マリアさんと不審人物
マリアさんは少し私のバイト生活と被らせて書いてます。まあ!私はここまで性格悪くないけど!ここまで過激じゃないけど!なので軽くリアルでかなりふざけた内容です(。-∀-)楽しんでいただけましたら幸せです。
新人店員 藤吉信には少し気になることがあった。ここしばらくファミリアストア日笠市南貴四丁目店の横島副店長の顔色がいつも以上に悪いのだ。
ということでシフトが一緒だった先輩店員のヒデとマリアに相談してみたのだが、二人の返事は予想外なものだった。
「まぁそうだろうな」
「まぁ仕方ないね」
あまりにアッサリで思わず拍子抜けしてしまう。
そんな藤にマリアがフライドチキンを揚げながら話し出した。
「藤くん知らないの?ここ数日携帯充電器が万引きにあってるって」
「え!?」
知らない!というか万引きってもっと市街地で起こるものだと思っていた。こんな学生の多い住宅地でとは…。
「携帯の充電器とかは転売にぴったりだから万引きされやすいんだよ」
腕を組みながらヒデも説明して、
「お前…そういえばラックルに入ってないのか?」
ポンと手を叩く。
「ラックルはしてますよ」
『ラックル』というのはSNSの1つだ。簡易にメッセージを特定の相手や集団に共有できると大学の友人に教えてもらったばかりである。
「じゃなくて!俺たちのラックルのグループだよ」
「へ?」
キョトンとした藤を見て、
「お前入ってないの!?ファミストのバイト仲間のラックルグループ!」
ヒデが声をあげた。それを聞いて一部のお客様が何事かと目を向けたので、軽く頭を下げる。
「わかった、また加えておくから入っとけ!」
「は、はぁ」
「まぁ藤くんが入ってから重要な事って万引き事件くらいしか書いてなかったからね、あとは藤くんの歓迎会の話してたくらいで…なんで当の本人をみんな入れ忘れてるんだろう」
マリアがコロコロと笑った。
「僕ってそんな影薄いですか?」
マリアの割には優しい言い方だったとはいえ思わずぐさっとくる。
「まぁまぁ、この後ラーメンでも行こう!」
憐れみでかヒデが慌ててフォローをし、その言葉に藤は目を輝かせて顔を上げた。
「ラーメン!おごりですね!」
途端ヒデの顔は歪ませて沈黙したが、
「給料日前だが仕方ない!」
と頭を抱えながら言い切った。
やった!食費が浮く!藤の仕事意欲は大幅に跳ね上がった。
そこでよくやく気づいた。先ほどまで会話に入っていたマリアが一言も話していない。流れで便乗してきてもおかしくない会話なのに。何事かと様子を見るとマリアは店舗内の商品棚を、いやその商品棚の隣に立つ一人の客を見つめていた。
中年の太り気味な男性客だ。何やら店舗内を歩き回り、チラチラとレジカウンターの様子を見ているようだ。手に隠れているが先ほど話に出た商品の携帯充電器を持っている…。
え?ヤバイ人?万引き犯!?
やがてその客は商品棚の影に入ってカウンターから見えなくなった。
もし、もしも本物の万引きだったとして自動ドアから離れた距離にいるのですぐに逃げ出すということはないだろう。それに体つきのいい男性店員のヒデの目の前をわざわざ通ろうとは思わない、はずだ。
とりあえず先輩店員に指示を仰ごう。藤が二人を見るとヒデは盗難防止の鏡から客を注視し、マリアは羽ぼうきを取り出していた。
え?ほうき?
そして、
「掃除してきますね♡」
「「え?」」
藤とヒデが硬直しているうちにマリアは羽ぼうきを持ってカウンターを出た。その足取りはまるで草原をスキップするかのように楽しげだ。そして本当に商品棚をはたき出した。
このタイミングで掃除って…、しかも何そのテンション…。
藤とヒデは呆れたが、それは愚かな事だった。やがてその行動の本意がわかった。
それはマリアがその不審な客のそばを掃除し始めた時だった。
不審客はマリアを見るや否や、さりげなく身を捻り他の棚へと移動した。やはりあからさまに店員から逃げているようだ。それを見てか知らずかマリアは不審客の移動した方向の棚掃除に向かった。それを見てまた不審客は場所を移動。それに合わせてマリアも場所を移動して棚掃除する。不審客が移動したらマリアも移動し棚掃除、不審客が止まっても棚掃除する。そして移動したら移動する。移動しなかったら隣で掃除。移動したら移動、止まる振りで移動、移動したら移動、移動移動移動移動…。
ただ掃除場所が不審客の向かった先と同じなだけかと思ったのだが、ようやく理解した。
マリアはわざと不審客の後を追尾している!
気付いた時にはコンビニの店内とは思えないほどに早足でまるでおいかけっこ状態となっていた。後半は棚掃除すらせずの猛追で羽ぼうきはリレーバトンと化している。目まぐるしい勢いではあるが、他の客が立ち読みしている者くらいしかいない事が救いだろう。
やがて店内を何周しただろうか、不審客は全く関係のない棚に持っていた携帯充電器を置いた。そして息絶えだえに恐ろしい何かから逃げるかのように振り返ると店から飛び出していった。
えっと…。
藤が必死に状況を理解しようとしていると、不審客を見送ったマリアが携帯充電器を回収して戻ってきた。その表情は陽だまりのように晴れやかで、三日月型の口元からはときおり「フフフ」と声が零れている。
御満悦で何よりです…。
目の前にあるのは笑顔のはずなのに…。藤は背筋に鳥肌が立つのを感じた。
その後もマリアは笑みを漏らし、
「ふ、藤くん、この後のラーメンなんだけど川沿いの一京でいいかい?」
「あー、前にヒデくんが言ってたところですか?」
「そーそー」
藤とヒデは何もなかったことにして業務に戻った。
そして仕事終わり、店から川沿いに出て下ること8分。ヒデの行きつけの店というラーメン屋一京に寄ることとなった。
そして、
「ウフフフフ…」
ラーメンをすするマリアからまた笑い声が漏れていた。藤とヒデは思わず麺を吹き出しそうになる。
「マリア、そんなにあの変な客追い出せたの嬉しかったのか?」
ついにヒデがパンドラの匣へと話しかけた。藤は思わず息をのんだ。
「だって…」
マリアはにこやかに微笑むと柚子塩ラーメンをすすった。
「でもな、今日やった事は少し危ないことだったんだぞ。もう少し反省してもらいたいもんだ」
とヒデがこってりメガ豚骨ラーメンから箸を上げて忠告した。
…おかしい、藤よりも後に出てきたはずなのにもう食べ終わりかけている。藤は自分のまだ半分ほど残っているコーンバター味噌ラーメンに箸をいれた。
すると、
「どこが危ないの?」
マリアが小首を傾げた。
「え…」
ヒデは一瞬うろたえるが必死で説明する。
「だ、だってあの客に目つけられたらどうする気だ?今後も来るかもしれないんだぞ!それに追いかけるなってクレームしてくる可能性もある!」
「そうですよ!マリアさんは女の人なんだから暴力とかされたら大変だし、もし仕事終わりを狙われたら!」
藤も必死で援護射撃をする。
しかし、
「えっと、ひとつずつ解説していくね。まず、もしクレームかけられそうになったら掃除してましたっていえるよ。嘘はついてないからそこを責められることはない。それにあれだけ挙動不審だった人がクレーム上げてくるタイプには思えない。それに目付けるって言うけどレジ内に若い男性店員二人もいたらすぐに行動に移ろうとは思わないでしょうし、今後っていうならしばらく男の人と一緒に入ったら大丈夫でしょ?もし仕事終わりっていうならこんな風にご飯行ったり、送ってもらえれば安全!」
と正論を返してまた麺をすする。
うん、逆らえない。藤とヒデは白旗を上げることとした。
しかしマリアは降伏したヒデに追撃を繰り出した。
「ヒデくんありがとう。そうなる可能性を見越して私もここに連れてきてくれたんでしょ?給料日前で金欠なのに…、私一人で帰すのは危ないって」
マリアは優しく微笑んだ。対してヒデは飲んでいたスープを吹き出し、むせこむ。
なるほど三人でのラーメンは計算の上でだったのか。さすがヒデ。
「ま、水…」
ヒデはマリアからコップを受け取ると一気に飲み干した。
「状況を考えた上で帰り道にラーメンに誘い、私のことを助けようとしてくれたんだよね。説得途中に反論を受けてスープを飲んで気を紛らわそうとしたみたいだけど…、それって私の意見に反論の余地なしと計算した上での行動だよね。なら私の行動に非はないということでこれからしばらく警護役お願いします」
逃げ場所のない、まるで詰め将棋だ。
マリアが満面の笑顔で淑やかに頭を下げたのに対してヒデは手で顔を覆った。その手のすき間からは紅潮した顔が窺える。お?普段飄々としているヒデからは意外な表情だ。
「ふふふ、ありがとうヒデくん♡」
そのマリアの微笑みは今まで見た中で一番女神のような優しい目をしていた。思わず惹きつけられそうになる。
するとヒデが耐えかねたように空のコップを高く上げ、
「くそ…、おやっさん!キムチチャーハンと餃子追加で!」
「あいよー!」
店主の声が響いた。
金欠ではなかったのか…?
と思ったが、ヒデの顔にはやけだと書いてある。
「ヒデくんは常連さんやから餃子はサービスしたるわ」
ヒデの心中を察したのか店主が優しく微笑んだ。
「じゃあチャーハンは私が奢るね」
今度はマリア笑いかける。
「…クソぅ」
またヒデの顔が赤くなり、藤とマリアは盛大に吹き出した。
ちょっと文の量が多くて読みにくかったかもしれませんごめんなさい( ;∀;)
これからもマリアたちの事を優しく見守っていただけましたら幸いです^_^
どうかよろしくお願いいたします!