マリアさんと歓迎会
マリアさん達の店の外での出来事です。新キャラにしてラスボスかもしれないキャラクターを増やしました!楽しく読んでいただけましたら幸いです( ◠‿◠ )
「というわけでカンパーイ!」
ヒデが乾杯の音頭を取り、それに合わせて皆がコップやジョッキをぶつけ合った。
場所は日笠大学前商店街に並ぶ飲食店の個室だ。今日は藤の歓迎会、発起人はヒデだ。藤にとっては飲食代は他の者が割るというから喜ばしい限りである。
まぁ働きだしてから一カ月は経ち、メンバーに新鮮味は少しないが…。
今日の参加者はヒデの他にマリア、大介。あと赤みがかったショートカットが印象的なヒデの同期店員という又山瞳の計五名である。瞳とはあまり会ったことはないが他のメンバーとはもうすっかり親しくなっている。
「フジーってさ大学で彼女いんの?」
オレンジジュースを傾けながら大介が話しかけてきた。『フジー』というのは藤に対するあだ名だ。年齢は2つ離れているがその親しみやすさからあだ名とタメ口は容認している。
「いると思う?大学に慣れるのに必死だよ」
「大学って遊んでるイメージだからさ、フジーも見た目の割に遊んでんのかなぁって。ヒデくんとか遊んでる感あるっしょ」
「ちゃんと勉強もしてるわ!そんなんだと来年受験だろ?日笠受けんだろ?」
ヒデが大介に軽く手刀を下ろす。
「うわぁ!ヒデくんが虐める!現実を突きつけてくる!」
大介がオーバーリアクションに両手で耳を塞ぐので思わずテーブルに笑いが溢れた。大介の性格は役得だ。
やがてマリアが、
「あ!勉強不安なら私教えるよ?」
と微笑むのを見て、男性陣の空気が凍りついた。なにせ怖すぎる。鞭を持って机の横に待機されそうだ。
「…マリアが教えるところは想像つかないわね。大介泣くんじゃない?」
瞳が茶化した事で空気がほぐれたがどうやらマリアは本気だったようで少し頰を膨らました。
「それにマリアは文系だけど大介は理系だしね。タイプが違うわよ。そんなことに気づかないなんてど天然ね。マリアかわいー!イジリ甲斐あるわ!」
マリアの膨らませた頰に指をつけながら瞳が笑った。
「もう!瞳先輩やめて!それに英語とかなら教えれますよ!」
「とか?なら他には?もー、面白いなぁ!可愛い後輩を悪戯するのは先輩特権よー」
驚くべき光景だ。あのマリアが押されている!さながら一般女子のキャピキャピ(死語)の如しだ!
「ひとみんはマリアにとって学科直属の先輩にあたるからさ、頭上がらないんだよ。あとあんなやつだからメンタルが強くて、反撃できずにマリアはいつもおもちゃなんだ」
隣でヒデが耳打ちする。なるほど。
そこでふと疑問が浮かんだ。
「そういえばヒデさん、瞳さん、マリアさんって何学部なんですか?」
改めて考えると聞いていなかった。日笠大はキャンパスの校舎が学部毎に大まかに分けられており、会うことはないので別の学部だろうくらいで考えていた。
「そういえば言ってなかったな」
手をポンっと叩きながらヒデが頷いた。
「そんじゃ改めて…日笠大学都市工学部環境システム学科三回生の三村英彦だ。サークルはテニサーな」
自分を指差しながらヒデが微笑んだ。
「理系でバイトって忙しくないんですか?」
「寝る間も無く忙しい!」
「え!?」
思わず口から声が漏れた。
「でも俺が選んだ道だし、行きたい道だからさ。そのために苦しむなら全部楽しい!勉強もサークルもバイトも!あまり親から金貰いたくないしな」
意気込んだヒデはいつもよりも大きく見えた。
「よっ、ヒデくん!かっこいい!イケメン!」
横で大介が声をあげると、
「お前も都市工学部志望ならもっと頑張れ!」
ヒデは間髪入れずにデコピンを入れた。表情から見て少し照れているのだろう。
ヒデは本当に頼り甲斐のある。そしてかっこいい。藤は改めてヒデの事を尊敬の眼差しで見た。
そこへ、
「さすがねー、ヒデ。カッコいいと思うよ。最近就活やばいって叫んでるそうだけどカッコいいと思うよ。頑張ってね」
瞳がカクテルの入ったジョッキを傾けながら笑った。途端にヒデの表情筋が強張る。なるほど彼女もマリアと同じく毒舌タイプらしい。
「ヒデさんなら大丈夫ですよ!かっこ、いいっと思います!」
少し酒が回っているのかマリアは舌足らずに声を上げた。両手を胸の前で繋いだ仕草を見ているとただの可愛らしい女性だ。内心ずっとこうなら平和なのにとか思った自分に苦笑する。
「で!藤は何学部なんだ!?」
居づらくなったのか急に話振ってきた!その必死な視線に思わず吹き出しそうになる。
「ぼっ僕は総合史学部の日本歴史文化学科です」
「歴文科って渋いわね」
意外だったのか瞳が目を丸くした。
「ははは、よく言われます」
友人からもよく言われる事だ。歴史好きは最近少ない。
藤の場合、家から歩ける距離にある祖父の家があったことが歴史好きの原因だ。祖父の家には文化遺産や歴史的建造物の写真が数多く保管されていた。なんでも祖父は歴史と旅行が好きな人で休みがあるたびに旅をしていたらしい。それらの写真に映るものが当時の藤少年からは想像できない世界の一角である事を祖父はいつもドヤ顔で語ってくれて、藤の心を掴んで離さなかった。それが今も深く根付いているからだ。祖父が亡くなってからはいつか祖父のように子供達に歴史に包まれた多くの世界を見せられる人間になる事を夢見て、学校教諭の勉強と歴史の勉強を両立できるという日笠大学にやって来たのだ。
「まぁ頑張ってね。歴文科って地味に範囲広いって友達がボヤいてたから」
瞳が優しく微笑んでからジョッキを煽った。
「へ?は、はい!」
応援、された?思わず胸の奥が熱くなった。この人はきっと姉御肌なのだろう。なかなか毒舌だけど…。
「じゃあ次私たちね!」
店員に次のチューハイを頼みながら瞳が手を挙げた。
「私たちは人間科学部社会心理学科三回と」
「二回生です」
マリアは酔いやすいのか先程から目がとろけている。大丈夫かな?
「心理学部?ってどんなことするんですか?」
名前はよく聞くが想像がつかない。藤にとって身近な心理学は小学校の時に流行った心理テストぐらいだ。
すると、瞳は頰に指を当てて微笑んだ。
「そうねー、極端な話が人はどこから感じてどこから感じないか」
そしてぺろりと舌舐めずりをする。
「は?」
思わず頭が真っ白になった。酒の席で時間は夜、皆の頭がシモに向かう頃合いだ。他のメンツも目が点である。
やがて、沈黙を破り動き出したのはマリアだった。
「ちょっ瞳先輩!」
目を白黒させながらマリアが口を塞ごうと手を伸ばした。
しかし瞳は飛んできた手を鮮やかに流し、片手で拘束。開いた手でマリアの頰を撫で、
「顔が赤いわ…。今日は酔いが早いのね。水飲みなさい」
「うー」
マリアは拘束から解かれると目の前の水の入ったコップをちびちびと飲みだした。完全に手懐けられてる!
「人間はどこをどのように感じとって、考えて他者に交わっていくのか。それは時にしてプラスに働き、マイナスに働く。心理は人と人、人とモノの交流の中で生まれる領域を慎重に観察する文系と理系の狭間。説明はし辛いわ」
大きくため息をつきながら瞳は肩を落とした。
「お前!あの紛らわしい言い方はわざとか!?」
ついにヒデが噛みついた!顔は真っ赤になっているあたり、誤解した自分が恥ずかしくなっているのだろう。その横、大介は誰もいない壁を向いて肩を小刻みに震わしている。多感な年齢には刺激があったのかもしれない。
しかし、
「何かあった?私は的確なことしか言ってないけど?もしかして変なこと考えた?これだから男って嫌だわぁ」
そう言って店員が持ってきたチューハイをグビっと煽った。ヒデは口をパクパクさせてから両手で顔を隠した。
指の隙間から小さな声で、
「…もう、こいつ…やだ。…つらい…」
と聞こえてくる。うわぁ。
「ふふふー、人を潰すのって楽しい♡」
ヒデを見て笑いながらも瞳はジョッキを離さない。先ほど来たはずのチューハイはもう半分も残っていなかった。ザルなのか?それにこれだけ飲んでてこんなトラップを仕掛けるとはかなりのやり手だ。逆らわないようにしよう。
「あははー、ヒデくんおもしろー」
完全に酔っ払いと化したマリアはヒデを額を指で突いた。
「もう好きにしろ」
ヒデは女性陣には勝てないと諦めたのかビールジョッキを煽る。大介は自分に被害がないように料理の余りものを気配を消しながらつまみだした。
ここは僕がやるしかない。
「そっそういえばなんでお二人は心理学科に入ったんですか?」
ヒデがあまりにもいたたまれなくなったので、フォローをかけるため質問を投げた。途端にヒデが涙目でこちらを見る。その目やめて…。
「あー」
すると瞳は少し天井に吊るされた明かりに目をやってから、
「人間を…知りたかったのよ」
…深い。対応に困る!
「マ!マリアさんは!?」
今にも寝そうな顔をしたマリアは両手で頬杖をつくと、
「私はねー、なんでかなー、ふふふ」
完全なる酔っ払い降臨。この人家まで帰れんのかな…。
「しーて言うなら…人の限界はどこなのか知りたかったの…」
「へ?」
「どこから怒るかなー?どこまで攻めれるかなー?どこまで騙せるかなー?された人って可愛くなぁい?面白くなぁい?人はどこまでしたらもっと面白ーく楽しーく悪戯できるか勉強したくなったのぉ」
言い方は酔っ払い乙女!でも考え方は寝ても覚めてもサディスティック!!
僕は言葉を失った。もう白旗上げて大介同様、残飯処理係に徹底しよう。
「さすがマリア!うちの社会心理学科期待の超変化球エース!これからも頑張ってね!!」
瞳が横で大爆笑しているが、毒舌コンビの猛攻を横目に男子陣は無心で箸を動かした。
☆☆☆☆☆
高校生の大介がいるため、本日の歓迎会は21時半にお開きとなった。
しかし、
「あー、完全に落ちてるわ」
瞳がさっきからテーブルに突っ伏したマリアを指で突いているのだが、一向に反応がない。
「マリアさんってお酒弱いんですね」
「この子、キャパ超えたら寝落ちだからね」
瞳が両手をあげて肩をすくめた。
そこに、
「金は払ったぞ。大介も自転車だから先に帰って…て、マジか」
会計に出ていたヒデが戻って来た。現状を見て顔が引きつっている。
「まぁいつも通りでしょ?ってわけでヒデよろしく!」
「また!?」
「何よ!か弱い女の子と小柄な後輩に背負わせる気!?サイテー!」
「おい、か弱い女の子ってどこだよ?」
「あら、眼科行った方がいいわよ?」
ヒデは「くそっ」と悪態をつきながらも、鞄を前にかけてマリアを背負いあげた。それでも気がついていないのか、マリアからは寝息が聞こえてくる。
そして、藤と瞳、マリアを背負ったヒデの4人は店を出て駅まで歩き始めた。
するとヒデから少し離れた距離で、
「酔い潰れたマリアはね、いつもヒデが対応するのよ」
瞳が横から耳打ちした。
「なんだかんだでヒデはマリアの事がほっとけないのよね。いい加減正直になってあげればいいのに」
「え?」
聞き返そうとした時には、瞳はヒデを茶化していた。それに対して何か噛みつくヒデ。そんなに激しく動いたら背中のマリアが目を覚ますんじゃ…。思わず藤は呆れ顔になった。
そしてふと気づく。いや、…それは気のせいだったのかもしれない。未成年なので酒は飲んでいなかったが、飲み屋の空気に酔っていたからかもしれない。
ヒデの背中に担がれたマリア。髪で表情は隠れているが、なぜか微笑んでいるように見えた。顔を少し赤らめながら。
それが酒のためか、それとも他の理由のためかはその時の藤にはわからなかった。
ちょっと日常ほのぼのを崩そうかなと思いまして^ ^少し話を進展させてみました!
読みにくかったかな!?日本語大丈夫かな?色々心配です(笑)
この話はいつオチつけようかは未定ですがこれからもあたたかく見守っていただけましたら幸いですm(__)m