その声・・・どの声、何の声?
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化け物みたいな赤ん坊だった。
本当に頭ばかりが、でかいのだ。しかも、かさぶたが一杯できている。
髪はまばらにしかない。
目や口や鼻もいやらしくて、赤ん坊と言うよりも、死にぞこないのくせに狡猾さだけはしぶとく残っている、老人の顔を思わせた。
いやな赤ん坊だ。
調査役はへきえきした。
よく見ると、父の後ろに素朴な服装の若い女の人がいて、ぴかぴか光るような笑顔を見せている。
母だ。
今はすっかり老人になって、髪は真っ白になってしまった、あの母が、清潔に貧しい笑顔で、とても幸福そうだ。
調査役は、また涙がでた。
なんで、こんな化け物の赤ん坊を、そんなに歓迎してくれたんだ。
いずれ恩知らずの悪魔の弱虫になるのに、父も母も、たいして金もなく、運にもめぐまれず、病気がちだったのに、なんで、そんなに喜んでくれたんだ。
調査役は目を覚ました。
そして、頬をつねった。
痛い。
目を開けて、あたりを見回した。カラーの画面で、物体はみな3次元のものだった。本当に、目が覚めたのだ。
もう昼過ぎだろうか。寝室の窓から、黄色いような暖かい日が差し込んでいた。
なんという夢だったんだろう・・・この間、実家で、未整理の古い写真が山とでてきたのを眺めたり、整理したりしたのを思い出した。
こんな夢を見たのは、きっとあのせいだろう、と思った。
写真のせいで、会ったことのないはずの人や、知らなかった記憶や出来事に、夢の中で遭遇したのだ。
写真のせいで、昼間会った人々が、写真にいた人に見えたのだ・・・・・?
・・・そんなことってあるだろうか。
やはり変な感じがした。
写真の人や、知らなかった過去の記憶が、調査役のもとに押し寄せてきたというのは、一体どういうことなのか。やっぱり変じゃないか。
ベッドから起きて、伸びをした。
とたんに、また、肩に痛み。そして鈍い肩こり。
まだ30代なのに、この体の痛みようは何だろう。調査役は、また嫌な気分になった。
洗面室で顔を洗い、歯を磨いた。
あの夢・・・一体、何だろう?
調査役は考えた。首をかしげた。そして空腹を感じた。
冷蔵庫へ行って、昨日の冷凍食品を出した。
ハムのたぐいだ。ろくに説明書きも見ずに、電子レンジに入れてスイッチを入れた。肉の入ったビニール袋を乗せたターンテーブルが、オレンジ色の光を浴びて回り始めた。
調査役はテーブルの前の椅子に腰掛けて、たばこを吸った。
そして、3分近く過ぎたころ、「その声」がした。
・・・・つづく




