これは・・・
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その声のことを、初め、調査役は猫の鳴き声かと思った。
横丁のどこか遠くで、さかりのついた猫が鳴いている、そんな感じだった。
遠くから、細く細く聞こえたその声は、次第に大きさを増した。
調査役の部屋はマンションの4階にあった。
窓の外には、一戸建ての家が、軒を連ねて並んでおり、小さな庭のある家もあり、ときどき、野良猫の姿をみかける。
その猫の一匹が、このマンションの近くにやってきて、求愛のデモンストレーションを始めたのだろうか。
調査役は窓辺に寄り、窓の下を見た。
近くに商店街もあるので、往来には買い物らしい主婦や、子供たち、あるいは自転車に乗った男の人も見えた。猫はどこで鳴いているのか。
あの家の軒下だろうか、あの庭の塀の影だろうか、電信柱の影か。
しかし、そこには猫ではなく、中年の男が寄りかかって誰かを待っているだけだった。
声はもっと大きくなる。
調査役は、ぎょっとして振り向いた。その声は、調査役の背中から聞こえていた。
部屋の中には、冷蔵庫の作動音と、電子レンジのテーブルが回る音しかないはずだった。しかし、その声は、このキッチンから聞こえていた。
耳を澄ますと、
「ひーー」
という声に聞こえる。あるいは、
「あーー。あーー」
という感じでもあった。
きょろきょろしながら、キッチンの中を歩き回り、音源をつきとめた。調査役は、電子レンジのスイッチを切った。そして、レンジの扉を開けた。
その途端、「うあー、うあー」という声が、ひときわ大きく、爆発したように轟いて、調査役は腰をぬかしそうになった。
レンジからは、少しばかり、白い湯気があがった。
レンジの中の、不透明なビニール袋に手を触れて、あまりの熱さに声をあげた。
火傷したかと思い、水道の蛇口をひねって冷水を手にかけた。
すると、「ああー」という声が、また叫ぶ。耳に痛いような叫び声。
これは…・。調査役は顔面蒼白になる。
2枚のふきんでビニール袋の両端を持ち、そっと、レンジから取り出した。
ひく、ひっく、という声がした。ビニール袋が少しうごめいた感じがして、仰天して落としそうになった。
やっとの思いでテーブルの上に、それを置いた。
「ひくひく」
ビニール袋はうめきながら、少し動いた。
なんだろう、これは…?
つづく・・・・




