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ご病気の調査役  作者: 新庄知慧
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これは・・・

38


その声のことを、初め、調査役は猫の鳴き声かと思った。


横丁のどこか遠くで、さかりのついた猫が鳴いている、そんな感じだった。


遠くから、細く細く聞こえたその声は、次第に大きさを増した。


調査役の部屋はマンションの4階にあった。


窓の外には、一戸建ての家が、軒を連ねて並んでおり、小さな庭のある家もあり、ときどき、野良猫の姿をみかける。


その猫の一匹が、このマンションの近くにやってきて、求愛のデモンストレーションを始めたのだろうか。


調査役は窓辺に寄り、窓の下を見た。


近くに商店街もあるので、往来には買い物らしい主婦や、子供たち、あるいは自転車に乗った男の人も見えた。猫はどこで鳴いているのか。


あの家の軒下だろうか、あの庭の塀の影だろうか、電信柱の影か。


しかし、そこには猫ではなく、中年の男が寄りかかって誰かを待っているだけだった。


声はもっと大きくなる。


調査役は、ぎょっとして振り向いた。その声は、調査役の背中から聞こえていた。


部屋の中には、冷蔵庫の作動音と、電子レンジのテーブルが回る音しかないはずだった。しかし、その声は、このキッチンから聞こえていた。


耳を澄ますと、


「ひーー」


という声に聞こえる。あるいは、


「あーー。あーー」


という感じでもあった。


きょろきょろしながら、キッチンの中を歩き回り、音源をつきとめた。調査役は、電子レンジのスイッチを切った。そして、レンジの扉を開けた。


その途端、「うあー、うあー」という声が、ひときわ大きく、爆発したように轟いて、調査役は腰をぬかしそうになった。


レンジからは、少しばかり、白い湯気があがった。


レンジの中の、不透明なビニール袋に手を触れて、あまりの熱さに声をあげた。


火傷したかと思い、水道の蛇口をひねって冷水を手にかけた。


すると、「ああー」という声が、また叫ぶ。耳に痛いような叫び声。


これは…・。調査役は顔面蒼白になる。


2枚のふきんでビニール袋の両端を持ち、そっと、レンジから取り出した。


ひく、ひっく、という声がした。ビニール袋が少しうごめいた感じがして、仰天して落としそうになった。


やっとの思いでテーブルの上に、それを置いた。


「ひくひく」


ビニール袋はうめきながら、少し動いた。


なんだろう、これは…?


つづく・・・・


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