第03話 疲労
あれは、何年前だろうか。
ぼんやりと思い出されるある少女の顔。
しかし、はっきりと思い出すことはできない。
きっとその子は、優しかったのだろう。
今、彼女がどうなっているかは知らない。
昨日、サマに言われたことを思い返しながらこのようなことを考えていた。
妙に早く起きてしまったので、銃を携帯し洞窟の外に出た。その瞬間、洞窟の息苦しい空気とはまるで違う清々しい空気に思わず息が漏れた。やはり、地上の空気はおいしい。思わず、身体を伸ばす。
山が近いからだろうか、霧が立ちこめていた。
少し歩いていると、地面になにかが転がっているのが視界に入った。近づくと次第に輪郭がはっきりとしてきた。
ロボットの残骸である。
人骨をモデルにしたような醜い形をしていて、金属製。
金属独特の冷たい輝きを放っている。
凝視すると気持ちが悪い。
一瞬あの地獄のような光景が、鮮明に蘇ってきた。
吐き気がするのを寸前で我慢し、頼りない足取りで洞窟へ引き返した。
洞窟に戻ると、隊員達は出発準備におわれていた。
腕を負傷したカルは、荷物の運搬はきびしいのか荷物の点検をしていた。
この光景をただ突っ立って見ていた僕を見つけたガルジ上官だったが、何かを察したらしく怒鳴り付けてくることはなかった。
山から朝陽が頭を出してきた頃、旧福岡に向かって走り出した。
以前と変わったことがある。
――それは、車内に漂う空気だ。
今までは、和やかな温かい雰囲気を漂わせていた。しかし、今はというと張りつめた糸のようにピリピリとした空気を漂わせている。理由はおそらく、苦しい戦闘があったためだろう。
「あっ、あのう……。」
何か切り出そうとしたが、言葉につまる。
こんな時どんな声をかければいいのだろう……。
実際のところ自分もかなりまいっていたし、緊張が全くとけなかった。
そんな中、爆睡している者がいた。ナジルだった。昨日、夜見張りをしていたのは彼だ。相当疲労がたまっていたのだろう。
結局、その状況をどうすることもできずゆっくりゆっくりと時は過ぎて行った。不思議なことに、嫌な時間が過ぎていくのは、遅く感じてしまう。同じ時間なのにもかかわらず。
昨日のような襲撃には合わなかった。奇妙なくらいに平和な時が流れていた。それが逆に、今の僕たちにはつらいものがあった。
旧静岡から直接旧愛知に入る予定であったが、危険回避を目的に基地を設置されていない場所を通ることにした。旧名古屋基地は襲撃されたばかりである。もしかしたら、ロボットが跋扈している可能性があるからだ。
そういう理由で、今は旧長野を通って旧岐阜を走っている。山岳地帯に入ったためか、日が暮れるのが早い。時間的には早いものの、感覚的には今日の日中は長く感じられた。ずっと、意識を張りつめていると気が滅入ってしまう。
空が、紅葉した紅葉のような真っ赤に染まっていた。
昨日と同じように、夜適当な場所で泊まることにした。
今日の見張りは、3時間交代ですることになった。
張りつめていた糸は、いつはじけるのだろうか。
はじけた時が一番……
……一番危険である