第04話 危機
その日の夜。
隊員全員の士気の低下と疲労が目に見えてきた。
僕は、まだ見張り担当ではなかったので寝袋にくるまった。
秋の終盤にかかっていたためか、虫の鳴き声はほとんどしなくなっていた。
そんなことを考えていると、いつの間にか僕は深い眠りに落ちて行った。
外が、騒がしい。
大きな音のため僕は目を覚ました。
ビシャ――
顔に生ぬるいものが、かかる。
こ、これは……
手の甲で顔をぬぐう。今までにないような粘り気を感じる。そこには、黒いものがついていた。暗くてよくわからない。雲が晴れ、月の光が僕の手を照らす。――“血”だ。
ふと我に返る。目の前に光る刃が振りかざされていた。振りかざしている人物の顔は見えない。
これはなんだ。
反射的に体がそれをよける。岩に当たった刃の鈍い音。僕は走って、洞窟の外を目指した。
とにかく身を守らなければ。
足元に落ちていた銃を手に取り、暗闇に向かって適当に放つ。何かが足にぶつかり、僕の体は大きく前へ投げ飛ばされた。転んだ時に、無意識で閉じた目をゆっくりとあけるとそこには見たことのある柄があった。この柄は、僕たちの制服だ。恐る恐る振り返って僕がつまずいたものを確認する。
「何だ、これは……」
目を凝らすとそこには、変わり果てたサマの姿があった。
「サマ、サマなのか?」
血まみれで、触ってみると信じられないほど冷たく硬い。ここまで冷たいものを僕は触ったことはあるだろうか。いや、氷の冷たさとは違う冷たさだ。つい昨日まで、生き物であったかわからないような。そこにあったのは、ただの物体、そんな感覚だった。初めての死を目の前で実感したせいで僕は、気を失いかけた。
しかし、そうもしていられない。今は、正体不明のものに殺されかけているのだ。
仲間の心配などせず真っ先に身の安全を図る恥ずべき行動に出てしまっている自分の姿に気づきながらも、懸命に自分を守ろうとしている僕の姿がそこにはあった。だが、今は身を守るだけで精一杯だ。
洞窟の奥の方を見ていると刃が、月光を反射し闇の中に姿を浮かばせるのがわかる。こうしてみていると、刃だけが浮いているように見える。その刃に向かって僕は、発砲する。相手は、よけたり刃で銃弾を切ったりする。
カチッ
弾切れを起こした。後ろポケットに入っている弾を込めようとする。信じられないくらいに手が震える。ガタガタという効果音がなりそうなほどだ。寒いわけでもないのに。うまく弾を込められない。
僕はあきらめて、腰につけていた二本のサバイバルナイフのうち一本を相手に投げつける。
ナイフが地面に落ちる音はしなかった。
身動きが取れないでいると、刃を持った奴が僕の横をかけていくのを感じた。
助かった
そう僕は思った。
そのあと、気が抜けてしまい、その場に倒れこんだ。
深い眠りの中で僕は班のメンバーの夢を見た。
焚火を囲んで、みんな楽しそうに話しながら、武器を手入れしたり、本を読んだりしている。それを僕は一歩離れたところから、眺めている。微笑ましい、温かい。そう思った。
突如、その風景に音を立ててひびが入り、崩れていく。無意識に手を伸ばす。幸せな風景が消えていく。