番外編09 第三次世界大戦 其の九
戦場で、毎日を過ごす。
この班員と毎日を過ごす。
こんな日々が、一生続くと思っていた。
永遠に、永久に終わることなく繰り返されるのかと思っていた。
しかし――。
しかし、何事にも『始まり』があるのなら、『終わり』がやってくる。
そう、私たちの物語もそろそろ終わりの音が聞こえ始めるころだった。
ゆっくりなのか、それとも早くやってくるのか、それはわからないが確実にそれは近づいていた。
もう、私たちの後ろ姿は捕えたのではないだろうか。
鬼ごっこで言えば、もう対象は捕えている。
ロックオンといったところだろう。
私は、このことを知っているはずだった。
経験済みだったはずだ。
けれども、私は忘れていた。
もう――手遅れだ。
だって……。
もう――みんないないのだから。
時はさかのぼり、まだ私はトラックに揺られていた。
相変わらずの会話をし、時間をつぶしていた。
ここが戦場であることを忘れ、話していた。
冬だというのに私たちを遠慮なく照らす日光は痛いほどだった。
日差しが温かく、風も少ない。
こんな日は、ピクニックがしたいものだ。
「この辺は、随分と敵に遭遇しないね」
桐生少将は、のんきにそんなことを言っていた。
本来なら、私たちはここで異変に気が付くべきだった。
なぜ、この周辺に敵がいなかったのかということを。
「そうですね。あたりが静かで、終戦でも迎えたんじゃないかと思ってしまいますよ」
私は、長野中尉の言葉に同意し、頷く。
「しかし、しっかりと気は引き締めておくように」
と、まじめな天童大佐。
「そういえば、目的地ってどこなんですか?」
富良野中尉の的確な質問が飛んだ。
当然、この質問に答えるのは大佐の役割。
駄目だよ。
少将にそんなこと求めちゃ。
「うーん」
腕を組む大佐の姿がそこにあった。
え、決まっていないんですか……。
班員が、みな大佐を呆れたように冷たい目で見たちょうどその時だった。
戦闘機一機を数キロメートル先で見たのは。
あれはなんだろう?
どこの機体かな?
機体は、何かを落とした。
鳥で例えるなら、腹から何かが落ちた感じだ。(腹に穴が開いていればの場合だが……開いているわけがない)
小さい物体が、みるみる地上に近づいていく。
その物体が、地表に到達するかしないかのその時、爆発した。
それも小規模なものではない。
大規模だ。
パッと今までに味わったこともない光に身を包まれた。
カメラのシャッターに近いだろうか。
あれ……。
これって……。
光の次には、ものすごい強風と熱に襲われた。
乗っていたトラックごと吹き飛ばされた。
もう、熱いというより感覚がなくて体がなくなったような感覚だ。
目は開いていられない。
どうすることもできない。
飛ばされるだけ飛ばされ、熱せられるだけ熱せられた。
それがどのくらい続いたかはわからない。
どうやら気を失っていたようだ。
私は、ゆっくりと瞼を開く。
!!
目の前には、何もなかった。
その表現が一番適切だと思う。
本当に何もなかったのだ。
しいて言えば、備長炭のように黒くなったものが点在していた。
状況が全く読めない。
腕がしびれているので、私は右腕に視線を落とした。
結果から言って、焼けただれていた。
皮は剥がれ落ち、薄桃色の肉が顔をのぞかせていた。
熱風のせいだろうか。
出血はしていないようで、表面は意外にも乾いていた。
ここで、私はようやく状況を把握した。
ああ、核爆弾だ。
と。
周りの黒い隅になっている物は、みな人だろう。
そういえば、ほかの班員はどうしたのだろう。
天童大佐は?
桐生少将は?
富良野中尉は?
長野中尉は?
佐野大尉は?
あたりを見回しても、人の原型をとどめている人がいない。
その中に、ひときわ大きく目につくものがあった。
あれは!
言わなくてもいいかもしれないが、何とか形をとどめた『紫苑』だった。
紫苑……ということは、少将がいるかもしれない。
私は、そこへかけていこうとした。
した……ということは、それがかなわなかったのだ。
なぜなら、私の左足はもう私の身体にはなかったからだ。
感覚がマヒして、まったく気が付かなかったがなかった。
なかったというより、引きちぎられていた。
巨人にでも引きちぎられたようだ。
もう片方の足も役に立ちそうになかった。
私は状況を理解することができず、口をあんぐりとあけて周りを眺めていた。
目の前に広がる黒いすすの集団は動く様子もなく、石造の如く固まっていた。
またか……。
こうして日常は失われるのか。
結局こうなのだ。
わかったぞ。
私は悪くない。
悪いのは、人類だ。
欲を持つ人類だ。
人を殺し生命を潰す人類だ。
憎い……。
人が憎い……。
いつか、私はこの世界をきれいに整備してみせる。
そう、私は人生最後の涙を流し誓ったのだった。




