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PCcontrol  作者: 枕木碧
番外編
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番外編08 第三次世界大戦 其の八

 世界は平等ではない。

 不平等だ。

 誰でも感じたことがあるのではないだろうか。

 まず、この世に誕生したその時点で差が生まれている。

 言うなれば、パソコンにインテルが入っているかいないのか。

 入っていたとしても、セレロンなのかi5なのかで随分の差が生まれる。

 これを個性というのか、差別というのかは勝手だが、私は差別であると考える。

 文の初めから説明文や論説文のようになってしまっているが、あくまで言っておきたいのはこの世界は不平等で、闇に包まれているということだ。



 あの歴史にも残っていいのではないかと思うくらいの名演説の後、私たちは予定通り裏の倉庫に足を運んだのだった。

 みな名演説の余韻に浸っていたためか静かだった。

 もっとも、演説した本人は恥ずかしさのあまり顔を下に向けたままだった。

 意外と女の子らしいところがあるのだった。

 こうしてみると、かわいいかもしれない……。

「これかな?」

 天童大佐が鉄の扉に手をかける。

「イッテ!」

 ロッテ!

 のようになったな。

 絵面で……や字面かな。

「どうかしましたか? 大佐」

 副班長の佐野大尉がまじめに質問を投げかける。

 目がガチだ。

 この人は、肩の力を抜くことはできないのだろうか。

「いや、大尉。申し訳なかった。ただの静電気だ」

 成る程。

 だから痛がっていたわけか。

 静電気は痛い。

 そして、それに真面目に対応してしまった大尉は空しい。

 ドンマイ。

 そんな時もあります。


 鉄の扉が、大きな音を立てて開く。

 音から重そうである。

 中から、ほこりと金属の匂いがしてきて、私の鼻の奥を刺す。

 思わず、うっと手で鼻を覆ってしまうほどだ。

 特に、埃の匂いがくさい。

「うっ。何この匂い!」

 メンタル的に、回復したらしい少将がいきなり文句を言う。

 少将は、あんなにいい演説をできるというのに、なぜこんなに日常では口の悪い性格の悪い人なのだろうか。

 これが、スイッチのON、OFFというものなのだろう。

 それは単に、人の裏表という感じがしてたまらないが……。


 固まっている班員とは対照的に、天童大佐はずかずかと中に入っていく。

 勇者だ。

 私だったら何がいるかもわからないところに足を踏み入れるなんて真っ平ごめんだ。

「おい、お前ら何をしている。行くぞ。ついてきなさい」

 このような場合に限っては、少将殿もお手上げらしい。

 顔を青くして、「私は、いい」といってきた道を引き返していってしまった。

 やっぱり身勝手な人だ。

 私も中に足を踏み入れる。

 酸素が足りないにも関わらず、その代わりに埃が肺に侵入してくる。

 そうなるとどうなるか。

 咳き込む。

 以上。

 まるで病院のようになっていた。

 一度に大勢の人が、咳き込む。

 小さい子供たちが、面白がってわざと咳をしている場面のように見える。

「軟弱なものたちめ。ほら、これを持って出るぞ。一人ひと箱!」

 あなただって、静電気で驚いていたじゃなですか……。

 って、このひと箱!!

 弾丸と、手榴弾と思われる金属の塊がびっしり入っていた。

 これはきっと……。

 箱の側面にある手持ちも部分を持ち、上に持ち上げる。

 正確に言うのなら、持ち上げようとする。

 しかし、持ち上がらない……。

 ビクともしない……。

 ん?

 どこからか、鼻歌が聞こえる。

 誰だこの状況で、鼻歌を歌っている奴は!

 そう思って、あたりを見回すとそれは富良野中尉だった。

 当の富良野中尉は、ひょいと私が今持ち上げようとしても持ち上がらない箱を持ち上げ外に運び出している最中だった。

 これは、負けてはいられない。

「ウオー!!」

 中二病のようだが致し方ない。

 声を上げると、持ち上がる力が増すとかまさないとか……。

 あっ!

 少し持ち上がったぞ。

「あっ!」

 こ、腰が……。

 腰が、無気味な音を立てて鳴った。

 バキッといった感じだった。

 さすがに少しは鍛えているので、そう簡単にいくとは思わないが私の腰で何かが起きた。

 今頃、体内では大騒ぎだろう。

 大惨事。

「なんだ。情けないね、羽黒君」

 正直、あんたには言われたくなかったよ、チャラ男長野中尉。

 けれども、情けないのは揺るぎようのない事実だった。

 ここは、こう言っておくしかない。

「すみません。面目ないです」

 あー、すごくショックだ。

 何でこんな人にこんなことを言わなければいけないんだ。

 動け! 私の身体!

 ああ、気持ちに体がついていかない……。

「仕方がないな。俺が運んで行ってあげよう」

 案外、人の心があるのか……この人のは。

 あそこまで言ったからには、相当力に自信があるんだろうという期待は次の瞬間見事に打ち砕かれた。

 ガラスの如く。

 水晶の如く。

 というのも、長野中尉も私がたてたような音を立てて固まっていたためだ。

 人は不思議なものだ。

 衝撃が走ると、凍らされたかのように固まる。

「あれ? 羽黒准尉、どうした?」

 富良野中尉がとうとうこちらに来てしまった。

「いえ、長野中尉が腰痛めたらしくて……」

 私は、富良野中尉の視線を指で長野中尉へ向けさせる。

 それを見た富良野中尉も固まる。

「うそでしょ。何してんの。それでも軍人か?」

 遠慮なくかけられる言葉の数々。

 よかった……それを浴びるのが僕でなくて。

 私がされてしまったら、きっと耐えられないだろう。

「……これでも……残念ながら……軍人なんだよ……」

 力ない声が、少しの時間があってから戻ってきた。

 応答があった。

「ほら、貸してみなさい」

 頼もしい富良野中尉。

 これで、富良野中尉も腰を痛めたら面白い展開になっていたと思うが残念ながらそうはいかなかった。(少々失礼だったが、ご容赦いただきたい)

 軽々箱を持ち上げ、外に運び出していってしまった。

「おーい、二人とも。そこが好きなのかい? いいよ。二人きりになりたいのなら、締めてあげるから」

 天童大佐、何を言っているんだ。

「冗談じゃない」

「冗談じゃない」

 声がハモった。

 どうやら、拒否する意思としては同じようだ。

「大丈夫ですか?」

 私は、長野中尉に手を差し伸べる。

 が、意外なことに彼は私の手は取らなかった。

「ありがとう。大丈夫、自分で立てる」

 感謝の言葉は述べていたものの気持ちは全くといっていいほどこもっていなかった。

 さらに、いつものチャラい様子もなく、クールな兵士という印象を与えた。

 あれが、長野中尉の裏だろうか。

 表があるなら裏がある。

 表があるから裏があるのか。

 裏があるから裏があるのか。

 どちらの言い方が正しいのか、私にはまったく見当がつかない。

 しかし、私は『表』と『裏』は『光』と『影』の関係のように感じる。

 どちらもあるから、その者をその物を引き立てる。

 それは、きっと間違いなことだと思う。


「羽黒准尉、これ持ってくれ」

 佐野大尉が私に袋を差し出していた。

 穀物の草で作ったようなゴツイ袋だった。

 中身は……。

「了解しました。中身はなんでしょうか?」

 大尉は予想していなかったのだろう。

 こんな質問をされるなどとは。

 だが、すぐに冷静さを取り戻し答えてくれた。

「これは、コーヒーだよ。分けてもらうことができたんだ」

 分けてもらったって……それ、米10kgの袋くらいの量あるぞ。

 まあ、あまりうるさく言うと嫌がられると思ったので、それ以上は言わなかった。

 コーヒーか。

 随分と久しぶりだ。

 もう物資が不足していて、生きるためだけに食べたり飲んだりしているようだった。

 目的は、栄養補給といった感じだった。

 そうしていくうちに、食卓からコーヒーや紅茶、肉が消えていった。

 消えていくといっても、いっぺんに消えたわけではない。

 まず、紅茶が消え、次にコーヒーが消えた。

 そう、随分と早い段階でお目にかかれなくなっていたのだ。

 飲めるのが楽しみだ。


 施設の入り口に着くと、桐生少将が待っていた。

 ただし、待っていたといっても『紫苑』の中である。

 しばらくいれば、さすがに腐敗した匂いにも慣れてきてしまう。

 ほとんど、匂いを感じなくなってしまった。

 もしかすると、匂いが強すぎて神経がやられてしまったのかもしれない。

 その後、弾丸を分配し各々で武器の手入れをした。

 と、ここで意外な贈り物があった。

 足尾少尉からの贈り物だ。

 軍事用トラック。

 もちろん、ガソリンは満タン。

 これで移動は、随分と楽になるだろう。

 トラックは目立つだって?

 この状況だと、おそらく『紫苑』と共に移動するからトラックを使っても使わなくても目立つことには変わりないと思う。

 しばらく、また少将と一緒かと思うと、心強い一方、心配でもあった。

 またいじられるのではないか、ひどい目に合うのではないか、と。

 おそらくそれは確定事項だろうな……。

 そういう心配な気持ちを抱えて施設を出発するのだった。

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