン語か、イタリア語だろうか。調査役には読めなかった。
見つめると、また、「うわー」という声がして、袋がもぞもぞ動いた。
密輸品じゃないだろうか。中に生き物がいることは確かだ。電子レンジの熱で、生き返ったのか、孵化したのか…。
調査役は首をひねった。
この声。猫かと思ったが、鳥の一種だろうか。
赤ん坊の、新生児の声にも似ている。しかし、それにしては人間離れした声に思える。
調査役は、そっと袋に触れてみた。
とたんに、袋が、のたうった。袋の一部が突起して、三角形に盛り上がった。魚の頭か、蛇の頭が袋をつついたかに思えた。
…とかげ?へび?鳥?さかな?
袋の中の正体について考えているうちに、また袋が唸った。
今度は、「ググググ…・」という声、というより音。
まるで、下痢をしたときに下腹が鳴ったような、不健康な音だった。
しばらく、その音が続き、また、「うぎゃあ」という、今度は人間に近い泣き声がした。
調査役は、ためいきをついた。
一体これは何だ。
あの、新宿のコンビニでは、一体、何を売っているのだ。ローストハムだと思ったのに、怪物の袋詰めだったのか…。
きっと、この袋を破った日には、勢い良く怪物の触手か、角か、手か、何か知らないが、飛び出てくるにちがいないのだ。オカルト映画やSFXホラー映画みたいな、恐怖シーンが用意されているに違いないのだ。
そうこうするうちに、また、袋が動き、「にちゃ。にちゃ、ぴちゃぴちゃ」という、粘液質の音をたてた。
ぐずぐずして、何かが飛び出さないうちに、捨ててしまおう。
しかし、どこへ捨てよう?
このマンションの1階のごみ捨て場か?
この昼ひなか、1階のあたりには、先ほど窓から見た通り、買い物の主婦連中などがいることは確実だ。
袋をごみ箱に投げたとたんに怪物が現れる。
それを捨てた犯人が調査役であることは、何人にも目撃されてしまうだろう。
責任問題になる。もちろん、窓から投げたりしたら大問題だ。階下のみんなは大騒ぎになる。
袋が、また動いた。
調査役は動転した。
恐怖のあまり、叫びたい気分だった。しかし、叫んだのは、調査役ではなく袋の方だった。
袋は、火でもついたかのように、「ぎゃー」と叫んで、ぐらぐら揺れた。
調査役は、目を丸くして袋を見つめた。腰がぬけて、動けなかった。
ついに、袋の一部が破れた。
赤黒い液体が、ぽたぽたと流れ落ち、白いテーブルクロスの上に沁みていった。
・・・・・・・・つづく




