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ご病気の調査役  作者: 新庄知慧
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セブンマイルへの旅

21



ドアを開けたら、薄暗い廊下だった。


「すぐ、右だよ、右」後ろの階段から男の声がする。


廊下は3メートルほどでの終わり、突き当たりに、椅子やテーブルが乱雑に積まれており、暗くてよくわからないが、背広の男が手前で椅子にこしかけて煙草を吸っているようだった。紫の煙がまっすぐにのぼっているのが見えた。


男の言うとおり右にいくと、受付窓口があった。けばけばしい飾りがしてあって、女性の裸の写真がいくつか貼ってあった。


窓口で金を払う。5千円だった。


その窓口は、調査役の胸くらいの位置にあって、狭く、手が出し入れできるだけで、窓の向こうに誰がいるのかは見えない。


客引きの男は、金を払う直前まで、後ろにいたが、いつのまにかいなくなった。


調査役は入り口を入り、渡された番号札と同じ番号の書かれた部屋を捜した。


狭い通路は、暗いオレンジ色の光が点ってるだけで、目をこらして、やっと番号が見えるのだった。


通路は曲がりくねっていて、部屋の入り口の引き戸はいやに低くて小さく、しゃがまなければ、部屋に入れないしくみだった。


ちょうど、屋敷の離れの茶室の入り口みたいな感じだ。


こういうところは、調査役は初めてではなかった。


東京へくる前、札幌にいて、もっと若かったころに、友人とふざけて行ったことがある。それで、もう、うんざりしていた。


もう、行くことはあるまいと思っていた。しかし、とんだはずみで、たった一人で、東京の歌舞伎町の、こんな店に来ることになってしまった。調査役は、何と感想を持ったものか思いつかなかった。


しかし、調査役はこの店に興味を覚えた。やはり札幌とは違う雰囲気がある。ここで、これから何が起きるのだ?


調査役は若かった。興味と期待と卑猥な気持ちで、興奮した。


実は、こうした店に入ることを、内心では期待して歌舞伎町を歩いていたのだろう。


指定された番号の部屋に、しゃがんで入ると、天井が実に低かった。立ち上がることはできない。中腰がせいぜいだ。


面積も狭い。布団が敷いてあり、コーナーに机、鏡、テレビなどがある。


すると引き戸があいた。


ミニスカートの、テニスルックと看護師の制服のあいの子みたいな服を来た女の子が入ってきた。


可愛い女の子だった。調査役は非常に驚いた。超美人、とは言えないが、アイドル歌手のバックコーラスぐらいなら、こういう子がいた。


彼女はひざまずいてお辞儀し、自己紹介した。残念ながら、この女の子の名前は覚えていない。


顔も、可愛かった、上等だったとは覚えているものの、誰ににているとか、詳細なことは覚えていない。


まもなく、彼女は言った。「ねえ、あたし、ジュース飲みたいな。のど、乾いちゃった」


調査役は、いったい、いくらのジュースか、目が飛び出るようなことになるだろうと予想したが、断れる雰囲気ではなかった。


オーダーを許した。彼女はインターフォンで注文した。


するとまた、彼女は言った。「システムなんだけど、聞いた?」


調査役は窓口できいたことを伝えた。


「ちがうのよ、それ。それは最低のやつ。本当は、もっと、色々、あるの」


そう言って、彼女は、サービス内容を、いろいろと説明し始めた。性器をさすったり、くわえたり、なめたり、という、めずらしくもない内容であったが、その値段は、いちいち高かった。


もっとも安いサービスでも、調査役の月給の4分の1近く…数万円、だった。


窓口で教わった、彼女が言うところの「最低サービス」によれば、この部屋に居られるのは、あと1分であり、1分したら、ここを出ていかなければならないのだった。


「何にする?」


彼女は超然として言った。妥協は許さない感じだった。


「そんなに高いとは知らなかった。帰るよ」


「まさか」


「そんなに、お金もってない」


「でも、ジュース、頼んじゃったし。ジュース飲むまで、つきあったら?半分、飲んでもいいよ」


「そのジュースってのは、いくらなんですか」


「会計できいて。あたし、知らないの」


「高いんだろうなあ。ジュース代も、払えるかどうか、それも心配だ」


「あんた、なにけちってんの。ここは天下の歌舞伎町よ。みんな、5万から6万は最低使ってくよ」彼女は、ふん、と鼻で笑った。


「それとも、あんた、田舎の人?ねえ、どこの人よ?」


とんだことになったと思った。調査役は内心で首を振り、ため息をついた。


「ねえ、どこよ。東北?多いよ、このへん、東北の人」


調査役はうんざりして言った。「横浜」


「へえ。横浜。横浜なら、あたし、お友達、いっぱいいるよ」


「そう…。あんたは、どこなの」


「東京」


「そう…」最近では、千葉も埼玉も・・・うっかりすると栃木も群馬も、みんな東京だと思ってる奴が多いからなあ。


さしずめこの子は、宇都宮か、習志野あたりの東京かなあ、などと、調査役は考えた。


「じゃ、たのんでくるから」彼女は言った。


「え!?」調査役は待て、とばかりに彼女に言った。「帰るよ、僕」


「まけてもらうから。いくらならいいの?」


それからしばらく、価格交渉が始まった。彼女はなかなか手強かった。


交渉決裂にもっていこうとする調査役をうまくとどめた。


何だかんだ言っても、彼女は可愛かった。


エッチな制服の女の子と、狭い密室で向き合って、しかも酩酊状態では、結局、女の子の言いなりになってしまうのは目に見えていた。


そして彼女は、ついに妥協点にまで交渉を持っていった。彼女なら労組幹部もつとまるかもしれない。


「Bコースね。3割引ね。じゃあ、たのんでくるから。待ってて」


そう言って、彼女は部屋を出た。


・・・・つづく

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