廃遊園地を泳ぐ黒
掲示板に投稿という形で書いてみました。
あなたの怪談、話しませんか?
怪談#19456 発信者:290175
初めまして290175と申します。女子大学生です。私は1年程前、近場の廃遊園地を訪れました。園の名前は裏野ドリームランドと言います。最初は書くことを躊躇っていたのですが今後の皆様のため、書き残すことにしました。
その遊園地は私が小学6年生の時、閉園となりました。理由は遊園地内で子供が消えてそのままということが多発したためです。警察や周辺住民の捜索・監視も空しく事件は立て続けに発生し、そのうち信心深いご老人たちが神隠しだ祟りだと騒ぎ、マスコミの報道も過熱したため、園は人足が減り、その門は固く閉じられました。解体工事も行われずそのままです。
なぜ廃園に赴いたかというと私の趣味に高校生時代からの廃墟巡りがあったからです。最初は雑誌のおすすめの場所を訪れていたのですが灯台下暗し、廃遊園地の存在に気づいたのはその1年前でした。そして廃墟にはよくついて回る怪奇現象の噂がありました。行った人間が帰ってこない、帰ってきたら別人みたいだった等。
私は噂は噂、明るいうちに行けば何も問題ないと言い聞かせ、実行しました。
決行当日、天気は曇りでしたが私にはちょうどいい明るさでした。廃遊園地に着くと門は錆びていたものの、鍵がかけられており入れませんでした。諦めきれなかった私は、園の壁の周りを調べました。するとぽっかりと人を招き入れるかのような穴が開いていました。さっそうと駆け寄り穴をくぐると外から見るだけではわからない廃墟特有の雰囲気を感じました。気分上々で園内の風化したアトラクションたちをその目とカメラに収めました。アトラクション内に入れなかったことは残念でしたが……。
そして最後に緑で囲まれた場所へ行きました。背の高い草をかき分けて進むと多くの水をたたえた川のあるアトラクションが出迎えてくれました。近づいて水面を見てみると水は汚れきっていたため中は見えませんでした。写真を撮り終えたら帰ろうと思った瞬間、水を叩いた大きな音が耳に届きました。頭の中で水の音と疑問が頭の中で反響していました。数秒経って不安を感じ、近くの草木に身を潜めました。どうしようかと少し考えた結果、私はその場から立ち去ることにしました。
静かに立ち上がったその時、少し遠くから波を立てながら進む異様に黒いものが目に飛び込んできました。驚いてまたしゃがみ込み、草の中から不安の混じった好奇心で見続けていました。しかしこれが人生最大級の後悔の始まりでした。
黒いものは段々こちらに向かってきました。私と2メートルほど離れた距離になったとき、黒いものは己の顔を見せつけました。あの時の衝撃は今でも鮮明に脳裏に爪跡を残しています。地獄と見まがうほどの赤黒い頭に、場違いかと思うほどの白く濁った眼をたずさえて絶望そのものと言わんばかりの禍々しい気を浴びせられました。私は血の気が引くという言葉の意味を全身で理解しました。ただただ得体のしれない相手に身を震わせ、過ぎることを待つだけでした。黒いものは立ち止まって首を回した後、何もなかったかのように作られた川に消えました。見えなくなった瞬間、数歩後ずさりして脱兎のごとく逃げました。全力疾走で息を切らして力なく倒れこむと私は体中の水を垂れ流していました。目からは涙が、皮膚から汗が、そして尿を漏らしながら言葉にできない恐怖を嗚咽に託していました。
しばらくして少しだけ落ち着くと、母にメールを送りました。人前に出られない自分の惨状と何より一人で帰る勇気がありませんでした。母を迎えるため入場門までなんとか着き、数10分後、母が車でやってきました。私を見てとても心配して誰かに襲われたのかと聞かれましたが、泣きながら首を横に振り、車に乗り込みました。とにかくこの場所を去りたい、そのことだけが頭を埋めていました。
帰宅後、母に問い詰められました。私は内に秘める勇気もなく、すべてを打ち明けました。廃遊園地でこれまでの嫌な記憶がすべて吹き飛ぶほどの恐ろしいものを見たことを。話し終えると母は優しく抱きしめてくれました。私の顔は見ていられないほど苦しみに満ちていたそうです。
その後1週間は引きこもってしまいましたが家族の助けで何とか立ち直れました。
しかし時がたち、黒いものへの恐怖がちょっとずつ整理がつくにつれ疑問の芽が出ました。あのおぞましいものは何なのか、なぜあそこにいたのか、そしてなぜ私がこうして投稿するまであれに関する噂が一つもなかったのか。
お願いです。裏野ドリームランドにはどんな理由があっても立ち入らないでください。あの赤黒いものはただものではありません。
恐怖より好奇心が勝ることは多々ありますが、ほどほどにしたいですねえ。