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PCcontrol  作者: 枕木碧
第二章 高山編
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第21話 炎上

 人は考える。

 考えるからこそ人といえる。

 考えることは素晴らしい。

 しかし、考えること、意志があること、意識があるということはとてもつらいのである。

 なぜそんなことが僕に言えるのか。

 今、それを実感しているからだ。


 僕は、なぜか青く澄みきった曇りひとつない晴れた空に身を投げていた。

 無論、僕が好きでやっているわけではない。

 サミダレに無理やりつけられたロケットのような飛行装置を着せられ、言われるままにスイッチをONにしてみると、徐々に上昇するのではなく一気にスピードが上がった。

 そのため現在このような状況である。

 サミダレは、空気を味わうのと景色を味わってこい、なんて言っていたがそれどころではない。

 風圧が強すぎて口を開くと口内に思い切り空気が自己主張してくるのだ。

 俺は、私は、僕はここにいる。あんたの口に勢いよくぶつかっているんだ。わかっているのか、と。

 おそらく、僕の口は現在はたから見たらとんでもない様子になっていることだろう。爬虫類か両生類か……僕は生物についての知識が疎いがきっとそこら辺の生物の一部のようになっている。

 自分で見ているわけではないのに嫌でも自分の脳にスクリーンに映し出されているかのようにリアルタイムで映っている。

 右上の隅に、アルファベットで「live」と記載されているに違いない。

 想像するだけで見苦しい。


 上昇限界高度に到達したらしく僕の身体は上昇をやめた。

 今の状況を適切に表現するとしたら、ピタゴラスイッチでよく見るドライヤーによって浮かんでいるピンポン玉であると思う。

 少々息が上がっている。

 諸君は、運動不足な奴め、運動しろ! などと思っているかもしれない。

 しかし、異議申し上げたい。

 よく考えてみてほしい。考えれば当然だろう。

 まず、ここは上空つまり地上ではない。僕が言いたいことがわかるだろうか。要は酸素が薄くて息がすぐに上がってしまうのだ。自分の呼吸音が嫌でも耳に入ってきて、正直わずらわしい。

 加えて、上空だから寒さが尋常ではない。僕の身体は、口では息をハアハアして苦しそうな音を上げており、歯は寒さに耐えきれずカチカチと火打石でも打っているかのような奇妙な音を発している。

 次に、ものすごいスピードで上空に上がってきたので、気圧がすごかった。すごかったなどというと語彙力がないなどと怒られることは承知の上だ。もう一度言う。

 すごかった。


 脳内で処理を終えた僕は、目の焦点を合わせる。

 息をのんだ。

 そこは、人生で初めて見る絶景だった。

 永遠に続くと思われる木々に覆われた世界はミニチュアの世界と化し、地平線の彼方まで見える。

 あれが海なのか。

 地球上で半分以上の面積を占める海。その海水と呼ばれる海の水は舐めると塩辛いという。

 僕たちの世界で、欠かせないのが言うまでもないが塩である。この世界では、塩が冗談にならないくらいの高価な値で取引されている。

 それなら、海ぐらい実際に見たことがあるのではないかと思った君! 素晴らしい質問だ。

 僕たちの世界で取引されている塩は、いわゆる岩塩という奴だ。海水からとった塩ではない。そのため僕は海を実際に見たことがないのだ。いや、今見ているから見たことがなかったのだ。

 しかし、ここで一つの疑問が浮かぶ。

 あれ? なんで海に行かないの?

 行かないのではなく、行けないのだ。

 仕事が終わってなければ、休憩できないようにcannotなのだ。

 察しがついたものもあるかもしれないが、それは人工知能が操る戦闘ロボットがうじゃうじゃいるからだ。

 先も言った通り、人には塩は必須だ。奴らはそれをしっかりわかった上で、あえてそこの守りを固くして自分の身体のほとんどを占めている金属が錆びるのをいとわず潮風に吹かれているのだ。

 ご苦労なこった。

 これに通じて、川や湖のそばも危険である。

 人には、塩同様に水も大切なのだ。あわよくば、水さえなくして人に死んでもらおうとしている。忌々しいことだ。

 考えることが人に似ていやらしい。

 まるで、天草四郎一揆の時に幕府がとった方法と同じじゃないか。

 確か、兵糧攻ひょうりょうめだっただろうか。


 一通りの文句を述べて360度景色を見てみたが、あるのは山、山、山、山、海……であった。これの何を楽しめというのだろうか。

 だが、紅葉の季節、秋にこの風景を見れば素晴らしいこと間違いなしだ。

 辺りを彩る紅、まだ未熟な橙、アクセントの黄、常緑樹の変わらぬ深い緑。自然が織りなす、この世界に唯一無二の秋の絨毯は、この命を引き替えにしても惜しくはないだろう。

 春も悪くないかもしれない。

 桜の木があれば、穢れを知らない薄桃色の塊がところどころにぽつぽつとしているだろう。強い風がそれらの心をゆすれば豊かな香りが辺りを包み、木から桜の花弁が離れ行き先の知らない旅を始める。それはきっと、天女か何かが天空に戻っていくような鮮やかな光景だろう。


 僕の妄想はとどまるところを知らず、どんどん広がっていく。


 しかし、それを邪魔する事件が起きた。

 それは、肺まで凍るような冷たい空気を身を任せて取り込んでいる時に起きた。

 淀みのない空気のはずなのに、変なものが僕の鼻を刺す。

 不思議に思った僕は、自分の背中に背負っている装置が発する奇妙な熱を感知する。

 ここまで来てしまうと、大体の予想はつく。

 僕も馬鹿ではない。

 黒い煙を発したと思うと、僕は隕石の如く地上に向かって落下しだした。

 覚悟を決める隙さえなかった。

 不思議なことに、自分が地面に迫っているのにもかかわらず地面が迫っているように感じるのだ。

 気が付くと、目の前に湖の水面が広がっていた。


 轟音が響く。

 僕の目には気泡が大量に見える。

 あ……沈んだんだ。

 というより、突っ込んだんだな……。

 僕は、このまま死ぬのだろうか?

 おのれ……サミダレ……。

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