妖精の守護者 “ギリィ”
ふと感じた違和感。
首筋に感るチリチリとしたもの。
触れるが首に何も無い。
そこに目を向けたのは何となく。
動かした視線の先に、それは居た。
「え? 何これ」
手のひらサイズの緑色の塊だ。
そしてその繊維質な塊から真っ直ぐ伸びる一本の黒。
目を凝らして見て気付いた。
長身の銃だった。
てかギリースーツだコレ。
「うぉおお!?」
思わず顔を仰け反らせた。
瞬間、破裂音と共に目の前を何かが飛んでいった。
「危ねぇ!」
「“ギリィ”の隠密に気付くなんて……お兄さん、一体何者!?」
ただの大学生です。
「……百歩譲ってギリースーツは認めよう。スコットランドのギリードゥっていう妖精から取られているからな。でも銃器は駄目だろ!? こんな硝煙の香り漂わせた妖精は嫌だわ!」
過去の大戦の記録のせいか、手に持つ銃も小さいながらも本物だ。
再現された銃がスナイパーライフルということもあり、別の意味で殺意が高い。
「お兄さん危なかったね」
「いやホントだわ。何で俺、狙われてんの?」
「ん? ギリィが狙ったのはお兄さんじゃないよ?」
え? と聞き返す前にベリーが何かを担いで持ってきた。
「ホラ、もう少しで刺されるところだったよ」
それはオオスズメバチ。
頭頂部のど真ん中に穿たれた穴はギリィの腕前を表していた。
「近頃、この花畑を縄張りにしようとしている憎いアンチキショウの一匹だよ。お兄さんにも危害を加えようとするとは、ふてぇ野郎だよ!」
シュッシュッっと、死骸に向かってシャドウボクシングをしているのは、言っては悪いが幼い子共が遊んでいるようで和む。
「っと、助けてくれてありがとな」
突然の発砲に驚いたが、助けて貰ったのは確かだ。
「……っ!」
お礼を言うと、敬礼の後、花々の中に隠れていった。
「ギリィが無愛想でごめんね。あの子とっても恥ずかしがり屋で照れてるだけなの、内心はとっても喜んでいるから気にしないで欲しいな」
「気にしてないぞ。それにそういう事情があるなら、なおさら助けてくれてありがとうだよ」
「……お兄さんって良い人だね」
「そんなことはないぞ。ただ、仁義の問題だな」
少なくとも君達で卒論を作ろうとしている人間が良い人ではないだろう。
「……それはどうかな?」
モルフェが何かを呟いたが、聞き取れなかった。
「ん? 何か言ったか?」
「んーん、何でもないよ」
出会った時と変わらない天真爛漫な笑顔を浮かべている。
その笑顔は先ほどのものと違和感を感じるのは気のせいか。
「そろそろ、他の子の紹介に移るね」
「えっ、まだ居るの?」
こんな人気の無い山奥に“名持ち”が複数存在しているなんて事実は、数多くの報告書の中でも聞いた事はない。
原因を解明できれば学者としての道は明るくなるだろう。
……まぁ、発表したら荒らされる事にもなりそうだし、気付かなかった事にするか。
少なくとも彼女達の有り方に好感を覚えたというのもある。
人類に敵対的、または災害を齎すというのなら話は別だが、静かに暮らす彼女達を困らせる必要は無い。
ここまで歓待されておきながら、その好意を無下にする事はできない。
……研究者としては失格だろうけどな。
自分の格というものを思い知った気持ちだ。
「どうしたのお兄さん?」
「いや、何でもない。心配してくれてありがとな」
指の腹でモルフェの頭を撫でると、嬉しそうにキャッキャと喜んでいる。
「よーし、じゃあ次の子に行ってみよう!」
「次はどんな子なんだろうか……」
もはや開き直って楽しむ事にした。