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3.マズマ

 黄と茶の縞模様のねこであるマズマがオレを鋭く睨んでいる。彼は機嫌が悪そうだ。マズマに呼応するように周りの取り巻きのねこ達が唸り声を上げ始めた。


 オレの前に立つ数匹の取り巻き達が捲し立てる。


〔チビは出ていけ!〕

〔そうだ、出ていけ!  お前は余所者だ!〕

〔マズマさんが許さないからな〕

〔〔絶対に許さない!! 〕〕


 うーん。

 なんでなんでこうなったんだっけ?





 少し前、オレはバッタを転がして遊んでいたんだ。

 前足をプチ。もう片足もプチ。手で抑えてプチプチこーろころ。

 そんな感じでバッタと戯れていたことを思い出した。


 確か、逃げるバッタを追い詰めていって、その後で蝶々を追って行って……。

 そうだ、確か質屋のバカねこの縄張りに入っちゃったんだ。それで、そのバカねこと喧嘩してやっつけちゃったから、こんなことになっているんだな。




 ドンっ、とマズマが前足で地を打つと、敵意を剥き出して騒いでいた取り巻きのねこ達は一斉に口をすぼめて閉じた。


 唸るような低い声を出して、マズマがオレに訊ねてくる。


〔不意討ちしたってのは本当か?〕


 オレのことを卑怯だと騒ぐ取り巻き達を、〔静かにしろ〕と怒鳴り付けたマズマは眼孔を鋭くしてオレを直視した。


 なんという貫禄。

 オレはたじたじになって後ずさる。


 でも、違う。

 オレは違う。卑怯なことなんか何もしていない。


 そう主張するオレを嘗めるように眺めるマズマ。そして取り巻き達にも視線を流していく。


 ああ、恐いよぉ。ちびっちゃいそう。


 だけど四つの足で踏ん張る。小刻みに震えてくる身体を逆に大きく揺すり振るう。


 そして、オレもマズマのことをしっかり見据えてやった。


 だって、本当にオレは卑怯なことなんか何一つしてないんだから。




 そんなオレを見て、意地悪な目をしながら取り巻きのねこ達が口々に話しだす。


〔アイツ(質屋のバカねこ)はオレ達の昔からの仲間なんだ。アイツが嘘つく筈無いやい〕

〔この卑怯もの!〕

〔アイツ(質屋のバカねこ)は傷だらけなのにチビは無傷なのが卑怯ものの証拠だ〕

〔チビは卑怯もので嘘つきだ〕

〔嘘つきチビは村から出ていけ!〕

〔そうだそうだ!! 出ていけ!!〕〕


 多勢に無勢のオレは泣きそうになって、いやもううっすらと涙が滲んで俯いた。みんなして酷いよ。


 世間は新参者と弱者に厳しいや。


 オレがガックリ項垂れて消沈していると、取り巻き達の後ろから先ほどオレが打ちのめした質屋のバカねこがのそのそと現れた。

 奴はキョロキョロと周囲を窺い見ながら、そして口元に微笑を浮かべながら。


 質屋のバカねこはオレとマズマ達を見比べて、どうやら状況を察したようだった。


 さっきとは真逆の勝ち誇った顔になると、颯爽とオレの前でまで歩みより、くるっと反転して尻尾でオレの顔を叩いた。

 そしてマズマの元へすり寄ろうとした。


 オレは理不尽さに歯噛みして、悔しくてしゃがみこむ。


 くそっ、くそっ、と前足で地面を叩いていると、ガツン、と鈍い音が聞こえた。

 その音に反応して顔を上げると、質屋のバカねこが宙を舞いながら吹き飛んでいくのが見えた。


 質屋のバカねこは眉間から血を垂れ流して、ギニャアアアァ、と悲鳴を上げていた。


 うわっ、ねこに出来る一発を軽く越えてるよ。前足で叩いただけであんなに何メートルも吹き飛ばすなんて。


 それにとんでもなく痛そうだ。それに、背筋にぞわっと寒気が走った。

 マズマ恐い!


〔散ろ!〕


 大声を出してマズマが威嚇し毛を逆立てた。すると途端に取り巻きのねこ達は散開して走り去っていった。


 オレだがその場に茫然と佇んでいると、ゆっくり悠然とマズマが横に来て腰を下ろした。


〔すまなかったな。

 俺はお前が言うことを信じていた。だが、それと同じように他の奴らも俺は信じたかったんだ。分かってくれると嬉しいんだが〕


 マズマはオレの背中を申し訳なさそうにひと舐めして続ける。マズマのおおらかさに、その優しさに包まれて震えそうになってくる。


〔お前の言い分は信じていたんだがな。お前が全く傷を負っていないから、俺には少しだけそれが不思議だったんだ。まだお前はこんな小さな子供なのにな〕


 一応、質屋のバカねこは大人のねこだ。八年か九年くらいの歳の筈だ。

 そして質屋のバカねこは私腹を肥やした質屋主人の太っちょに可愛がられているから、飼い主に似て図体も態度もデカい。


 でも質屋のバカねこは決して弱いわけじゃない。奴は少し鈍いだけだ。でぶっちょのノロマねこになら、必殺のオレのねこパンチも当たるのさ。


 だから、決して卑怯な手段で質屋のバカねこと喧嘩して勝ったんじゃないのだ。


 オレの背中を舐める舌を止めてマズマが言う。


〔なんかよ、人間の話じゃ最近強い魔物が村の外に現れたんだってな。お前知ってるか?

 オレの縄張りはこの村の中だから、まだその魔物を見てねえんだがよ。聞いた話じゃどうやら毒か催眠か、特殊な能力持ちらしいぜ。厄介だよな。

 いいか、お前調子に乗って外に出たり魔物なんかに近寄ったりするなよ]


 今度は質屋のバカねこを吹き飛ばした前足をしきりに舐めながら、マズマはオレを心配してくれた。何だマズマなりの照れ隠しのような言い方も少し嬉しい。


 オレは羨望の眼差しになってマズマを食い入るように眺めた。〔なんだよ、見るんじゃねぇ〕と照れ臭そうにしている。

 でももっとこっち見てよ、シャイなのも格好イイんだけどさ。


〔ま、俺はこの村の守り主ってもんよ。

 お前のことも絶対に守ってやるから、安心はしといていいぞ〕


 そう告げ尻尾を立ててのしのし歩き去るマズマに向けてオレは、ありがとう、と鳴いた。

 するとほんの少しだけマズマのしましまの尻尾が揺れた。マズマは相変わらずシャイなのだ。



小説、しかも投稿って難しいですね。しばらくは設定も文面も、加味して修正して削除しての繰返しです。

お見苦しい点はお許し下さい。

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