一時、戯(たわむれ)の時間
サブタイトルの通りなので、短めに。
山中を無事に脱した総一達を運ぶ車両は、国道を東へ進んでいた。
車載時計の薄青数字は17:16を表示。途中で都市高速へ上がりその後も、更に東へと一路ひた走る。
組織が潜んでいる街を通り過ぎた。
この時マヤが目を開けていたらどんな顔をしたのだろうか?、だがマヤは眠ったまま。
3人を乗せた車両は速度を落とす事無く、何処までも東へもっと遠くの東へと走る。
ようやく減速が掛かったのは薄青数字が20:00頃で、速度が落ち料金所、
向かう大きなカーブの横Gを受けながら、倉崎三枝は眼を覚ました。
「ん━━!、わっ!私完全に寝てたっ?」
「うん、鼾掻くわ!寝言いうわ五月蝿かった!」
「ちょっマジで!嘘でしょ?」
チラリ見て、余り虐めると後が怖そうなので本当の事を潔く白状する。
「嘘です」
「く!、ったく年下の癖に生意気ねぇ!」
そうだ!!っと、ばかりにガバっと振り向いて後席のマヤの様子をと。
「この子…、気持ち良さそうに…、すっかり安心しきった様ね」
確かに、安堵と疲労は事実であるが、それだけ?
総一の死に逝く命を強引にこの世に引き戻した、
その力の行使には、やはり相当な負担が身体と精神に押し寄せるのでは?。
そう考えるのが、理に適っている。
故に全席に座る二人は、気の済むまでマヤを寝かせてやろうと思う。
料金所のETCの看板が見えた。
速度を落としている為、看板がゆっくりと近付くが止まる事はない、やっと看板が頭上を通り過ぎ一般道路へ合流する、ここで…倉崎三枝の空腹の鐘が鳴る……。
「今!何にも聴こえてないよね?聴いてたら殺す!!」
三枝の顔が真っ赤に染まっているのが、薄暗闇の中目視出来ないが疑いようは無い!。
無音状態のスピーカー顔前に、【聴こえてないよ】と、社交辞令の嘘を付くのも手だ
が、此処は……。
「あ━━━━!、俺そう言えば昼から何にも食ってない!、
それどころか!ほら!死に掛けて血まで出して!、
腹へって又、死にそうに成ると困る!何か買って来る!! 」
っと、告げてみる事にした。
「あっ!あ、うん……、そ、そうねっ」
< へ━━、あはは、うやむやにして誤魔化したか!、
可愛いとこ在るじゃない! >
と、如何やら巧く場の雰囲気を散らせた様だ。
そんな事をやってる内に総一はコンビニの駐車場、それも裏手の余り人気の無い場所
を、そこを選定したのは三枝の服装が逃走時の服から着替えていない、こんな服装で
飲食店に入るのは眼を引き過ぎで、女性としてはこんな服装で繁華な場所は避けたい、
それを察しての配慮からだった。
「じゃ、俺二人の分もついでに買って来るから待ってて!」
そう三枝に告げると店内へと走っていった。
「何よ……、馬鹿な事ばかり言ったり…やる癖に…、さり気無く優しいじゃない……」
シートベルトを外して、身体を自由にしてからマヤの方へと振り向く。
私が、この子位の年齢だったら……、
ちょっと!………やばかった、かな?これは……
当のマヤは、僅かな吐息を吐いて眠っている、時折、微かに唇が動くが開かれる事はなかった。
< ほんっと疲れてるのね、無理もないか…、大変な一日だったもんねぇ >
マヤの方に手を伸ばし、そっと顔に掛かった髪を除けてやる。
マヤちゃんを絶対あいつ等に渡さない
この力を必ず悪用するに決まってる……
カチャ!
この子は……
っと呟く、と同時に運転席のドアがバタンと閉まる、総一が戻ってきたのだ。
「んと、何が良いのか分んなかったら適当に買ってきたから好きなの食べてよ」
そう言い放って、カレーパンを3つ取り出して1つだけ開封し残りは膝の上に。
「ちょっと!それを3つも食べるわけ?」
「あれ?おかしいかな?」
「いやね、おかしくは無いけどぉ~、食べ過ぎじゃない」
そう美江に言い切られて、一旦は手をとめて躊躇するが、再び動かして。
「やっぱり…全部食う!!」
「……呆れたっ…やはり全部食べるんだ…」
拳を握り親指をビシッ!っと立て見せる。
呆れ顔の三枝を横目に、
一袋をぺろっとたいらげ二袋の中身を半分程度胃の中に消し去った時。
「あれ?美江さん食べないの?食べないなら俺がもっと、頂くか……」
コンビニ袋に手を伸ばすが
ビシャリと三枝の細い手に叩かれる、細い指はムチの様に総一の手に痛みを。
「いっ痛ぇ!」
叩かれた手の甲をさする総一に。
「これは!あげませんっ!!、ちゃんと食べます」
甲をさすり続ける運転手を横目に、どれにしようかと袋をバサっと開いて中を物色。
「あ!この菓子パン…なんか可愛いわね!これにしよう……、
って、やはりこれはマヤちゃん起きた時に…」
次の獲物を物色し始め、メロンパンを選定し封を開け口にする。
三枝の両手の内のメロンパンが半分消えた頃に、飲み物が無い事にようやく気づき、
買って来ると自動販売機へと走る、コーヒー二缶とオレンジジュース一缶を抱え車内
へ戻ってくる、ジュースはマヤの為と伝えると。
「えー!、私もそっちのが良かったかも~」
「あっ!じゃあ、もう一度販売機に……」
「ウソよ!、ふふっそのコーヒー頂戴!」
再び買いに行こうとする総一の手を取り車内へ引き戻した。
「何あんだ、これで良いのか…はいっ」
「そうよ~、ありがとう!」
その後コンビニの駐車場に停止したまま、昨夜~総一と出会う迄の彼が知り様がなか
った時間軸の顛末を、パンとコーヒーを口にしながら語り合い、総一は更にパン二つ
を、三枝もコーヒーが余ったのも手伝い、一つ半を口にしたとこで伝え終わった。
「そう言えば、マヤちゃん起きないわね…」
「ほんとだ!、ってか居るの忘れてたっ!!」
「ぷっ!、何を馬鹿な事言ってのよっ、今ふたりの顛末話聞かせたじゃない?
ほんっと馬鹿なんだから、ふふふ…、」
「あ-そだった、ほらけど存在わすれるって事無い?」
「あ!そうね……あるかも!、傍に居るのに忘れるなんて変よねぇ、お互い!」
三枝の方は今忘れていた訳ではないが、そういう事も有得るという事象なのに
【お互い!】と口にしたのは、無意識に親近感を覚え始めた証であろうか…。
二人同時に後席のマヤを見て。
「マヤちゃん本当…起きないわね……、」
「うん」
「もぅ、かわいそうだから、もう行きましょ」
「うん」
コンビニの駐車場から三人の車が出て行くと、四人組みの一人が、言う。
「あ━、あそこのアベックの車、やっと出て行ったわ」
「おぉ?、けっこ長くあそこで駄弁ってたんじゃ?」
3人目も言う。
「ほんっと腹立つよなぁ、ベタベタしやがって」
「周り囲んで!、車を揺すってやりゃよかったわ!」
四人目が言う。
「ったくベタベタすんなら、さっさとホテルでも行ってこいっつうの!」
カップルに見間違えた四人には、マヤの姿は見えてはいなかった。
そんな事を後方で言われてるとは、
露とも知らず!、夜の道を家路へと先を急ぐ車。
結局の処、マヤは目的地に着くまで起きる事は無かった。
よんでくれてありがとうございます