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PCcontrol  作者: 枕木碧
第一章 旧東京→旧岐阜編
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第02話 初陣

 出発の朝。

 その日は、やけに冷え込んでいた。

 車に、銃をはじめとする武器や食料などを詰め込んだ。手が少しかじかんでいたので手がうまく動かない。

 あたりはまだ暗く静まりかえっていた。地上に出るのは、何日ぶりのことだろう。人工知能のロボットが地上を支配するようになってから、僕たち人類はかび臭い地下で生活をしている。


 世界大戦終了後、僕は生まれたので東京のことを知らない。つまり、がれきの山の東京と、ただ植物が生い茂るジャングルのような旧東京しか知らないのだ。母さんによれば、ビルという高いコンクリートでできた建設物に囲まれていたという。


 現在時刻4:58


 ガルジ長官が、朝っぱらから大きな声で集合をかけた。まだ、睡眠状態から起きていない体に自分で鞭打ってガルジ長官のもとまで走って行った。余計なことを考えてはいけないとは思うが、よくそんな元気が出るな、と思ってしまう。

「いよいよ、出発だ。覚悟はできているか!よし、行くぞ!」

ガルジ長官のこのセリフが終わると同時に、

「この命は、人類のためにささげ人工知能に屈しないことを誓います!」

班員全員で、胸の心臓のあたりを三回たたきながら叫んだ。

 この行動は、「了解」という意味が含まれている、らしい。


 現在時刻5:00


 車が動き出した。ガラガラという音とともにスピードを上げていく。道は舗装されていないために、走っている最中は砂埃をたてながら進んでいく。


 しばらく車に揺られていると、あたりが明るくなってきた。窓から東の方向を向くと山の間から太陽が顔をのぞかせていた。


「旧福岡」までは長く険しい道のりになるだろう。しかし、このとき僕は人工知能の恐ろしさを甘く見ていたのかもしれない。


 車内では、班員は各々のことをしていた。1時間交代で見張り(警戒)をする。それ以外は、自由だ。ある人は読書を、ある人は武器の手入れをしていた。

 穏やかな時間が流れているそんな時だった。車体が大きくはねたような気がした。ような気がしたのではなく、はねていた。車はしりもちをついたような形で地面についた。運転をしていたサマがスピードを上げる。それとほぼ同時に応戦態勢になる。僕を除いて。

「何してんの!」

というカルの怒号がとんだ。

 僕は、急いで身をかがめた。次の瞬間、大きな音とともに大砲らしきものが飛んできた。少し離れたところで大きな音とともに着弾。大きな炎があがる。

 僕は、正直なところパニックに陥っていた。実は、初めての実戦だったのだ。狙いを定め、発砲する。轟音と共に手にしびれが迫ってくる。うまく狙いが定まっていなかった。訓練では、しっかりできていたはずなのに……。

 そんな干渉に浸っていると、僕は車から弾き飛ばされた。車体の一部に着弾したのだ。まるで、蹴られたボールのようにしばらく転がった。叩きつけられた頭をあげると想像を絶する光景が目に飛び込んできた。

 見たところ300機あまりの実弾を搭載したロボットがあたりを囲んでいた。僕は、この状況に呑まれていた。頭になにも浮かばない、真っ白な状況とはこの事だろう。ふとそんなことを思った。このまま終わるのか……。

「生きろ!」

頭に直接送り込まれたようなそんな感覚だった。誰の声かは分からない。しかし、その言葉を耳がとらえた瞬間、ぼくのからだは勝手に動いていた。地面に叩きつけられた衝撃で手放してしまった銃を手にして走り出した。

 そこからのことはよく覚えていない。無我夢中であったことだけ記憶している。結果から言えば、カルが負傷したが大事には至らず皆無事だった。

 何とか逃げ切った時にはもう日は沈んでいた。後から確認したところ、襲われたのは旧静岡と旧山梨の辺りだった。夜は危険が伴うので、一旦富士山の根本に位置するちょっとした洞窟に今晩は泊まることになった。


「いっ。」

「痛みますか、カルさん。」

と声をかけながらナジルが応急処置をしている。目はカルの顔にいっているが……。分からないでもない。カルは美しく輝く宝石のような赤い髪をした、美貌の持ち主である。美しさの中に少し幼さが残っているのもいい。

いやいや、そんなことを考えている場合ではなかった。あの「生きろ!」という言葉が流れてきたときなにかが見えた気がした。あれはいったい……


「カンジ、ちょっといいかな。」

と僕に手招きをしながら呼んだのはサマだった。昔から僕の面倒を見てくれる姉貴のような存在だ。

サマの「少し歩こうか」という提案にのり、僕たちは広大な星空の下をゆっくりと歩いていた。

 突然、サマは立ち止まりこう言った。

「なぜ、あの戦闘のとき何で諦めようとしたの。」

いつもの笑顔は消え、真剣な眼差しで訊いてきた。僕は驚きを隠せなかった。お見通しだったのである。「どうしてでしょう」なんていう曖昧な回答をすると、怒ったように彼女は言った。

「あなたは以前、楽観的だと自分の事を言っていたでしょう。でも、今回の戦闘でようやくわかったわ。貴方は、楽観的ではなくて、自分の事を諦めているんだよ、きっと。」

 その言葉の意味をその時僕は、理解することができなかった。しかし、何故か懐かしい面影を思い出したような気がした。

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