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スライムに恋する話

作者: やまち

妄想をそのまま技術もなく経験もない状態で抽出した処女作です。

日本語や描写が拙い部分が多々あると思いますが、楽しんでいただけると幸いです。

人外の幼馴染っていいよね…

(この作品では10歳からの交流だから幼馴染じゃないのか…?)


「おはようティア!」


村の青年ヴァンが幸せそうに言い放った。 ヴァンは毎朝森へ出かけティアという女性に会うことを日課としており、森は村の掟により入ることを禁止されていた。


――――――――森に入れば恐ろしい魔物に骨まで食われる。


村に住むものなら誰もが幼いころから嫌というほど教えられてきた決まり文句である。


「ぬる、おはよう、ヴァン。」


木の裏から姿を現したのは、とても透き通った、水が固まったような水色のプルプルした生き物(人が呼ぶところの魔物である)のスライムの少女であった。


「今日もよく透き通っていて綺麗だなぁ…今日こそコアにさ、触っていい?」


息を荒くし手をワキワキするヴァン。


「ぬる、ダメ。それは"スキル"を授かるまでお預けのはず。 授かるのは15歳になった日の昼、つまり今日の昼でしょ」


と胸の中心にあるコアを触ろうとするヴァンを近づけまいとするティア。 その顔は仄かに色づいているように見える。


(はあああああああああああ可愛いいいいいいいい! 透き通るような水色が仄かに濃くなることで色に濃淡が生まれて元も綺麗だけどさらに綺麗にうわあああああ)


悶えるヴァンであった。




ヴァンとティアの出会いは5年前に遡る。 ヴァン10歳、好奇心からか、はたまた魔物を討伐しようと考えたか、掟を破り森に入ったことがあった。そこでスライムの少女ティアと出会った。


「ぬる、人間……? まさか私たちを狩りに……」


「透明で綺麗……」


「ッ!」


初めて見る魔物、その姿はあまりにも美しく、話に聞いていた残虐で人間を骨まで食べる魔物と同一とはヴァンには到底思えなかった。


「おい薄色のティア! そっちに何かいたか~? もし居たらお前のうっすい粘液で溶かせよ~」


突然響いた声に1人と1匹は同時に驚いた。


「ぬる、こっちに異常はない」


「ハッ、向こうまで見えちまうその気味の悪い透明な粘液が異常だよ」


と吐き捨て、魔物と思われる声の主は遠ざかっていった。


「君は……」


「ぬる、あなたたち人間が言うところの魔物、スライムよ。その中でも粘液の色が薄い透明で不気味なスライムが私、ティア。あなたは早く逃げればいい」


「さっきの魔物が言うように溶かさないの?」


「溶かさない、早く行って」


(なんだ…魔物もみんながみんな残虐じゃないんじゃないか……)


そんなことを考えながらこちらを見つめながらボーっとするヴァンを不審に思ったティアは一言。


「ぬる、どうしたの」


「いや、その透明な肌?が綺麗だなぁって」


「ッ!」


見る見るうちに顔周りの粘液が濃くなったティアは森の奥へ逃げ出した。


「あ! おれ! 明日もここに来るから おれヴァンって言うんだ! ティア! また明日!」




この日から毎朝会っては人間の暮らしのこと、魔物の暮らしのこと、夢を語りあった。


「私は、この森から出ていきたい。ここにいても私の居場所はない。ヴァンの夢は、なに」


「おれは幸せに暮らせればそれでいいかなぁ……年が近いやつなんかはギルドに入って魔物を討伐する、なんて言ってるけどさ」


「ぬる、ヴァンは、魔物嫌いじゃないの」


「おれだってティアをいつもバカにしてるっていう魔物は嫌いさ。でも種族として嫌いとかはないかな……人間の中だって嫌いな奴はいるし……そういうものだと思ってる」


「そういうもの……」


「そういうもの」


「ぬる、ヴァンが初めて会った人間でよかった。ありがとう」


「てっきり笑われるかと思った」


「笑うなら、毎朝会ったり、しない」


「そっか……」




それから5年が経った。


「じゃあ鑑定してくるよ! スキル、畑仕事なんていいかもな!」


「ヴァンらしい、スキル楽しみに待ってる」


「うん! 行ってくる! また明日!」


(楽しみに待ってるってえええ! ……戦闘系のスキルが来たら、そしたらティアをここから)




昼、村の鑑定所には年の近い友人や両親が集まっていた。


「ヴァン、毎朝どこに行ってるかは知らないが今日という日まで……」


「まぁまぁあなた、今日はめでたい日よ。 説教はなしにしましょ。 ヴァン、あなたは大丈夫でしょうけど、どんなスキルが出ても嫌がったりしないようにね。 授かったスキルはあなたを天職へと導くのよ」


「分かってるよ母さん、どんなスキルが出ても嫌がったりしないよ」


「では、鑑定に移りますじゃ。 ヴァン、この水晶を見るのじゃ。 そうじゃ、じきにここにスキルが……ッ!?」


驚き、静止している様子の鑑定士にしびれを切らしたヴァンは水晶を覗き込んだ。


「右手で触った者の命を奪うスキル……?」


「このスキルなら森の魔物を駆逐することも可能かもしれないですじゃ……さっそく村長に報告ですじゃ!!」


「ヴァンすっげえええ! これなら村の、いや遠くの町のギルドでも十分通用するスキルじゃねえか!」


「ウチのヴァンがそんなすごいスキルを授かるとは……」


「あなた……! 良かった……。 やったわねヴァン!」


盛り上がる周りをよそに、ヴァンは一つの不安を抱いていた。


(ティアに怖がられないかな…)




その後ヴァンのスキルは瞬く間に村中に知れ渡り、ヴァンは村人たちから森の魔物を全員駆逐してくれると期待された。


そして一夜明けた後、いつものようにヴァンはティアに会いに行った。


「おはよう、ティア」


「ぬる、おはよう。 ヴァン、元気ない。 スキル、畑仕事だった?」


「違うよ、右手で触った命を奪うスキル」


「ぬる、強そう」


「……怖くないの?」


恐る恐るヴァンは尋ねる。 ヴァンにとってティアに恐れられることというのが何よりも怖く、危惧していたことだ。


「なんで、ヴァンが持ってる分には怖くない」


しかし、ティアはまるでヴァンの言葉が理解できていないように言う。 それを受け、ヴァンは咄嗟に口を開いた。 考えるよりも早く言葉に出ていた。


「ッ! ティア! 突然だけど、おれと旅に出よう! ティアのことをバカにする連中なんかいないずっと遠いところへ!」


「……」


「……ティア?」


呆気に取られたように押し黙ったティアを見て、いくらなんでも急すぎたか、とヴァンは早まったことを後悔しかける。 だが、ティアはすぐさま口を開いた。


「夢、覚えててくれたん、だ。 うれしい。 ヴァンとならどこへだって、行きたい」


「……っしゃあああああああ! 明日出発しよう! 楽しみだなぁ! 朝だけじゃなく1日中一緒にいられるんだ! 色んな所へ行って色んなものを見て……」


その日の嬉しさは、きっと人生で一度きりしか得られないであろうものであった。




――――――――魔物の集落――――――――


(明日…もうここにいなくて、いい。 最後だと思えば、嫌いな集会も、気が楽)


魔物の集落では定期的に集会が行われる。 普段は人間への恨み言やどう食べるのが美味いかなど、ティアにとってはどうでもいいことを話し合っているのをひたすら聞くだけの無駄な時間であった。


いつも通りどうでもいい話が始まる、そんなことを思ったそのとき、魔物の中でも位が高そうな者が話し出す。


「今日は大切な話がある。 あの近くの村で最近15歳を迎えた青年がいた。 そのスキルのことなんだが……」


「ッ!」


思わず声をあげそうになった。 ヴァンのことで間違いない。


「そのスキルがなんと"右手で触った者の命を奪う"スキルだ! コイツのスキルは今後我等にとって重大な脅威になり得る! 脅威になる前に殺すべきだ!」


「やべえ! そんなスキルが生まれるなんて! オデ達を殺しにくるに決まってる!」


「ギルドに所属されると厄介だ。 先につぶすべきだ」


「殺せ! 殺せ!」


口々に魔物が罵声を上げる。 そのどれもがヴァンを始末するべきだという意見で、魔物たちが本来人間に抱く感情というのを体現しているかのようであった。


「待って!」


気づいたらティアは叫んでいた。 このままではマズイという想いが普段は喋ることすら許されないティアの必死さを物語っている。


「なんだぁ、薄色ティアじゃねえか! おめぇがしゃべっていい集まりじゃねぇん……」


「その青年がコチラに敵意があるとは、限らない。 もしかしたら、農家になるかもしれない。 決めつけで殺すなんて、あんまりだ……」


「あぁ!? てめぇ何寝ぼけたこと言ってんだ!? どうやってこっちに敵意がないと証明する!? ふざけるんじゃねえ!」


「待て!」


初めに話していた魔物が言った。


「コイツに証明してもらおうじゃないか、その青年に敵意があるのか、ないのかを……」


そう言って位の高そうな魔物はニヤリと笑った。





村ではヴァンの意志などよそに、ヴァンのギルド入りの話や、はては町のギルドへ行き経験を積ませた後に森の魔物たちを駆逐する計画まで建っていた。


当の本人は次の日の朝にこっそり旅に出るつもり(家に書置きは残すつもり)でいるのだが。 村長の家で明日のことを考えていたヴァンであったが、突然の来訪により思考はかき消された。


「村長! 魔物が大群を率いて村に迫っています! 話し合いを望んでいるようですが!」


「なに!?ギルドに戦闘要請、女子供老人は避難を。 話し合いにはワシが行く! おそらく狙いはヴァンであろうな……ヴァンよ、女子供老人と一緒に避難せい! 間違っても出てくるなよ!」


そういうと村長はどこかへ急ぎ出て行った。


(は!? 何が起こってるんだ!? おれを狙って……?そんなことよりティアは無事なのか!?)





「愚かな人間よ! 不侵条約を結んだ我ら森の魔物を……なんでも右手で触った者の命を奪うスキルを持った青年を筆頭に討伐しようという話が上がっているそうだな! その事実だけでも我らには身を守るために貴様らを殺す大義名分があるわけだが、チャンスをやる! そのスキルを持った青年とこちらの大切な仲間のスライム、彼女らが右手で握手を交わすことでそちらに敵意はないことを証明して見せよ!」


高位であろう魔物が村中に響く声で叫んだ。


「村長、あのようなバカげた取引に応じるわけには……」


「ああ、信用してはならん。 行っても殺されるだけだ、そもそも魔物と握手など出来るはずがない」


村人の言うとおり、身勝手かつ無理難題とも言える要求だ。 ギルドが来れば魔物はどうにかできる、それまでの間耐え忍べば問題なんて起きはしない。


「ええ、考えるだけで鳥肌が立ちます……では、徹底抗戦ということで……」


村としての方針が固まりかけたその直後に村の外に出た青年の声が響いた。


「おれが握手するだけで村には手を出さないんだな!」


ヴァンの視界の先には無理やり連れてこられたであろうティアの姿と魔物の長と思わしき者がいた。


「コイツで間違いないか?」


「はい、こいつが例のスキル持ちです」


「ふむ、あぁ、お前がこのスライムと握手をするだけで村には手を出さない」


(ヴァン……あそこまで出てきたらもう、逃げられない。 アイツは握手なんて絶対できないと思っている。

意識せずともスキルを発動すると……でも、ヴァンは発動しない。 なら、まだヴァンが生き残る道はある)


「約束だぞ」


「行け、ティア」


高位の魔物はティアを開放するとヴァンのもとへ促した。


「なぜヴァンが外に!!! イカン、このままではヴァンがスキルを発動させた瞬間殺される! スキルを発動した瞬間にヴァンを守るのじゃ!」


(スキルが発動した瞬間やつを殺せ)


(ハッ)




「ティア、手を握っていいかな?」


「ぬる、もちろん」


1人と1匹の間で交わされた握手は1秒、2秒、はては10秒まで続いた。


「なぜスキルを発動せん! ヤツは本当に例のスキル持ちなんだな!?」


「はい! ありえません! 人間の中に我ら魔物に嫌悪感を抱かぬものなどいません!」


それが常識だ。 人間と魔物は相容れない、それは最早人が呼吸をするかの如く当たり前のことであり、しかしそれを否定するかのような目の前の出来事に魔物側に動揺が走ったが、それは村側も同様であった。


「これで村には手を出さないんだな!」


握手したままヴァンは高位の魔物に向かい叫んだ。


「……信用ならん、その右手がある限り貴様が我らの脅威であることには変わりない」


このまま「はいわかりました」と退くことなどできるわけがない。 思い描いたものと違う光景を目の当たりにし、高位の魔物は静かに告げた。


「そんなことだと思った……ティア、ちょっといいかな」


ヴァンが何かをティアに告げた。


「ぬる、冗談、じゃない、のは分かる。 分かった、その代わり私が一生ヴァンを支える、良い?」


「あぁ、ありがとう」


そうヴァンが呟くと、右手でティアのコアに触れた。


スライムのコアは消化液を生成する機能があり、親しい中でもよっぽどのことがない限り触らせることがない部位である。 スライムにとって最も大切な部分、それこそ心から信頼した者にしか触れさせない大切なもの。


コアに触れたヴァンの右手は見る見るうちに溶けていく、その光景を見ていた周囲の者は人間も魔物も押し黙り、ただただ呆気に取られていた。 数秒、数十秒だろうか。 ティアの粘液から手を出した時には肘より先が存在しなかった。


「これで満足だな!さ、行こうかティア。」


「ぬる、どこまでも、一緒に。」


村、魔物、森全てを置き去って1人と1匹はその場から消えた。


その後、村や森の魔物がどうなったか、それを知る者はいない。




「おぉ! 思い通りに動くよティア! すごいや!」


そこには右腕の肘より先に透明な手の形をした液体とも個体とも言えない水のようなものをつけた人がいた。


「ぬる、良かった。 これでヴァンは私なしじゃ、生きていけない、ぬるぬる……」


「手があろうとなかろうと、ティアなしじゃ生きていけないよ」


「ッ!ずるい」


ヴァンはティアに向け笑顔で言う。 それを受けたティアは仄かに色を濃くし顔を逸らす。


「この先に魔物と人間が共存する町があるんだって、行ってみよう」


そんなティアに、ヴァンは指を指して言う。


「ぬる、ヴァンとならどこまでも、一緒に」

拙い作品を読んでいただきありがとうございました!

妄想を形にしたものにしては自分で結構気に入ってます。

また機会がありましたら、お会いしましょう。

お疲れさまでした。

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