第10話 王様
明るくなって視界が開けると、にぎやかな街が広がっていた。
「すごいですね。地下にこんな街を作るだなんて」
「ああ、俺を感激したよ。初めて来たときはね……。さぁ、まず、王様のところに行こう」
「先ほどから気にはなっていたのですが、王様ってことは、この町の実権は王様が持っているということですか」
ああ、というかのようにマカヌケさんは頷いた。
街に飛び交う威勢のいい声。おじさんの皆さんお元気なんですね。
その中に、若い美女が一人……。明るい声。おじさんの声の中だとより一層目立つ。こうやっておじさんや美少女が叫んで売っているのを見るのは初めてだ。こんなセールス方法あるのか。僕の住む寮では、おばちゃんが料理を出してくれるぞ。調理場には若い人がいない……。悲しいな……。
「おーい。行くぞ。少女に目を奪われて突っ立ているぞ」
「あ、すみませーん」
なんと、見られていたのか。
気を取り直して歩き出す。
どのくらい歩いただろうか。マカヌケさんは、大きな門の前で止まった。
「マカヌケです。カンジさんをお連れしました」
大きな音を立てながら、門が開く。
「さぁ、行こうか」
マカヌケさんに導かれ、僕は大きなお屋敷の中へ進んでいった。
お屋敷というと和風をイメージしてしまうが、そののつくりは西洋風で、全体の色は白だった。屋敷中に銀の甲冑に身を包んだ兵士が立っている。僕に対しての視線が、痛いほどに鋭い。
案内されたのは、八畳ほどの部屋。
「少々お待ちください」
とメイドさん。本物を初めて見た初めて見た。
椅子に腰かけて待っていると、王様だ――という雰囲気をまとった紳士が現れた。想像に反してスマートで質素な服を身に着け宝石などは見当たらなかった。
「お待たせ。彼がカンジ君かね、マカヌケよ」
「はい、王様」
「そうか――思ったよりひょろっとした奴だな」
今の言葉にし腹が立った。……が、抑えて抑えて。今暴れてしまっては、ここまで必死に来た意味がなくなってしまう。
「お初にお目にかかります。crawl旧東京本部所属カンジと申します」
「ほほう、礼儀はまぁまぁだな」
え、ちょっと待ってください……王様のほうがお口が悪いですよ――なんて言いたくなってしまった。何よりも彼の人を見下す目が僕の怒りを生み出してくる。
「普通の人間のようだから自由にしてでしょう。もう帰ってよろしい」
「はい、感謝いたします」
マカヌケさんが代わりに答えてくれた。
屋敷を出ると、一気に肩の荷が下りた気がした。
「はぁ~」
と自然とため息が出てしまう。
「ハハハ。大変だったか」
「いや大変というか、なんというか……疲れました」
「そうだよな。俺もあそこは好きじゃない。――あの王ろくでもないしな」
最後のほうがよく聞き取れなかったが、確かに彼は『あの王はろくでもない』と言った。どういうことだろうか。このように思ったその時――ある少年が前を通った。
「え、今の子って」
「ああ、気づいた?すごいね」
「やはりあの子は、普通の国民ではないのですか」
僕は声のトーンを低くして聞く。
「君が察している通り、あの子は『奴隷』だよ」
「そんな……ひどい」
率直な感想が僕の口から出てしまった。そんな僕を見て、あわててマカヌケさんは僕を制した。
「今の発言が軍部の連中の耳に入ったら大変なことになるぞ」
「大変なことって……」
「まぁ、よくあるようなことだ。想像つくだろう」
「はい……」
しばらく沈黙が続いた。その沈黙を破ったのはマカヌケさんだった。
「そうだ。君、宿ないでしょ」
「そうですね。この辺で適当に宿をとらないと……」
「いやいや、俺の知り合いの家に泊まるといい。俺の家でもいいが狭くてな」
言葉に甘えて、マカヌケさんに例の知り合いのところまで連れて行ってもらった。
やはり、地上と違って土埃の匂いがする。視界も何となく、霧に包まれたようではっきりしない。この場所を歩いていても息苦しい。最も文句を言える立場ではないが。
王様の屋敷から少し歩いた。少し歩いたといっても何回も曲がってここまで来たので屋敷まで戻れと言われても不可能な話だ。
「よし、ついたぞ」
うわ、と声を上げてしまいそうだった。きれいなところは予想はしていなかったものの、ここまでとは。今にも崩れそうだ。そのような家の戸をマカヌケさんは勢いよくドンドンとたたいた。僕は、崩れてしまうのではないかと気が気でなかった。数秒の沈黙の後、家の中で人が動く物音がした。そして中から16、7歳くらいの少女が出てきた。




