第15話 再会
カルとの再会を果たした僕は、正直驚きを隠すことができず目を見開いて彼女を眺めていた。そうしているとカルが、んっと朝に目を覚ますような声を上げて目を開けた。
「あ、カンジだ。久しいね」
なんて人なんだ。この状態で、普通に道を歩いて旧友に会った人みたいな話し方をするだなんて。
「いま、その鎖切ります」
僕が、銃を構えるとカルは焦ったようだった。
「ちょっと待て。切るってそれでやるの」
「ええ、もちろん」
「いやいや、もちろんじゃなくて。殺す気なの」
「ふふふ。当たったら痛いだけですよ」
「それが問題……」
僕は、カルが言い終わる前に発砲した。別に緊張していたわけではないので何の問題もなく終了した。終了したというより、完了した。
「少し、緊張した」
解放されたカルは、肩をなでおろした……と思ったら、逆に彼女は伸びをしていた。なんとタフな人なんだろうとと心底思う。
「カンジ、銃の腕少し上げたんじゃない?」
「それは、幾度となく修羅場を乗り越えてきましたからね」
胸を張っている僕からさっと目をそらし、視線は僕の後ろにいるサユキだった。
「そこの女の子は、カンジの彼女?」
とぼけたように聞いてくるカルに僕は、
「本気で思っているんですか」
と突っ込みを入れる。しかし、カルがどこまで冗談で、どこまで本気で言ったかは検討が全くつかなかったが。カルの様子を見るかぎ切り、本気ではなかったようだ。ニコニコと笑っている。
そんなカルとは正反対に意外にもサユキは困った顔をしていた。
「いや、本気じゃないですから。気にしないでください」
「気にするなといわれても、困るものがある」
なんなんだこの人は。どうフォローすればいいのかわからない。僕まで困ったら、まるで『犬のおまわりさん困ってしまって~』などという歌のようじゃないか。
「おいおい、お二人さん。何を困った顔しているんだい。空気がお通夜になりかけているぞ」
カルの心無い言葉に珍しくサユキと声がハモった。
「お前のせいだ!」
と。
雑談……にもなっているかわからないが、そのようなやり取りが落ちつたあたりでカルの語りが始まった。そう、今までの出来事の語りが。
場所を移動していないために辺りは暗いままで、修学旅行の夜に先生の目を盗んで恋バナでもしているかのようだった。
その修学旅行でさえ、今はほとんど行われていない。この戦争という状況で、それをできていたのならとんでもなくメンタルが強いというものだ。
「私は、あの夜散歩に行っていたんだ……」
「あの夜というのは、あの僕たちの班員が無残にも何者かに殺された夜のこと……ですよね」
「ああ、もちろんだ。散歩に行った理由は、言わんでもいいでしょう。それとも聞きたいかい?カンジくん」
楽しそうに語るカルが僕は信じられないのだが、別に聞かなくてもいい彼女が散歩に行った理由を聞かずに済むよう僕は首を精一杯横に振った。
「なんだ。そんな一生懸命首を横に振らんでもいいじゃない。……。なんかごめん。話を続けます。散歩から帰った私は、地獄絵図のような状況をこの目で見た。あの状況を表すならこの表現が最適でしょう。カンジも見たんでしょう。そこには、君、カンジの姿と、ナジルの姿はなかった。といっても、確実にそうであったとは言いにくいけどね。暗かったし、みんな元の形をほとんど残していなかったし。ひどかったの一言に尽きるねこれに関しては。他に言いようがない。犯人がわからないのがなんともやりきれない気持ちにさせるね。その後、私はとにかく安全地帯――人工知能のロボットが侵入できない場所をさまよっていた。さまようといっても、ちゃんと最初の目的地を目指して進んでいたよ。そんな疑うような顔でこちらを見ないでよ。本当だって。しばらくしてから、ここ高山に行きついたってわけ」
長時間話して疲れたようで、カルはふう、とため息をついた。
「では、何でそうやって捕まっていたのですか」
大体の予想はついていたが、僕は一応聞いておいた。
カルもそんなことを聞かれるとは思わなかったのだろう。体を起こし背筋を伸ばしたまま固まってしまった。石造の如く。
しかし、やはりカルはきれいだと僕は改めて思った。体のラインがきれいなのだ。細いながらも筋は通っていて、体全体のバランスがいい。加えて、顔が整っている。文句のつけようがない。
「何見てんだよ、カンジ。私の身体を舐めるようにみて。なんだい。恋に落ちたか」
相変わらず隙のない人だ。ぼーとしているから大丈夫かと思えば、すぐ僕にちょうどいいタイミングで突っ込みを入れる。そうなると、僕は顔を赤くせざるを得ない。
その様子をサユキは静かに眺めていた。どうやら、状況を把握できていないようだ。それも当然だ。忘れていたが、自己紹介でさえしていないのだ。否、カル紹介。
「サユキさんごめんなさい。まだ、紹介がまだでしたね」
サユキは、いきなり僕に声をかけられて驚いたようだ。飛び跳ねていた。思わず、カルも僕も吹き出してしまいそうだった。
「い、いや。気にするなよ。私なんぞお気になさらず」
「そういうわけにもいかないですよ。ね、カルさん」
カルは、だるそうにしていた。
「ん、そうだな」
「……」
「え、自分でするのか」
「そうですよ。自己紹介してください」
驚きを隠せていなかったが、カルは咳払いをして口を開いた。
「私は、crawl旧東京本部所属カルです。どうぞよろしく」
随分な変わり様に今度は僕が、驚愕してしまった。軍隊に所属するものは皆こんなものなのだろうか。
「あ、えーと。私はサユキです。よろしくお願いします」
なんだかいきなりぎこちない空気になってしまった。そういえば、サユキって一体何者なんだろうか。あんなに強いなんて。
「あの、サユキさん。失礼ですが、サユキさんは何者なんですか」
そう聞いたのは、カルだった。怖い。正直怖い。カルの思考がどうなっているのかのほうがよっぽど気になるよ。
「実は私、元crawlの隊員だったんです」
僕は、えーと叫んだ。幼稚な表現だが、本当なのだ。さらに、叫んだのは当然僕だけではなかった。隣にいたカルもそうだった。




