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レノヴァの異変

「ついに明日はレノヴァ祭だな!」

「お前、あの子のこと誘えたか? ダメだった? また今年も一人かよ。寂しいねぇ」

「今年から広場の魔光灯まこうとう、どれが一番かってみんなで投票できるんだってな。一等になったら領主様から賞金も出るらしいぞ」


 港に近い昼どきの食堂は、働く男たちで賑わっていた。パンを頬ばり肉や魚にかぶりつく、その顔は一様に明るい。みな、明日から始まるレノヴァ祭を楽しみにしているのだろう。

 シェザリューンを抱えたアドルは入口で、空いた席はないかと店内を見まわす、と。

「おい! 魔法使いさんたち、ここ空くぞ!」

 店の奥から威勢のいい声が飛んできた。


 ここ一月ほどの検問で、『病弱なのにがんばっている魔法使い』と『それを支える健気けなげな使用人』はこの辺りで有名になっている。

 椅子車(人力車に似た物)もそうだが、いい歳をした男が、いい歳をした青年を抱えて歩くのだから目立つのは当然だ。こうでもしないとぐうたらな師匠は昼食をとらないので、その身を案じる弟子としては人目など気にしていられない。


 ちなみに、アドルはシェザリューンを「師匠」と呼んでいるにも関わらず、この辺りの人々には弟子ではなく使用人だと思われている。逞しい体や肉体派な印象のせいだろう。

 これを知ったら健気な弟子は、きっと心で泣くに違いない。



「師匠、しっかり食べないとダメだぞ。まだ事件は解決してないんだ。祭りの間も検問と警邏けいらは続くからな」

 席に着き、食事が運ばれてくるとアドルはせっせと食べさせる。

 本当は事件が解決してから心置きなく祭りを迎えたかったが、と思いはするものの、こればかりは仕方ない。


 内勤部隊はさまざまな事件を抱えて、検問と警邏に奔走ほんそうしている。

 ダージェからの供給がとどこおっている魔石・魔鉄を採るために、外勤部隊は遠征を増やしている。レノヴァの領主様も仕入先を確保するために、自ら他領に赴いている。


 みな、がんばっているのだ。だからアドルも自分にできる事を精一杯やるしかない。それでも師匠は大丈夫だろうかと、ほっそりとしたシェザリューンを眺めて心配顔にもなっている。

 弟子の気遣いが通じたのか。もたもたと、それでもいつもよりはしっかり口を動かしている、気もするシェザリューンがのん気そうな顔をひょいと傾けた。


「アドルは祭りの夜、誰かと出かける?」

「いや」

 残念ながら、女性と縁遠いアドルはすぐさま首をふる。


 レノヴァ祭初日の日暮れとともに、広場は美しい魔光灯で照らされる。楽団が曲を奏で、人々が楽しげに踊る華やかな夜。

 シェザリューン魔法店では居間の魔光灯を消し、窓から見える街の明かりを眺めながら、街の賑わいに耳を傾けながら、弟子はちびちびと酒を飲む。師匠は三人がけソファにくたりと寝そべり、心地よさげにうとうとしている。

 というのがアドルの、予定という名の妄想なのだが。


 ――まさか。


 師匠は誰かを誘ってしまったのだろうか。祭りの夜はのたのたと、それでも楽しそうに出かける後ろ姿を、一人寂しく見送ることになるのだろうか。いや、師匠は筋金入りのぐうたらだ。わざわざ誰かを誘うとも思えない。となると。

 アドルは先ほど港で会った人物を思いだし、太い眉毛がギュゥッと寄った。


「リディが遊びに来たいって言ってたけど、いいかな?」

 やはりそうだったか。しかも、師匠なら出かけるのを面倒臭がるだろうと、自らやって来る気遣いっぷり。

 強敵という名のかつての弟子リディウスに、初戦のおやつ対決では負けてしまったアドルだが。


 ――今度こそ、奴に勝ってみせる!


 メラメラと闘志を燃やす現在の弟子は、グッと拳をふり上げた。

 なんとなく考えていることがわかったのだろう。シェザリューンがぬるい笑顔を向けていることに、アドルはまるで気づいていない。





 ――その頃、市門では。


 内勤部隊の若い隊員は、うだる暑さと長々と続く行列に、ゲンナリした顔で溜息をついた。

 彼はあの、不出来な弟子に悪態をついて師匠の返り討ちに遭い、続いて、ちょっと調子に乗ってモテない弟子をからかったがために、またしても師匠に懲らしめられてしまった、残念な若者である。


「よし、通っていいぞ。次!」

 先輩隊員のキビキビとした声が門前に響く。

 ここ一月。レノヴァではさまざまな事件が起き、内勤部隊はとてつもなく忙しい。それなのに、どうしてこんなに元気でいられるんだろう、と若い隊員の口から再び溜息がもれる。でも。

 検問を待って列をなす人々をぼうっと眺めながら、若者の顔がニタ~っとゆるんだ。


 明日はついにレノヴァ祭。幼馴染の可愛いあの子がこの街にやって来る。村を出てから数ヶ月、久しぶりの再会だ。でもな。

 若い隊員は胸元をギュッと握りしめた。シャツの下には幼馴染からもらったお守りがぶら下がっている。

「魔獣と戦うんでしょ? これ、持っていって」

 彼女は大きな瞳をキラキラ輝かせながら、お守りを渡してくれた。だが、若者は内勤部隊、魔獣と戦うことはない。しかも。

 実はこのお守り、持っているのはこの若者だけではないのだ。もう一人、一緒に村を出た青年も彼女からもらっている。その彼は、外勤部隊に配属されていたりもする。


 幼馴染に会うのは嬉しい。けれど内勤部隊だと知ったら、彼女はガッカリするかもしれない。もう一人の青年に可愛い幼馴染を取られてしまうかも。レノヴァ祭が失恋記念日になるのは嫌だ。やっぱり惚れ薬が欲しかった……かも。

 彼の口からまた、溜息が出た。



 若い隊員のうつろな目が、門の外に並ぶ人々を順番になめていく。

 この街にはいくつか市門があり、緊急の場合を除けば、混雑を緩和するため、それぞれが入門用・出門用と別れている。ここは入門、レノヴァにやって来た者たちが列を作る。

 やはり他領から来た商人が多いようだ。商品を積んでいるのだろう、馬車がずらりと並んでいる。

 こんなにたくさん持ってきても売れ残るんじゃないのか。検問の手間もかかるんだから、もっと少なくしろよ。若者の目がジトリと据わる。


 頭から布をすっぽり被って目だけを出しているのは、ダージェの東にある隣国イストルから来た一行だろう。かの国のずっと東には砂漠があり、そこを越える者たちはああした格好をするのだと、若者も知っている。

 でも、このクソ暑いレノヴァで布を被らなくてもいいだろ。見てるだけで暑くなる。それに、さっきからこっちをチラチラ見てる奴は男なのか女なのか。目しか見えないけど、俺を見てるんだから女かな。

 へへっ、と若者の頬がゆるんだ。そのとき。


 ――カタンッ


 布を被ったイストルの一行、若い隊員をおどおどとうかがうように見ていた人物の足元にあったのは、陽を受けて光る短剣。


「あ、あれ……」

「ん? おい、それは何だ!?」

「まずい!」

「早くお逃げください!」

 若い隊員の声に気づき、短剣を見咎めたのだろう先輩隊員の鋭い声。イストルの一行から上がった焦りのにじんだ叫び。彼らは布の中に隠し持っていたらしい剣を抜いてもいる。

 短剣を落とした者の目はおろおろとさまよい、そして、くるりと背を向けて駆けだす。


「おい! ボケッとしてないで、あいつを追え!」

 先輩隊員の大声に、若い隊員の体は弾かれたように走りだした。


 彼の耳には金属のぶつかる音が届く。集まってきた隊員たちとイストルの一行が切り結んでいるのだろう。

 検問に並ぶ人々や馬車が邪魔だ。それでも若者は走った。何も考えず、いや、突然のことに頭が回らず、ただただ布の人物の、細い背中を追う。疲れているのか、よろめくように逃げる人物と若者の距離が縮まっていく。


「待てぇ!」

 若い隊員は渾身の力でもって、布の人物に飛びついた。



「顔を出せ!」

「こいつ、手配書の男だぞ!」

「ダージェの領主の弟だ!」

 駆けつけた隊員の一人が、若者が必死になって取り押さえていた人物の布をはぎ取った。現れたのは内勤部隊がこの一月、足を棒にして探し続けていた、気の弱そうな感じにも見える男の顔だ。


「よくやったな、新人!」

「お前の初手柄だぞ!」

 何が起きたのかよくわからず、息を乱しながら立ち上がった若い隊員に、先輩隊員たちが豪快な声を浴びせていく。

「お、俺の手柄?」

「おお、そうだ。お前の手柄だ。これでお前もレノヴァを守る、立派な内勤部隊の隊員だな!」


 ――俺が、レノヴァを守った?


 みなの笑顔を見ているうちに、若者の胸にじんわりとした何かが湧き上がってきた。肩に置かれた先輩隊員の手の重みが、内勤部隊が背負っているもののように思えて、武者震いにも似たものが体を駆けめぐる。

 若い隊員の顔に晴れがましい笑みが浮き、そして、その表情はキリリと引き締まった。


「立て!」

 若い隊員は声を張り上げ、捕らえた男の腕をつかむ。

「お、新人、張り切ってるな」

「こんな大きな事件が初手柄だったんだ。当然だよな!」

 先輩隊員たちの笑い声が門前にこだまする。これでダージェの領主暗殺未遂事件が片付くと、みなの表情はどこまでも明るい。

 だから気づかなかったのかもしれない。


 捕らえられた男――ダージェの領主暗殺を企てたという腹違いの弟の、乱れた髪の下には、いびつで獰猛なわらいがあった。





 陽も沈んだ頃。店じまいしたシェザリューン魔法店の居間で、アドルは元同僚のシーリスと酒を酌み交わしていた。

 シェザリューンはいつもどおり、ソファにくたりと寝そべっている。


「祭りの前に事件が一つ片付いて、良かったな」

「そうなんだけどなぁ……」

 ニカッと笑ったアドルに、しかし内勤部隊の小隊長はなぜだか難しい顔になって酒をすする。

 少し前、師匠もこんな顔をしていたような。あれは師匠の実家に帰ったとき、ダージェの領主の、腹違いの弟について次期主人と話していたときのことだ。

 気になったアドルがソファを向くと、シェザリューンは珍しく起き上がり、まじめな顔つきをしていた。


「シーリスは何か引っかかってるんだ?」

「あぁ……なんて言うか、気に入らないんだよなぁ」

 シーリスはふて腐れた感じで続ける。


 腹違いの弟は一月あまりの逃亡生活に疲れたのか。力なく、それでも素直に取り調べに応じたという。

 暗殺を企てたのは、ダージェの領主が魔力物まりょくものの利益を独占しようとしたため。

 この共和国は、民の豊かさが国力につながるとして、貴族や金持ちによる魔法使いと魔力物の独占を禁じている。これに反した領主は、領主会議でその地位を返上させられることもある。


「その弟はダージェの民のために、腹違いの兄を暗殺しようとしたのか?」

「まあ、な。領主の一族にはいい奴もいるとかでさ。領主さえいなくなれば、そいつらの家名も守れるって考えたみたいだけどな」

 手段はどうかと思うものの感心な弟じゃないか。アドルが窺うと、シーリスはうさん臭そうな顔を曖昧あいまいに揺らした。

 今度はシェザリューンの、思案げな顔が斜めにかしぐ。


「ダージェの領主の評判はどう?」

「兄貴から聞いた話じゃ、良くないな。領主はこの国より、イストルにつきたいんじゃないかって噂もあるらしい」

 シーリスは豪商の次期主人から聞きだしたようだ。


 イストルは魔法使いや魔力物を貴族が支配している。この共和国の民からすれば時代遅れの国、貴族だけが富める国だ。

 ダージェの領主はそのイストルに属したいという思想を持っている。これは、この共和国を発展させた偉大なる元首を輩出した、レノヴァ育ちのアドルが受け入れられるものではない。

 首をふったアドルの、太い眉毛がピタッとくっつく。


 だが、実現は極めて困難だ。

 イストルはダージェの東隣にある。けれど間には山脈が連なっており、交通の便は悪い。一方、ダージェとレノヴァの間は平地。もしダージェがイストルにつく、などという事態になれば、この国はすぐにでもダージェを奪還するはずだ。

 うなずいたアドルの、太い眉毛は元の位置に戻った。



「ふぅん……じゃあ、その弟の話に変なところはないよね? それでもシーリスは気に入らないんだ?」

 シェザリューンが小首をかしげると、シーリスの顔も傾く。やはり兄弟だからか、こうした仕草はよく似ていると、アドルはのん気に思う。

「なんだか、あの目がなぁ……」

 気の小さそうにも見える、腹違いの弟の目が妙に落ち着いていると感じるときがある。こう、歯切れ悪く続けた元同僚の、眉間にしわが寄った。


 内勤部隊の小隊長はこれまでの経験から、捕らえた弟に不審を覚えているのだろう。外勤部隊だったアドルにはわからないが、経験から来る勘は案外当てになるものだと思っている。

 となると、どうなるのか。


 肉体派な弟子は自然、師匠に目がいった。シーリスも『シェザ兄』の意見を聞きたいのか、そちらを見ている。

「これは僕の想像だけど」

 シェザリューンの口が動いたとき。


 ――ドン、ドン、ドン、ドンッ


 店の戸を叩く音。こんな時間に誰だろう、ずいぶん急いでいるようだから怪我人か。アドルはいそいそ戸口へ向かう。


「誰だ?」

「リューン兄様! 大変なんです。この街が、レノヴァが大変なんです!」

 アドルが戸を開けると、今は領主様に仕えているかつての弟子、リディウスが秀麗な顔を歪めて飛びこんできた。



「今日、遠征に出ていた外勤部隊から報告がありました。魔獣の動きがおかしいんです!」

 居間に駆けこんだリディウスは焦った様子で捲し立てる。


 それによると、一部の魔獣が生息地を離れ、徐々にこの街の方へと向かっているらしい。これは今、外勤部隊が近くの農村を拠点に抑えている。領主様に仕える魔法使いの何人かも、現場へ向かっているそうだ。

 そして、その魔獣の多くは布蜘蛛。自ら魔力布まりょくぬのをまとう、つまり魔力を通しにくいという布の特性が効きづらい種だ。


「……僕たちがさばく前の魔力物が、魔力布に包まれて、この街か、この近くに、たくさんあるってことだね。それが魔獣を惹きつけてる」

 難しい顔になったシェザリューンがボソリとつぶやく。リディウスは苦しげに眉根を寄せ、「申し訳ありません」と唇をかんだ。


 通常、魔法使いが捌く前の、魔獣を呼び寄せてしまう危険な魔力物(魔石・魔鉄・魔草)は、魔力布で包まれて厳重に保管される。だが、魔力布は完全に魔力を遮るわけではないので、魔獣の生息地から離れていても、街に多くの魔力物を貯めこむのは危険だ。

 そのため、魔獣を呼び寄せない程度に魔力物の持ちこみを抑える、という管理を領主様に仕える魔法使いが行っている。

 リディウスはその任を果たせなかったことに、責任を感じているようだ。


「ちょっと待てよ。今レノヴァはダージェから魔石と魔鉄が入ってこないから、魔力物は減ってるはずだろ? なのに何で魔獣が来るんだ? それにどの領だって、魔力物はしっかり管理してるはずだ。それなのに、どこからどうやって持ってきたんだよ?」

 シーリスの険しい目がリディウスを向いた。その口調はいつもより早い。元同僚も焦っているのだろうか。いつもなら余裕を感じさせる青の瞳が揺れ、「もし、魔力布を取られたら……」ともこぼす。


 この事態は明らかに人為的なもの。となれば密かに持ちこまれたらしい、魔力物を包んでいるはずの魔力布を取れば、大量の魔物がその魔力に惹かれてこちらにやって来る。

 これに気づいたアドルののども、ゴクリと音を立てる。


「それは……」

 顔色の失せたリディウスの、肩がふるりと震え、アドルはハッとした。

 今、領主様に仕えている魔法使いの何人かは農村へ向かっていて不在。不足している魔石・魔鉄を仕入れるため、他領に赴いたという領主様もまだ帰っていないのかもしれない。

 となると、レノヴァの明日はリディウスたち数名の肩にかかっているわけで、けれど彼はまだ二十歳はたちほどの青年なのだ。

 アドルはつかつかと歩み寄り、重圧に耐えているであろう青年の肩に手を置いた。


「今、俺たちがしなきゃいけないのは魔力物を探すことだ。大丈夫、魔獣は外勤部隊が抑えてくれる。魔法使いと内勤部隊、みんなで探せばきっと魔力物だって見つけられる。だから今は余計なことを考えるな。やるべき事だけを考えろ」

 太い眉毛の寄った迫力顔が、しかし頼りがいのある顔が迫ると、リディウスの震えが収まっていく。

「リディ、アドルの言うとおりだよ。大丈夫、みんなを信じて、僕たちはやるべき事をやればいいんだ」

 にっこり笑ったシェザリューンに、今度は青年の肩から力が抜ける。

「あー、リディ、悪かった。なんだか俺も焦ってた」

 ガシガシと頭をかいたシーリスが、バツが悪そうに笑うと、リディウスの顔にも硬いながらも笑みが戻ってきた。



「よし! じゃあ、俺たち内勤部隊と魔法使い全員、総動員で街の捜索か」

「はい。実は今、魔獣の動きがおかしいということで、私たちが街の魔法使いを動員してる最中だったんです。内勤部隊にも通達は届いてるはずです」

 調子を取り戻したらしいシーリスとリディウスが、話を進めていく。

「魔力物がこの街の中にあるとは限らないんだろ?」

「それも村の魔法使いと自警団に動いてもらうために、伝令を送りました」

「なんだ、ちゃんとやってるじゃないか。ちょっとリディが焦ってただけか」

 シーリスがニヤリと笑えば、リディウスも照れたように苦笑う。


「ねえ、シーリス。今日捕まえたダージェの領主の、腹違いの弟ってどうなるんだ?」

 ここでシェザリューンの、思案しているのか、どこかゆっくりとした声が二人を割った。

 突然の問いに、シーリスとリディウスは一瞬、ポカンとしたようだ。それはアドルも同じだったが、こんなときに師匠が無駄口を叩くとも思えない。彼よりずっと付き合いの長い二人も同じように考えたのだろう。それぞれに口を開く。


「ダージェの領主のことがあるから、領主様が話を聞くことになってるぞ」

「領主様はレノヴァ祭の開催までにはお戻りになります。ですから明日中には、その男を審議なさると思いますが……」


 ふむ、とうなずいたシェザリューンは、アドル、シーリス、リディウスを順に見わました。

 そしてこの一月、街で起きた変わった出来事――ダージェの領主暗殺未遂事件と手配書の遅れ。魔獣屋の魔力布盗難事件と薬屋から魔法薬が盗まれたこと。ダージェからの魔石・魔鉄が滞っていること。最後に、今日になって腹違いの弟が捕まったこと。

 これらを指を折って並べていく。


 師匠はいったい何を言おうとしているのか。先ほど、リディウスが来る前に言いかけていたことと関係があるのか。そういえば師匠は実家に帰ったとき、何事かを考えていたようだった。そのことともつながるのか。

 アドルが固唾かたずをのんで見つめたとき。


「これ全部、ダージェの領主が仕組んだことじゃないかな?」


 居間が、シン――と静まった。



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