第12話 紛争
すごい音だ。こんな音は聞いたことがない。
昔行われていた人同士の戦争とはこのようなものだったのだろうか。
対人工知能&ロボットだとこのような大きな音は出ない。
なぜなら、ロボットは雄叫びを上げないからだ。
僕とサユキは、路地の陰でやり過ごすことにした。といっても、どこまでやり過ごせるのか。そう考えると自然とため息をつかずにはいられない。
金属のこすれる音、弾丸が飛び交う音、獣の唸り声……。
唸り声?
僕は、どうしても気になってしまう。
この状況で、獣の唸り声といのもおかしい気がする。今は、人と人の争いだ。そこになぜ獣がかかわってくるのだろうか。血液が全身をめぐり、僕の脳に全血液が集まるような感覚に陥る。
考えろ、考えろ……。
焦りながら考えているとある生き物が浮かび上がってきた。
あ、あいつだ!
すると――
「危ない、屈め!」
どこかで見覚えのある獣が飛び込んできた。そう、大きさは柴犬ぐらいで、顔は犬というよりおおかみに近く、むき出しになった牙と鋭い目を持つ獣――狼犬だ。僕の身体は、サユキの声に反応し屈んで何とか狼犬の第一撃は逃れることができた。
「けがはないか」
サユキが聞いてくる。家にいる時とは打って変わって先ほどから男っぽくなっている。そんな彼女に「大丈夫です。まぁ、少し地面に擦れたくらいです」と情けない声を上げると
「シャキッとしろ。今戦闘中なんだぞ」
なんて、僕に気合を入れてきた。だが、相手は一匹(一頭というべきだろうか)だ。何とかなるだろう。
僕は、腰につけておいていた村正のレプリカに手をかけ、相手の様子をうかがう。
狼犬は、真っ直ぐと僕の目を見てきた。そう、まるで何か見透かされているような……。
相手から先に仕掛けてきた。風を切ってものすごい勢いで突進してくる。
僕も負けじと素早く村正を抜く。銀色に輝く刃が露わとなる。剣を振り上げ振り下ろそうとした瞬間、僕の後ろの方でまた別の音が聞こえた。音……よいうより声だろうか。思わず前の敵のことなど忘れて振り返ってしまう僕がそこにはいた。
振り返った先には王の屋敷で見た兵士――。槍を構えて僕のところへ飛び込んでいる最中だった。次の瞬間、彼のこめかみはサユキが放ったと思われる銀の弾丸によって貫かれた。
と同時に、僕の身体は宙を舞った。簡単に言うと吹っ飛んだのだ。狼犬の突進してくる勢いで。
ああ、これで何度目だろう。このまま落下すれば確実に噛みつかれる。それに、横腹を。ここでしまいか。
だが、ここで終わらなかった。余計なことを考えている間にサユキが兵士を打った銃を狼犬に向け、再度はなったのだ。見事!と声を上げたくなるくらい的確に狼犬の眼球を打ち抜いた。
それが原因となり、狼犬は、壁に弾き飛ばされた。
眼球を貫いた弾丸は脳まで達したのだろう。狼犬はしばらく痙攣していた。最もしばらくといっても一分ももたなかったが。
痙攣がおさまり、とうとう力尽きたと思われたその時、最後の力を振り絞って狼犬が遠吠えのような声を上げた。
僕はこの狼犬の行動がとてつもなく恐ろしく感じられた。
サユキを見ると彼女も何かを察知した様だった。サユキが口を開いた。
「この遠吠え。何かあるぞ。そうだな、たとえば……仲間を呼ぶ、敵の居場所を知らせるため……」
そうだ、僕が恐ろしさを感じたのはここかもしれない。とにかくここからいち早く移動しなければ。
僕の身体は勝手に動いていた。サユキの手を取り、刃をむき出しにした村正をもう片方の手に握ったまま、刃の交わる大通りに走り出した。
「おい、どこに行くんだ」
尖った口調で僕に問いかけるサユキに対し
「とにかく場所を変える。この大勢の中だとなかなか見つからないだろうし」
と走りながらやや興奮して高ぶった声で返答した。
どの程度走ったのだろう。かなりの距離を血と砂埃、金属、火薬の匂いが充満した道を突破してきた。
ここまで来ればしばらく大丈夫だろうと息を整えながら顔を上げると――王の屋敷が僕の目に映し出された。
「カンジ、何をしてくれているんだ」
サユキが苦笑しながら突っ込みをした。ああ、自分でも思い切り突っ込みを入れたい、と思った。
あまりにも衝撃的だったため「え~」とか「うわ~」などというよく小説などにかかれるような声は上げられなかった。
上がった声は、どこから絞り出してきたのかわからないような「えっ」というつまったものだった。




