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第二章 アクシデントが多すぎる、銀行強盗も多すぎる 4

 さくらは銀行の扉を開け、中に入った。ATMコーナーを通りすぎ、ソファの置いてある待合いコーナーに向かう。つばめはすぐ後ろにいる。

 涼子がいるのを一瞬だけ確認した。涼子もさくらに気づいたらしく、立ち上がると、入れ違いに外へ出ていく。そのさい、お互い相手の顔を見ないのは打ち合わせ通りだ。

 さくらは受付カウンターに目をやった。

 下見したときのふたりがいる。おっとりした三宅と、理知的で気の強そうな大島だ。

 三宅の前にいる客がどくのを待った。建設現場の作業着を着た、いかにも大工の親方のような男がなにやら三宅と話している。やがてその男が「がはは」と豪快に笑いながら立ち去ると、さくらはすかさず三宅の前についた。

「あ、申しわけありません、お客様。番号カードを引いて、呼ばれるまで待っていただけますか?」

 彼女は小首をかしげながら笑みを浮かべ、愛想良くいった。しかしさくらはそれを無視し、スポーツバッグを床に置くと、スケッチブックを彼女の目の前で開く。

 もちろん、そこにはこう書かれてある。


『このバッグには爆弾が入ってます。リモコンで遠隔操作されます。この紙袋に三千万入れてください。そうしないと爆発します』


 さくらはスケッチブックをぱたっと閉じると、紙袋をカウンターの上に置いた。

「はひっ」

 よほど驚いたらしい。三宅の上品な顔は引きつり、口を大きく開け、小刻みにぱくぱく震わせているが、かんじんの体は凍ったように動かない。

 予想外のリアクションだった。それ以上の反応が返ってこない。

 ほんとに爆弾持ってたらどうすんだぁ?

 思わずそう抗議したくなるほどだ。

 しかしそれでも三宅は動かない。パニックで思考停止しているのだ。

「どうしたの、広海ひろみ?」

 異常を感じたらしい大島が隣から声を掛けてきた。三宅の名前は広海というらしい。

 さくらは一瞬迷った。このまま三宅を相手にするべきか、それとも大島に交渉相手をかえるべきか。

 だが大島に声を掛けられ我に返ったのか、三宅はこわばった顔のままでいう。

「お客様、しょ、しょ、少々お待ちください」

 そのまま紙袋を手にし、ロボットのようにぎくしゃくした動きで奥に下がった。

 大島はその様子を眺めるながら、明らかにただごとならぬことが起きていることを悟ったらしい。さくらの方を振り向き、じろりとにらんだ。

 うわぁ、やっぱ気が強いよ、この人。

 異常な緊張感が走る。まわりの客たちだけがなにも知らずのほほんとしている。

 腕時計を盗み見た。十二時二十分。

 長い。長すぎる。

 たったの数分だが、さくらにとってこの待っている時間は異様に長く感じられた。

 もう警察に知らせたんだろうか?

 そんな中、スマホが鳴った。正彦からだ。

『警察に連絡入った。パトカー向かってる最中』

 胸が高鳴った。計算の内とはいえ、ついに警察が動いた。

 まだ金を持ってこない。なんだかんだで長引かせ、警察が到着するまで待つ気だろう。後ろではなにも知らない客たちの歓談する声が。

 うわあああ、気絶しそう。早く持って来てぇえ。

 そう叫びたかった。だけどここじゃあ、声は出せない。いっさいの証拠を残さないためだ。

 正彦からの電話を切ったとたん、べつの電話が入る。涼子のスマホだ。

『覆面パトカーらしいのが一台、到着。道路を挟んで向こう側に止まった』

 ついに来た。

 そしてようやく三宅が真っ青な顔で紙袋に札束を入れて持ってきた。

 まさにタイミングを計ったようだった。明らかに警察と通じている。

『やはり、今の車、警察だ。外に出た警備員が道路を渡って警察と接触。おそらく中の様子を知らせている。うわっ、覆面パトカーらしき車、続々到着。少し距離を置いて銀行を包囲しだしたぞ』

 さくらは報告を聞きながら紙袋の中身を確認し、手に取るとリモコンのスイッチを入れる。すぐに反応はなかった。

 遅い!

 タイムラグがあることはわかっていた。それもほんの数秒。それがものすごく長く感じられる。

 数十秒もたったような気がしたが、たぶん、じっさいにはほんの二、三秒だろう。スポーツバッグ、そしてソファや植木の陰の計三個所からいろんな色が混じり合った煙が吹き上がった。

「きゃあああああ。爆弾、爆弾よぉぉ」

 三宅が叫ぶ。瞬く間に視界は奪われ、同時にパニックが起きた。

「ぎゃあああ。いやだ。爆弾はいやだ」

「ひいいいいいい。これって毒ガス?」

「死ぬのはいやだ。リストラもいやだ」

「お母ちゃあああああん。ママぁああ」

 みなわけもわからず右往左往している。今こそ特訓の成果を生かすとき。さくらはその中で早々と着替えた。さいわいにして緊張のあまり、大ポカをすることもなく、すべてスムーズにいった。

 予定どおり、つばめは変装用具をしまい終わり、さくらも金を詰め替えた。

『警察に動きなし、とりあえず距離を置いて様子を見ている。いや、何人かが、地下鉄のもうひとつの出入り口に向かって走った。地下を回って下から地下鉄を封鎖する気だ。いま逃げれば、まだ十分間に合う』

 パニックになっている他の客と違い、さくらたちはスマホからの報告を聞きながら、冷静に出口に向かって走る。何度もシミュレーションしたから、見えなくたって方向はわかる。あとはそのまま外に逃げるだけのはずだった。あの中学の舞台のときのように転ぶこともなかった。

 だがそのとき、意外なことに銃声が聞こえた。

「なんだこりゃあ? 誰も動くな。動くと撃つぞ」

 銃声とその声はまさにさくらたちが逃げようとした方向から聞こえる。つまり銃を持った何者かが外から乱入したのだ。

 警察?

 だけど、警察がそんな無謀なことをするだろうか?

 なにしろ爆弾背負ってるっていう設定なのに。しかもこの煙でまわりがろくに見えない。そんな中に銃をぶっ放しながら突入してくるだろうか?

 そもそも涼子の報告にそんなことはなかった。

 さくらは耳元でスマホから涼子の叫び声が聞こえていることにようやく気づいた。

『なんだ、いったいなにが起こった? 覆面した三人組が突入したぞ』

 なんだ? どういうこと?

「静かにしろぉおおお! 動くな。動くと撃つぞ」

「きゃああああああぁぁ! 強盗よ。テロよぉ!」

「お、お客様ぁぁああ。落ち着いてくださいぃぃ!」

 銃声のせいでますますパニックは大きくなっていく。煙幕はまだ晴れない。

「さくら、緊急事態よ。バッグを外に捨てるわ」

 つばめが耳元で囁く。そして入口のすぐ横にあった窓からバッグを変装道具の入った投げ捨てた。防犯用の格子が一本折れているのは下見のときにチェック済みだ。だから人間は通れなくても鞄くらいは通る。

「その鞄も捨てるの。あいつらが誰か知らないけど、チェックされるわ」

 これを捨てる? でもこれは……。

 これがないと、奈緒子ちゃんは殺されるんじゃないのか?

 しかし現実問題として、外に逃げられない。出口付近には、拳銃を持った正体不明のやつらがいるのだ。その脇をすり抜けて逃げるのは危険すぎる。

 煙幕も晴れつつある。さくらはやむを得ず、金の詰まった学生鞄を窓から投げ捨て、窓を閉めた。

「だいじょうぶ、涼子ちゃんに拾わせるわ」

 つばめはスマホを操作しながら小声でいった。このさなか、冷静に涼子にメールを送っていたらしい。

「ん? なんだ、おめえら、こんなところにいるな。中に行け。逃げようなんて思うんじゃねえぞ!」

 自分たちのすぐ近くに、さくらとつばめがいることに気づいた乱入者が、怒鳴りながらふたりを銀行の奥に追いやる。さくらたちは従うしかなかった。

「なんなのつばめ。なにが起こったの?」

 もう煙幕が薄れ、近くのつばめの姿は見えた。

 肘を体につけたまま左右に広げ、手の平は上に向け、小首をかしげている。

 なんてこった。外人さんの、わたしわかりませ~ん、のポーズ。

 つばめにもわからない。愕然としているうちにみるみる煙幕は薄れていった。

 出入り口のところに三人の人物。全員覆面をして拳銃を持っている。

 キングコングのマスクをした、見るからごつい男。

 ゴジラのマスクをした、すこし華奢な体型の男。

 ガメラのマスクをした、かなりグラマラスな女。

 全員、ジーンズに上は皮ジャン。おそろいのユニフォームだ。

 リーダー格らしいキングコングが野太い声で叫ぶ。

「俺たちは強盗だ。動くな。勝手に喋るな。抵抗すれば殺す」

 おお、まい、があああぁ~っ!

 ひとつの銀行に強盗が二組? ダブルブッキングだぁあ。

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