番外編01 第三次世界大戦 其の一
戦場に吹く乾いた冷たい風。
風に乗って伝わってくる砂埃。
遠くでも近くでも聞こえる爆発音。
鼻の奥をくすぶる死体の腐敗した匂い。
誰ともわからない者の悲鳴。
物のように転がる死体の数々。
嫌気がさす――。
この戦争が始まって、もうすぐ半年がたつ。
第三次世界大戦。
あれほど人類は避けていたはずだったのに……。
また、人の悲鳴が聞こえてくる。どこからかロケット弾あたりが落とされたのだろう。
このように語っている私ではあるが、私もこの戦争に身を置く軍人だ。
軍人――銃をもって戦う使命を負った人。
人を一人でも殺したものが英雄。ヒーロー。
私が属していた班は、ほぼ壊滅的である。10人いた班員も私1人しかいない。
今はこうして、建物の陰に隠れているところだ。天井からは、小石みたいなものが水滴のように降ってくる。パラパラと。
私が持っている食料は、もって2日。
軍の拠点までつけないと、殺す殺されるの前に餓死してしまう。
なんとしてもそれまでにはつかなくては。
絶対に。
しかし、どうしたものだろうか。
敵に囲まれている。幸いなことにまだ敵は私の存在に気が付いていない。
先ほど、食料の話はしたもののまだ武器の話はしていなかったのでこの際話しておきたい。
手元にある弾丸は約80発。手榴弾は2つ。
以上。
以上である。
両手に抱えるほどの銃を持っていたものの、それ用の弾丸が切れてしまったので捨ててきた。(残念ながら私は銃の名前などには疎い)
そして、今手に持っているのは拳銃。
この戦場では、少々心許ない限りだ。
仕方がない。場所を変えて身をひそめるとしよう。
音たてないようにしても、全く音をたてないようにするのは不可能に近い。(というより、真空中でないと確実に不可能だ)
砂利が敷かれた駐車場を歩くような、もしくは神社の境内を歩くようなサクッサクッという軽い音を立てながら私は移動する。無論、身は屈めている。なぜこのような音が鳴るか説明が必要だとは思えないが、親切に一応説明しておくことにしよう。
ここは戦場だ。かつては舗装されていたとしても、さすがに爆撃に耐えられるほどの強度は持ち合わせていない。もうわかっただろう。そう、コンクリートが崩れて小石、砂利のようになるというわけだ。加えて、建物の瓦礫も加えれば完璧だろう。
「あっ」
不意に体が持ち上げられる。
私の身体が、宙を舞っている。
言うまでもないが、私には空を飛ぶような能力を備えていないので外的な衝撃が加わったのだ。
大方また何かが爆発したのだろう、と予測をしながら私は容赦なく地面にたたきつけられる。叩き付けられた反動でまた少し宙に浮く。
体を持ち上げて自分の状態を確認する。
……体には、目だった傷はないようだ。
しかし――、背中から叩き付けられるととてつもなく痛い。
いや、痛いというよりも息苦しいと表現した方が適切かもしれない。
どうすることもできない痛みに、芋虫の如く動く。芋虫以上に素早くもがく。
ようやく、息ができるようになってきた。
思い切り息をこれでもかと吸い込む……が、またすぐにせき込む。
ご存じの通り、この辺りを漂う瓦礫の埃塵によるものである。
苦しい。
息ができない。
空気を吸いたい。
でも、今それをしたら肺の中に空気中のそれらを吸い込むことになる。
つまり、数学風に示すなら
「空気を吸う≒埃塵を吸い込む」
ということになるだろう。
5分ほど思う存分もがいた後、上半身を起こした。
思わず、ふうと息が漏れる。
身に着けている服は真っ白。
そういえば、学校のグラウンドに転んだときこんな感じになったっけ?
学校、学校といえど中学校。
今さらだが、私は日本生まれ日本育ち。
純正の日本人。
所属しているのも日本軍だ。
いい機会だ。ここで、このようになった経緯をはっきりさせておこう。
しかし、私も国の上層部ではないので詳細は知らない。知らされていない。(最も、私が国上層部だったのならこんな埃と、血にまみれた場所には来なくて済んだだろうが)
おっと、忘れてはいけない。
日本にはかつて、軍隊はなかった。
日本国憲法で、持つことは禁止されていたからだ。(グレーゾーンで「自衛隊」でもめていたが)
けれども、全世界が戦争をしていれば「わが国でも軍隊を持とう!」となるのも無理はないだろう。
結果、憲法は改正され現在に至る。
まぁ、そういうことで私の知っている範囲でだ。
日本のすぐそばにある国、北夕鮮が核実験をまた実行した。
いつもなら、ここで話は終わったはずなのだが、今回はそうはいかなかった。
北夕鮮と上国の繋がりが白日の下にされてしまったのだ。
これを見過ごさなかったのが、アマリカ。
待ってました、というかのように上国への経済制裁を加えた。
もちろん、上国も黙っていない。黙っているはずもない。
やっけになった上国は、戦争に乗り出した。
もう、上国には逃げ場はなかったのだ。
ゆえに、そのような行動に出た。
世界を巻き込む戦争に――。
私が知っているのは以上だ。
これ以上も以下もない。
終わり。
私の語る経緯はおわりっ!!
また空から降ってきた。
爆弾が――。
そのせいで「おわりっ!!」となってしまった。
恥ずかしい限りだ。
といっても、誰かが見るわけでもないだろうが。
幸い、少し距離があったのでまた飛ぶことは免れた。
もうごめんだ、宙を舞うだなんて……。
はぁ。
もう限界だ。少しここでしゃがむとしよう。
尻をつけられないのは残念だが、生き残るためだ仕方がない。
いい加減、温かい風呂にゆっくり入って、布団の中にもぐりたいものだ。
あたりが妙に静かだな……。
どうやら敵部隊が場所を移動したようだ。
安心すると同時に、警戒もしなくてはならない。
もしこちらに向かってきていたら、命を奪われかねない。
なんとしても生き残るのだ。
「なんとしても……生き残る」
自分で、言葉にしてみる。自分に言い聞かせるように。
「誰だ! 姿を現せ!」
誰だろう?
日本語を話しているし、イントネーションもおかしくないからおそらく日本人だろう。
外人なら
「Who are you?」
と叫ぶところだろう。
しかし、味方かどうかはわからない。
なぜなら、海外に所属している日本人かもしれないからだ。
おっと、足音が……。これは人数が多いな……。
おそらく戦っても勝ち目はないだろう。
「そこにいるもの! 武器を捨てて、両手を後ろに回して膝をつきそこで待て!」
ここは、この声に従っておくことにしよう。
ただし、拳銃はすぐに出せるように腰の後ろにさしておこう。
だんだんと、足音が大きくなる。
さあ、そろそろ見えてくることだろう。
その角から……。
大きな音とともに上から降ってくるものがあった。
「うおっ!!」
今度こそ赤面ものだ。
おっさんが叫ぶような声になってしまった。
そういえば、落ちてきたものは……。
私の目に映ったのは、銃を構えた青年だった。




