第07話 出発
右手に方位磁石、左手に地図をもって力強く進んでいく。悲しみに負けないように。
空は、すっきりと晴れていて新しいスタートの日には最適といえる天気だろう。
相変わらず見回しても何もないところだ。相変わらず、森だらけ。でも僕はこの風景は嫌いじゃない。僕は歩きながら、母から聞いたことを思い出していた。
東京はね、あぁ今の旧東京のこと。空気は汚かったけれどね、町並みはそこそこ良かったよ。立ち並ぶ鉄筋コンクリートのビル。それにあたる太陽の光。また、その光を反射するビル。キラキラと光っていて、その下で多くの人が行き来する。人も今よりずっと多かった。人口密度が高くて、酸素が薄かった。懐かしい……。
でも変わっていないこともあるんだよ。それはね――人。詳しく言うと、そうだね、人の笑顔や泣き顔、優しさや憎しみ、羨望や嫉妬……。今も昔も変わらない。きっと、これからも人々は多くの感情を交わらせて生きていくんだろうね。カンジいいかい。これだけは忘れないで。この先いろんなことがあると思う。どんなに苦しくても、みじめでも、命だけは落としてはいけないよ。失敗して転んでも立ち上がるんだ。立ち上がって、新しい一歩を力強く踏み出しなさい――。
ガサッ
昔話に思いをはせている場合じゃない。目の前に、戦闘用ロボットが5機も現れた。銃を構えるのが遅れてしまった。ロボットが銃を乱射してくる。その弾丸から逃れようと後ろに下がった。足場が悪かったようだ。ああ、ここでしまいか。
いや、何を言っているんだ。母さんが言っていただろう。あきらめちゃいけないんだ。僕の自分の足で立って歩くんだ。
そう、生きるの。生きて私を――。
えっ、誰?この声、外から聞こえてくるものじゃないのか。これは、記憶。
絶え間なく続く銃声。僕は、転びながらも態勢をすぐに立て直し発砲する。何気なく、後ろポケットに手を伸ばす。そうだ。手榴弾、この強化型手榴弾なら。思い切り投げる。耳をふさいで身をかがめる。着弾した音。恐る恐る現場を見てみると、痙攣したようにぴくぴくと動いていたもののもう立ち上がる様子はなかった。とどめを刺して僕はまた歩き出した。
生きるために――