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PCcontrol  作者: 枕木碧
番外編
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番外編04 第三次世界大戦 其の四

 優しさに触れ、優しさを知ってから、私の日々は色づいた気がした。

 モノクロからカラフルに。

 美しく、まぶしいくらいに。

 酷い戦場である事には変わりはないけれど、私の生き方も変わってきた。

 生きる目的のような、そんなものが変わった気がした。

「大切な人たち」を守りたい。

 仲間と書いて家族と呼ぶ、その人たちを守りたい。

 まだ、私の力は小さいけれど、この人たちの力に助けになれたらと思う。

 さあ、行こう。

 また、新しい一日が始まる。



 私、羽黒望准尉が天童大佐の班に入って、一日が経った。

 私が、班に入って落ち着いたところで改めて自己紹介があった。

 それは、一晩過ごすところを決めてひと段落した時だった。


「さて、少し落ち着いたことだし、改めて自己紹介をするとしよう」

 と天童大佐は口火を切った。

「では、まず私から」

 そういって、天童大佐は自己紹介を始めたのだった。

「知っているとは思うが、私の名前は天童正道大佐である。趣味は将棋を指すこと。座右の銘は『俺がおれがの“我 ”を捨てて、お陰おかげの“下 ”に生きよ、懺悔ざんげの“悔 ”に生きよ』だ。他に何か必要か? あ、出身くらい入っておこう。私は、大阪生まれだ。軍に入って東京本部に送られた。以上だ。次!」

 次誰がするのかと思えば、当然のことながら副班長ということになるだろう。

 副班長――佐野花芽大尉

「はっ。私は、東京本部天童班副班長の佐野花芽大尉である。趣味は特にはない。座右の銘は、『目には目を歯には歯を』である。生まれは、秋田県。よろしく」

 おお。

 このお方は、見かけは静かで優しそうなのに座右の銘が『目には目を歯には歯を』では少々考えものだな。

 この人には気を付けておいた方がいいかもしれない。

「では、次は俺が。俺は、東京本部天童班所属長野絆中尉だ。趣味は、音楽かな。あ、音楽といってもJ-POPとかね。難しいクラシックは堅苦しくて……」

 と話を続けている中尉に対し、天童大佐は

「おい、長野。話が長い。要約して端的に」

とややお怒りの様子。

 これを見た中尉は

「これは失礼。座右の銘は『何とかなるさ』。以上です。よろしく!」

 なんとチャラいのだろう。

 座右の銘にそのような言葉を選ぶとは珍しい。

 珍しいというより、おかしな人だ。

「最後に、私が。私は富良野美佐中尉。出身は、石川県。趣味は……ここでは控えます。座右の銘は、『撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ』です。どうぞよろしく」

 え……趣味が気になる処の話じゃない。

 話の結末を続きはウェブで、といわれた以上の衝撃だ。

 しかも、その座右の銘。

 この班、意外とおっかないかも。

 いや、軍人なら当然かもしれないけれど。

 もしかして、あえてそうしているのかな?

 十分あり得る話だ。

 自分に言い聞かせる、みたいな。

 あ、この確率高そうだな。

 うんうん、いけるいける。

 私にしては悪くない発想だ。

「……羽黒准尉。貴官の出番だぞ」

 大佐が、私を呆れた目で見ていた。

 お願いだからそんな目で見ないでほしい。

「はっ。失礼いたしました。私は羽黒望准尉であります。土佐中佐の班から、転属となりました。趣味は、アニメ鑑賞。座右の銘は……」

 あっ、アニメ鑑賞といってしまった。

 これは失態だ。

 こんな場で言うことではなかったのは確実だ。

 何をしているんだ私は。

 穴があったら入りたい。

 いや、穴より蓋つきのツボがいいな。

 蓋があるから。

「羽黒中尉? 大丈夫か?」

 我に返ると、班員がみな私を凝視していた。

 やめろ。

 やめてくれ。

「はっ。大丈夫であります。座右の銘は、ただいま考え中であります。出身は、東京都であります。これから、全力で頑張らせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします!」

 私は深々と頭を下げた。

 90度に曲げることで、班員に向けられた脳天の方から「よろしく」や「共に頑張ろう」という趣旨の言葉が投げかけられた。

 ここで、私は初めて安心していることに気が付いた。

 仲間ができたことに安堵あんどしていたのだ。


 この後は、それぞれの持ち場について一晩過ごすことになった。

 見張りは3時間で交代。

 人数割振りは、2人と3人。

 まず前半は、副班長の佐野大尉と長野中尉の2人。

 後半は、天童大佐と富良野中尉、そして私羽黒の3人。

 やった!

 富良野中尉と一緒だ!

 と、そんなふうに騒げるわけもなく、私は就寝の支度をするのだった。

 心の中では、ガッツポーズしているんだよ。

 就寝といえど、本当に久しぶりだった。

 私は一人になってから、ちゃんと寝ることはできなかった。

 立ちながら、居眠りこくとか、物にもたれて気を失っているとか……。

 徹夜明けの学生みたいなことをしていたことを記憶している。

 3時間も寝れるとは、なんと幸せなのだろう。

「羽黒准尉」

 思考を巡らせている時、誰かに話しかけられた気がした。

 気がしたのではなく、話しかけられたのだ。

「はい?」

 なんかみっともない返事になってしまった。

 あっ。

 よりにもよって、富良野中尉!

 恥ずかしい。

 あれ?

 この人を面と向かって見たのはこれが初めてかもしれないな。

 富良野中尉は、美しかった。

 今まであった人で、この言葉が当てはまる人は他にはいないだろう。

 そう思うほどだった。

「羽黒准尉?」

 我に返ると、富良野中尉が不思議そうに私を見ている。

「あっ、失礼しました。なんでしょうか?」

 声が、自分の声ではないようだった。

 裏返った声というのはこのようなものなのだろうか。

「羽黒准尉、あなたはこの戦場を一人で何日くらい過ごしたのか教えてくれないか?」

 私が一人で――。

 一人で、つまり――他の班員を失ってから何日間という質問だ。

「いや、言いたくないのなら無理にはいいぞ。強要するつもりはない」

 私の顔色は、それほどまでにひどかっただろうか?

 富良野中尉。

 この人もきっと心優しい人なのだろうな。

「いえ、大丈夫であります」

 できるだけ、今の自分にできる最善の明るい声で答えた。

 そして、私は続けた。

「先ほどの質問にお答えします。私は、班員、いえ元班員全員を失ってから今日でちょうど5日です。それから私は一人でやってきました」

 富良野中尉は、驚愕していた。

「君は、5日間も一人でこの戦場を生き抜いていたのかい?」

「はい」

 私の声のトーンを察したのだろうか?

 富良野中尉は、声を低くして

「すまない。無神経なことを言った。気にしないでくれ。お休み」

といって、彼女は自分の寝袋にもぐろうとした。

「富良野中尉!」

 この私の言葉に、目を丸くしていた。

 そして、私の方を振り向いていた。

 大きな声……というわけではなかったと思うが、迫力や勢いがあったのかもしれない。

「どうした? 羽黒准尉」

「あっ、えっと……」

 いざいうとなると、口が回らなくなってしまう。

 情けないな自分。

「本当に、どうしたのだ?」

「今度……いつか、また二人でお話しできませんでしょうか?」

 富良野中尉は、今日よく驚いた日だっただろう。

 しかし、彼女中尉はすぐに笑みを作りこう答えた。

「ああ、私でよければ、ぜひ」



「羽黒准尉! 起きたまえ! 交代の時間だぞ!」

 太くずっしりとした天童大佐の声で目を覚ました。

 体に響き渡るような声だ。

 例えるなら、金属が何かでたたかれて振動しているよう、とでも言っておこうか。

 一度も、今の季節の描写はしていなかったかな?

 一応、今の季節を言っておくことにしよう。

 今は、冬。

 冬である。

 日本海側では、雪が降る季節。

 太平洋側は、乾燥する季節。

 そういえば、戦場の話もしていなかった。

 私は他国に、足を踏み入れているというわけではない。

 ここは日本。

 もっと詳しく言うのであれば、名古屋である。

 名古屋。

 ご存じだろう。

 愛知県。

 つまり、太平洋側。

 乾燥していて、当然だが、寒い。

 結論として、寝袋から出たくない!

「おいおい、羽黒准尉。起きたまえ」

 あきれたような声がした。

 男の人の声ではない。

 女の人……富良野中尉か!

「はっ!」

 班員のクスクスとした笑い声が聞こえた気がした。

 どうせ、「なんて単純な奴なんだ」とでも思われているのだろうな。

「羽黒准尉おはよう。寒けれど頑張ろう」

 富良野中尉が口を開くたび、白い息が姿を現す。

 顔に寒いと書いてあった。

 そうだ。

 みな寒いのだ。

 私だけではない。

 そう言い聞かせながら、私は体を起こした。

 あれ?

 大佐の姿が見えない。

 あたりを見回すと……。

「おい! 大佐! なぜあなたが寝ているんです!!」

 思わず、私が突っ込みを入れてしまった。

 この人、私を起こして寝ちゃったのか。

 ……ふざけた人だ。

「すまないな、羽黒准尉。大佐は、起きるのが苦手なんだ」

 富良野中尉が申し訳なさそうにそういった。

 まあ、富良野中尉がそういうのであれば、仕方がないか。

 でも、上官たる者しっかりと起きてほしかった。

 中学生や高校生みたいなこの状況になっているのは、悲しい。

 このように思っていると、富良野中尉がガツガツと足音が鳴るような勢いで大佐のもとに向かっていた。

「た・い・さ! 起きてください。羽黒准尉も起きましたよ」

 こんなにぬるくて大丈夫なのだろうか?

 まぁ、私が言えたことではないだろうけれど。

 そういえば、今見張りをしている人は誰なのだろう?

 私が、コートを羽織って外に出てみると目の下にクマをつくった佐野花芽大尉と長野絆中尉がいた。

 血の引いた顔色をしていた。

 彼らは、私を見た途端声をそろえて言うのだった。

「もう、いいですかね」

「もう、いい?」

と。


 見張りというのは、かなり退屈なものである。

 ただ突っ立っているのだ。

 あくびが止まらない。

 見張りを開始して、ちょうど1時間がたった。

 たったの1時間しかたっていないのか。

 それぞれ、持ち場が少々離れているので話をすることさえできない。

 もっとも、見張りの途中に話をするのは規則違反、というよりマナー違反である。

 現在時刻、4時。

 言うまでもないが、午前である。

 辺りにまだ太陽が出てくる気配がないし、なんたって寒い。

 日の出頃が、一番気温が下がる。

 手先がかじかんでくる。

 かじかんでうまく動かない。

 今「じゃんけん」しろといわれたら、勝手にグーが出てきてしまうほどだ。

 じゃんけん……どのタイミングでそんなことをするのだろう?

 あくまでも、たとえ話だ。

 あまり突っ込まないでいただきたい。


 一人で、グッパ(手を広げたり握ったり)していると人影が見えてきた。

 あわてて銃を構える。

「おいおい、撃たないでくれよ」

 大佐の声だった。

 この人身体が大きいから怖いんだよな。

「何でしょうか?」

「特に、用事はないのだけれどな」

 大佐は、軽く笑みをつくってこういった。

「少し話をしようと思って。規則違反かもしれないけどな」

 SNSなら、「(笑)」や「w」が付いている感じだった。

 それらのマークといっても大げさにではなく、あくまでも「微笑んでいる」のだ。

 この大佐も意外と、話せる人なのかもしれなかった。

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