第14話 悪王
大きな門が開く。
絶望への門が大きな音をたてて……。
「やぁ、よくいらっしゃいました。待っていましたよ」
王の声だけが門前に響き渡る。その声に反応して、反乱を起こしている民衆と狼犬でさえ手を止める。
「僕は会いたくなかったです」
と率直な感想を僕は述べる。その言葉を受けて王はこう言葉を放った。
「まぁ、君の感想などどうでもいいのだ。私の独占社会の邪魔をする奴らを排除する。無論、君らも含まれる」
「やはり、あなたの差し金だったんですね。王よ。あの狼犬は」
僕のセリフをきくと、彼は無気味な微笑を見せ、手を叩いて見せた。
「君は頭がきれるんだな。ご苦労、ご苦労」
僕は、ここまで不快な思いをしたことが今まであっただろうか。そのくらい、気分が悪かった。そして、王は続けた。
「じゃぁ、さようなら。少年」
次の瞬間、狼犬と兵士が飛びかかってきた。僕は、それに構わずこういった。
「あなたには勝算ありませんよ。あなた方の武器は、まだ未熟だ。最先端の技術を持っている僕には勝てませんよ」
僕は腰につけた拳銃を両手に持ち放った。これまでにない集中力、だったと思う。狙いは的確だった。狼犬2匹の頭部を貫くと、その直後すぐに残りの狼犬も撃ち抜いた。
大きな音を立てて狼犬は、バタッと倒れた。地面には大量の血がバケツを倒した時に広がる水のように地面を赤く染めていた。それを見た兵士たちは、腰を抜かして化け物でも見たかのごとく僕に尻を見せて退散していった。
周りの余計なものを排除したうえで再度王のほうを見た。明らかに彼は“恐れ”を抱いていた。
「王よ、先ほどの勢いはどうされた」
怒りの念を込めて僕は言った。隣にいるサユキは、僕の変わり様に口をあんぐりとあけているらしかった。王はようやく、意識を取り戻した。と同時にあがきだしたのだった。
「あ、頭が……。わ、われ、割れるように痛い……うっ」
絞るような声で叫ぶと、地面に倒れた。
どのくらい時間がたっただろうか。辺りは、しーんと静まり返っている。
「こいつの意識はどうなっているんだ」
聞いたことのない声だった。いや、声自体は聞いたことのあるのだ。しかし、抑揚のつけ方や声の出し方などが違う。
そのようにして、考えを巡らせていると王がむくっと立ち上がった。
「総括している親は、何を考えているんだか、まったくもってわからん。こんな年老いた奴に埋め込みやがって。何のメリットがあるんだ」
親?埋め込む?メリット?何の話だろう。
「試験でやっているのはわかっているけれど、やめてほしいよ。この争いのしりぬぐいをしなくちゃならないのだから」
これは、別人格だ。前の王じゃない。
「カンジとかいったか。お前はやはり邪魔だ。消えぞこねた奴が」
旧式の銃を僕に構える王の姿が目に入った。僕の身体は、反応しなかった。僕は、自身の終わりを覚悟したのだが、それを阻止するものがあった。
――サユキだ。彼女は、迷わず王の脳天に向かって発砲していた。次に見える光景は悲惨なものだと思われた。しかし、その光景にはならなかった。つまり、血は…飛び散らなかったのだ。彼女が撃ち抜いたのは王の右頭部。そこには、僕の想像を絶するものが顔を出した。
脳が、輝いていた。その光は、金属が反射する光だった。
僕の頭の中で、一本の糸になったような気がした。親というものの意味は分からなかったが、埋め込むとは人工知能なのだろう。メリットとは、人間側の情報。となると、親は……。
固まっていた王が、また動き始め、口が動く。
「どうせ撃つなら左頭部にしてよ。そうしたら、ぽっくり逝けたのにな。こいつの僕の本体は、旧式の銃じゃ撃ち抜くことはできない。まぁ、使命を果たすためにはこっちの頭部でよかったのかな」
使命?
「今、使命とは何のことかと思っただろう。まず、君を消すことだ。でもね、この状況ではここにいる奴ら全員消さないとな」
言い終わると、王は手を振り上げそれを下した。するとどうだろう。屋敷の奥の方から、狼犬が今までに見たこともないほどの数で襲ってきた。300匹は切らないと思われるほどの数……。加えて、従来の狼犬ではなかった。今目の前にいるのは、ロボットに近い。
「これを見るのは初めてかな、カンジ。今までの奴らはただ生物の品種改良だが、こいつらはその生物に人工知能を埋め込んだ。だから、恐れというものを知らないぞ」
王が言った通り、なりふり構わず狼犬改良版は襲ってくる。
僕の背後では、悲鳴が聞こえる。町民たちはなすすべもなく、食い殺されているらしい。彼らを助けられるほど僕たちにも余裕は残されていなかった。
僕は、サユキと再度背中合わせになり狼犬を倒していく。まるで地獄絵図だ。もう機械化していた。銃を撃ち、弾が切れたらまた装填する。その繰り返し。
辺りが静かになった。地面は血で一面赤く染まり、もとの地面が見えなくなっていた。その地面に物体と成り果てた狼犬、町民の姿。生存者は見渡す限り僕とサユキ、そして――王のみ。
「生き残ったか。拍手ものだな。カンジ君がここまでするだなんて誤算だよ。我々の演算能力も大したことないな。これ聞かれたら消されてしまうな」
感情のこもっていない王の笑い声が響く。
「そうだ。勝った君に伝えなきゃいけないことがあったんだ。この屋敷の地下に贈り物があるから、受け取って帰るといい」
言い終わったか終わらないかという時、銃声が僕の耳は捉えていた。一方、目は血の海に落ちようとしている王の姿を。
いったい何が……。
血が跳ねる音がする。すくむ足を自分でたたき王のそばへ駆け寄ると、左頭部が撃ち抜かれていることを確認することができた。
こちらは、人間の脳だったのか。
ということは僕たちははじめ、人間の王と会話をし最後は人工知能の王と会話をしていたことになる。
「コイツは、半分が人間で半分が人工知能……ロボットだったんだな」
サユキが僕の肩に手を置いて話しかけてくる。
これは、大変なことになった。人の中に人工知能が紛れている可能性が……。
サユキは、暗いトーンでこういった。
「この争いは何のために合ったんだろうかね」
僕らは、しばらく呆然としていた。そうするほかなかった。心の整理が必要だったのだ。
落ち着いた頃、僕らは人工知能版の王が最後に言い放った“贈り物”とやらを見に行くことにした。僕ら二人しかいない街は、今までと打って変わって息をひそめているようだった。
まず、地下室を探すのに骨が折れた。例の地下室は、入口の地面にはまっていた蓋から入る仕組みになっていた。血のせいでうまくそれが見つからなかった。それを見つけるのに30分はかかったと思う。
地下室の中に足を踏み入れる。街中(決して地上ではない。忘れているかもしれないが地下に広がる街なのだ)は血の匂いが充満しているのに対して、地下室はカビの匂いが強かった。正直息苦しい。その息苦しさを耐えながら進んでいき、その先を懐中電灯で照らしているとだんだんとだいたいの形が見えてきた。
これは……。
輪郭がはっきりとしてくる。
「おい。なぜ君がこんなところにいる」
僕は、大きな声を上げる。大きな声を上げずにはいられなかった。なぜなら、僕の瞳には鎖で壁に貼り付けられたあの洞窟で行方不明となったカルが映っていたのだから。




