エピローグ 2
それから一週間後、学校の部室の並びに新たなる部の部屋ができた。ドアの看板にはこう書いてある。
『美少女ミステリーくらぶ』
ほんとうは学校内に探偵事務所を開きたかったらしいけど、そんなことを学校が許可するはずがないから、名目上はミステリー研究会の形にしたとかなんとか(ミステリーくらぶはともかく、頭についてる美少女ってなんだ?)。
「今度のことでわかったのよ。あたしは怪盗より、名探偵の方がやっぱりあってるし、才能もあるって。だけど名探偵って、誰かが難事件を起こしてくれないとそもそも出番がないのよね」
「だから校内に探偵事務所を開こうと?」
「そう。だって事件が起きないと自分で起こしそうだし」
これがつばめのいい分だ。事件を集めることは自分が事件を起こさないために必要らしい。まあ、連帯責任を担っている自分にとってもいいことなのかもしれない。
「ほんとに熊ちゃんが難事件を持ってくるかどうかわからないしね」
だそうだ。
けっきょく、さくらも暇なときに手伝うことを約束させられた。きょうも演劇部の方をサボって、部室の中を掃除する羽目になった。もっとも演劇をあきらめたわけじゃない。失いかけた自信は、強盗役をやり遂げることで取り戻した。あの緊張感に比べれば、転んでパンツを見せた恥くらいなんでもない。それを見て自分を振ったつまらない色男のことも忘れた。そして涼子や奈緒子が受けた心の傷に比べれば、自分のものはかすり傷に過ぎないことを思い知らされた。あんなことで悩んだり、自信喪失することが馬鹿馬鹿しくなったのだ。
今度の事件で失ったものも大きかったが、得たものも大きかった。
いや、少なくとも涼子を失ったわけではない。少なくともさくらはまだ涼子のことを親友だと思っている。そして新しい親友と、片思いの男ができた。
ようやく部屋も片づいたころ、ドアをノックする音がする。
「どうぞ」
つばめが返答すると、ドアが開き、三人の女生徒が入ってきた。そしてそのうちのひとりがいう。
「あ、あのう。ここって、ミス研のふりをしてるけど、じつはどんな事件でも解決する探偵事務所っていう話はほんとうですか?」
「もちろんよ。で、どんな事件なの?」
つばめは目を輝かせた。
終わり




