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第一章 女子高生にもできる銀行強盗計画 4

 まずい、このままじゃまずい。

 さくらの頭はめまぐるしく回転した。

 このままじゃ銀行強盗の主犯に引き摺り込まれてしまう。どうしてこんなことになったんだ?

 たしかに涼子の力にはなりたいし、奈緒子ちゃんのことも助けてあげたいけど、どうしてあたしが強盗まで?

 なんか粗はないわけ? この一見完璧そうに見える計画の粗は。

「で、でもさ、地下鉄入り口の真ん前を露骨に固めることはできないかもしれないけど、警察だった馬鹿じゃないんだから、それを見逃すはずがないよ。地下鉄の入り口から改札口に入る前に待ち伏せするに決まってる。女子高生には注意を向けないだろうけど、もし鞄の中を見せろっていわれたらどうすんのよ?」

 口に出しながら、まさにその通りだとさくらは思った。警察がそれほど間抜けなわけがない。

「たしかに、警察は改札前を押さえようとするでしょうね。でも、時間差が生じるのよ。いい? 警察は現場に集まり、まわりを固める。その際、逃走用の車があるかどうかをまずチェックするはずだわ。まさか、地下鉄で逃げようとする犯人がいるとは思わないはずだから。地下に警官を配備するのは最後になるはずよ。たぶん五分はかかる。それも現場指揮官がきわめて優秀な場合よ。それだけの時間があれば突破できる。乗ってしまえばこっちのものよ」

「じゃ、じゃあ、地下鉄止められたらどうするの?」

「止める? なんで?」

「だって犯人が地下鉄で逃げたと知ったら、警察だって黙ってないでしょう?」

「地下鉄なんていかに警察でもそう簡単に止められないわ。現場の警官にそんな権限ないもの」

 そうかもしれない。

「それに万が一、地下鉄に乗るより、先に改札を押さえられてもなんとかなるわよ」

「どういうことよ?」

「あの銀行の隣にはたこ焼き屋さんがあるでしょう? あそこのたこ焼やさんおいしいから放課後うちの生徒でいっぱいになるじゃない?」

 たしかに放課後はそうだ。女生徒が多く、さくらもたまに買い食いする。

「だから万が一のときは、煙に紛れて彼女たちに混ざれば、銀行の中から出てきたとは思われないわよ。逆に危険だから早く外に出ろって、警察が誘導して包囲の外に逃がしてくれるわ」

 なるほど。と一瞬思ったが、それは変だろう。

「なにいってんのよ。銀行は三時で閉まるのよ。あそこにうちの生徒が集まるのは銀行が閉まってからじゃない」

「馬鹿ねえ、さくらは。期限は一週間って切られてるのよ。一週間後はなにがある?」

「なにって、え? 期末試験」

「そう期末試験。学校は午前中で終わりでしょ?」

「ちょっと待てぇ! それはその日試験を受けられないってこと?」

「気にしない、気にしない」

 気にしろ。

「だいじょうぶ。風邪ってことにすれば追試くらい受けれるから」

 事態はどんどん悪くなっていく。

「すごい、おまえ天才」

 涼子の絶賛につばめの態度は神か王のようだ。胸を張り、ちいさな鼻を高々と上げる。

「で、あたしはなにをすればいい?」

 涼子がいった。それはとうぜんの疑問だ。

「まあ、涼子ちゃんは外で見張り兼連絡係ね。外の動きを見張ってなにかあればスマホに連絡くれる係。地下鉄から逃げられるかどうかを見極めるのも涼子ちゃんの役よ」

「だけどさ、あんたらに危ない橋渡らせて、当事者のあたしが外で見張りってのはまずいだろ?」

「なんで? あたしのことは気にしないでいいわよ。これ趣味だから」

 あたしのことは気にしろ。さくらは内心毒づいた。

「それにさくらはあなたの親友なんでしょう? ほら、さくらもいってやんなきゃ。『あたしのことも気にするな。親友なんだから』って」

 痛いところを突いてきやがる。

「わかったよ。やるよ。やればいいんでしょう?」

「そう、わかればよろしい」

「いや、さくら、おまえがもしいやなら」

「いいんだよ、涼子。こうなったらやるよ。まかせて」

 そういったあと、つばめに向き直った。

「いい? そのかわり、完璧な計画じゃなきゃだめよ。少しでも穴があったらやらないからね」

「穴なんてどこにもないじゃない?」

 そうか? ほんとにそうか? ぜったいないのか?

「いい? はじめからちゃんと説明するからよく聞いておくのよ。疑問があったら遠慮なくいって」

「わかった」

「場所は学校近くのあの銀行。日にちは一週間後の期末試験のとき、時間はお昼過ぎね」

 そこまでは問題ない。

「当日、さくらは制服の上から男の子の格好をする。そのさい脱ぎやすいものをあたしが考えておくから。さくらは当日まで練習して早く着替えられるようにしておくこと」

 それも問題ない。特訓だってなんだってやってやる。

「あたしとさくらが中に入って、さくらは受付にさっき見せたような文を書いた紙を見せる。そして紙袋を渡す。その間、あたしはまわりを注意してるわ。涼子ちゃんは外に異常があればあたしにスマホでメールを送る。地下鉄入り口の側で、たこ焼食べてるのが自然ね。たぶんその間に銀行から警察に連絡されると思うけど、あわてる必要はないわ。そこまでは計算の内だから」

 そこまではなんとかなる。あたしの演技力なら、爆弾背負わされて脅えた男の子だって演じられる。そういうのは得意だ。

「金を受け取ると、鞄から煙幕が噴き出して銀行内はパニック。さくらはその間に着替えて、あたしはお金を学生鞄に詰め替えて、さくらが脱いだ服を紙袋にでも入れる。あとは騒ぎにまぎれて外に飛び出して、地下鉄に乗るだけ。煙幕は外にも漏れるだろうから警察はあたしたちが銀行から出たのか、たこ焼屋にいたのかすぐには判断できないはずだわ。そのまま煙にまぎれて地下鉄に乗る。そのせいで警察はあたしたちが地下鉄で逃げたことにすぐには気づかないはずよ。乗ってしまえばこっちのもの。どこで降りるかわからないし、すぐに地下鉄を止めることも無理だわ。どう? なにか無理がある?」

 完璧に見える。

 なにかけちをつけたかったが、なにも思いつかなかった。

「煙幕を使うっていうけど、その煙幕はどうやるんだ? そういう装置作れるのか?」

 涼子がいった。

「う」

 つばめがはじめて口ごもった。

 そうだ。その装置はどうするんだ? 作れるのか? 誰が?

「そうだった、肝心なことを忘れてたわ。そういうの作る人心当たりはあったんだけど、しばらく前にいなくなっちゃったのよね。さくら、誰か知らない?」

「知るわけないよ。そんな悪の科学者みたいなやつ」

 そうはいったが、悪の科学者といった時、一人の顔がさくらの頭に浮かんだ。

 え? だけど、いくらなんでもそんな装置……。

正彦まさひこなら作れるんじゃないのか?」

 涼子が叫んだ。涼子も同じことを思いついたらしい。

 正彦。中学三年生のあたしの弟。生意気で、パソコンと機械工作のマニアで、変なものばっかり作ってる。たしかにあいつならできるかもしれない。

 それに悪の科学者で思い出しただけあって、そういう技術を使って、みんなに一泡吹かせたいという欲望を、潜在的に持っているように思えるのは気のせいだろうか? そういう意味ではちょっとつばめに似ているのかもしれない。

「誰それ?」

「さくらの弟だよ。機械に強い。作れるかもしれない」

 涼子の説明を受けたつばめは嬉しそうにいう。

「なんだ、さくら知ってるんじゃない。さあ、今すぐ電話して聞くのよ」

 嘘? 今から電話? 

「早く、早く。あんたには行動力ってものがないの?」

 覚悟も決まらないまま、スマホを持たされた。そして正彦のスマホを呼び出してしまった。

『はい、正彦』

「あ、あたしよ、さくらよ」

『なんだよ、姉ちゃん。帰りが遅いって母ちゃん怒ってるぞ』

「それどころじゃないのよ。ところでさ、あんた、煙幕発生装置作れる? リモコン仕様で、鞄かなにかに入るくらいの大きさのやつ」

『はあぁ?』

「だから煙幕装置よ。それも今すぐ。三日くらいの内に」

『なにいってんだよ姉ちゃん? そんなものなにするの?』

 なにするって、そんなこといえるか。

「それは秘密よ。とにかくできるの?」

『技術的には難しくないけど、三日はきついよ。演劇の舞台で使うの?』

「そ、そうよ。そうなの。だからなんとかして」

『無茶いうなよ。だいたいなんで前もっていわないんだよ』

「あ、あんた涼子の妹の奈緒子ちゃんと同じ学校だったわね?」

『え……なんだよ、関係ないだろ、そんなこと』

 正彦の声が明らかに動揺した。さくらは密かに疑っていた。正彦が奈緒子に恋していることを。

「好きなんでしょう?」

『ば、馬鹿いってるよ。関係ないよ』

「奈緒子ちゃんがピンチなの。それを助けるためにその装置がいるのよ」

『はあ? なにいってんの?』

 ああ、じれったい。どうしてこいつはこうなんだ?

「だからぁ、奈緒子ちゃんがやくざに誘拐されて、身の代金に三千万必要なのよ。だからあたしは銀行強盗やるんだけど、それにはあんたの力が必要なの」

『はあああああ? マジ……それ?』

「マジ、マジもマジ、大マジよ。あんた男になるチャンスよ。協力すれば奈緒子ちゃんに感謝されるよ。惚れられるかも」

『やる』

 ほんとに惚れてるらしい。即答しやがった。

『で、奈緒子ちゃんは無事なんだろうな?』

「うん。でもなにがなんでもお金を作んないと」

『だけど強盗やるって、……姉ちゃんがか? だいじょうぶなの? すげえ、心配なんだけど』

 心配なのは、あたしがドジってつかまることか、奈緒子ちゃんの命ことかと、一瞬つっこみたくなった。もっとも両者はある意味直結している。

「ブレーンがいるから」

『ブレーン?』

「くわしいことはあとで話す」

 そういって電話を切った。

「なんとかなりそう」

 しかし事態はますますこじれていく。中学生の弟まで犯罪に巻き込んでしまった。

「ねえねえ、さくらの弟って、さくらに似てる?」

 つばめは能天気に涼子に聞いてくる。

「かなり似てるな」

 さくらはそう思っていないが、涼子にいわせるとそっくりらしい。

「じゃあ、美少年?」

 つばめの目がうるうるしながら輝いた。

「うるさい。もう計画に専念してよね、この美少年マニアが」

「はいはい、それじゃあ、とにかく問題なしね。それともまだなにかある?」

 さくらも涼子もなにも浮かばなかった。

「じゃあ、明日現場の下見するわよ。昼休みに行くわ。さくら、美少年もちゃんと連れてくるのよ」

 そういうことで初日の作戦会議は終わった。

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