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第三章 名探偵が多すぎる、怪しいやつも多すぎる 1

 いったいなにがあったんだ?

 正彦は不安になった。状況が飲み込めない。無線を聞いていても最初はパトカーの動きがわかったが、そのあとどういう事態になっているのかよくわからない。

 ちゃんと逃げられたわけ? それにしてはなんの連絡もないし……。

 外がみょうにさわがしい。いやな予感がした。

 マンガ喫茶のボックス席に設置されているテレビをつける。ワイドショーがいきなり事件のことを報道し出した。

『お昼のスーパーワイドです。四つ葉銀行友愛一番高校前支店に強盗が入りました。きょうはいつものコーナーをお休みして、現地レポートを特番としてお送りしたいと思います。それでは現地に飛んでいるレポーターの早川さん、お願いします』

 司会の中年アナウンサーから、現場に立っている若い小柄な女性レポーターに画面が切り替わった。ミニスカートにTシャツ姿、ショートカットのいかにも好奇心旺盛そうな女だ。不自然に眉をしかめ、真剣な顔でレポートする。

『はい、早川亜紀子はやかわあきこです。今現場の前まで来ています。きょうのお昼過ぎ、四つ葉銀行は拳銃武装した犯人グループに襲われました。警察によって取り囲まれ、逃走できなくなった犯人グループは、人質を取り銀行内に篭城しています。銃声が聞こえたことから犠牲者が出た可能性があります。まだくわしいことは、なにもわかっておりません』

 犯人は拳銃で武装? 銀行内に篭城? 中で銃声?

 なんかの間違いだ、そりゃ。

 正彦はそう信じたかった。篭城はともかく、拳銃なんて持っていないし、人を殺したりするわけがない。

 なんたって、もし計画が失敗して籠城しているとすれば、それはあの姉ちゃんとつばめさんなのだから。

『ご近所の方にいったいなにが起きたのか聞いてみましょう。いったいなにがあったんですか?』

 レポーターの早川は隣のたこ焼屋のお兄ちゃんにマイクを向けた。

『わい、ちょうど見てたんや。たこ焼売っとったらそこの地下鉄の出口からマスクした三人がな、ばあ~っと走って銀行の中に入ってな。そしたらな、どばあ~って煙が出てきたんや。そしてそのあとに銃声。すごかったでえ。あ、ところでたこ焼食わへんか? めっちゃうまいでえ』

 例のいなせな茶パツ兄ちゃんはまるでこの世の一大事というようなことを、いかにも楽しげに語った。

『こ、怖いですねぇ。いったい犯人はこれからどうするつもりなんでしょうか? 犠牲者出たのでしょうか? そして増えるのでしょうか?』

 カメラの映像はまたレポーターに切り替わる。早川はさも深刻そうな表情で視聴者をあおった。

『長年、事件らしい事件のなかったこの街で、ついに凶悪な事件が起きてしまいました。このまま放送を続けていきたいと思います。新たなことがわかり次第、お知らせしていきます』

 ゴムのマスクの三人組だって? 誰だよ、そいつら?

 正彦は混乱した。

 とにかく理解不可能な得体の知れないことが起こっている。それだけは間違いない。

 ここにいていもしょうがない。とにかく現場を見ないと……。

 いや、その前に涼子さんに電話だ。それが涼子さんの役目なんだし。

 正彦は涼子の携帯番号を押した。

『はい』

「涼子さん? 正彦だけど」

『あ、ああ、正彦? どうした?』

「どうしたじゃないよ? いったいなにが起こってるの? 姉ちゃんたちは無事なの? テレビじゃ銀行に犯人が篭城してるとか、拳銃の音が聞こえたとかいってるけど、なにがあったのさ?」

『ああ、それがよくわからないんだ』

「なんでさ? 涼子さん見張りでしょう? 見てたはずじゃないか。テレビでいってたけど、マスクをした三人組が入ったってどういうこと?」

『だからそのままさ。キングコングとゴジラとガメラのマスクをした三人組が突入したんだよ』

「煙幕の前に? つまり姉ちゃんたちは逃げそこなったの?」

『ああ、……そういうことだね』

 涼子はあまりのことに気が動転しているのか歯切れが悪い。

「そいつらなんなの?」

『わからないよ。とにかく、さくらたちは出てこれなくなった。そいつら警察に囲まれてることに気づいて篭城したからね』

「つまり姉ちゃんたちは人質になったってことだね?」

『そうだ』

「とにかく俺もそっちにいくよ」

『だめだ。正彦はそこにいろ』

「なんでさ、ここで警察無線聞いてたってしょうがないよ。無線じゃたいした動きはわからないし」

『いや、逆におまえがこっちに来たってなにもできないよ。こうなったらあたしたちにできることなんかない。来てもただ警察に顔を覚えられるだけだぞ。状況はあたしが随時教えるから、正彦はそこで情報を集めるんだ。警察無線にインターネット、それにテレビだってあるだろ。ニュース速報だって外じゃ聞けないからな』

「わかったよ」

『じゃあ、切るよ。お互いなにかわかったら知らせ合う。いいな?』

「うん」

 そして電話は切れた。

 大変なことになった。

 銀行に篭城した強盗が逃げおおせた例はないだろうから、いずれその強盗は捕まる。正彦としては、それまでさくらたちの無事を願うしかない。

 まてよ?

 無事、マスクの強盗が捕まっても、姉ちゃんたちがやったことは警察にばれるんじゃないだろうか?

 もしばれなくても、そうなったらもう三千万なんて手にはいるわけがない。

 奈緒子ちゃんはどうなる?

 きょうあたり、奈緒子ちゃんを誘拐した男から涼子さんに連絡が入るはずだ。涼子さんはどうするつもりなんだ?

 正彦は自分たちがとんでもない状況に嵌まり込んだことを自覚した。

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