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15.ロックワーム

 声にもならない声が出るってこのことか。


 地面の穴からズルズルと這い出たそれは、蛇腹のような薄茶色い鱗で、まさしく巨大な蛇のようにその体躯を艶かしくうねうねと揺らしている。


 先っぽは頭と言うより口だけだ。肉食だろう先端の尖った凶悪な牙が何十本も見え、歪な円筒状に開いたその奥には薄緑色の舌のような器官が蠢いている。


 そんなのが3体と一際大きい巨体が1つ、もう1体は漆黒の鱗で禍々しさが他より数段上な感じがする。


 イルマが叫ぶ。


「ロックワーム4体。黒の1体は正体不明だがワーム、計5体。ロックワームは体表の固い魔物、弱点は口、火」


 うわ、カッコイイ。


 瞬時に名前と弱点も解るなんて。ちょっと見直したよ、イルマ。


「あいよ、イルマ、サンキュー」


 最も近くに表れたロックワームがガンクに飛び掛かるも、ガンクはそれをひらりと避ける。


「ナノ、【火魔法】で援護を頼む。オレは剣の1択だ。イルマは続けて分析と矢で攻めてくれ」

「火は苦手だよぉ。分かった、あー、でも鳥肌止まんない」


 即座に3人が動き出す。


 あれ、オレは?


「あー、ちびは観戦するなり逃げるなり好きにしてろ。ただし邪魔にならないよーに」


 よかった、忘れられてなかったみたいだ。

オレは尾を回転させて、少し離れた岩の上に移動した。まずは彼らの戦いぶりを観戦させてもらおう。


「我が体内に燻る熱き血潮よ。今こそ火の精霊と契りを交わしその加護を得ん……」


 ナノが前線から後退し、瞳を閉じて声を上げる。ナノが厳かな雰囲気……。おおぉ! もしかしてこれは魔法って奴かな。


 ナノが杖を握り締め頭上へ掲げる。すげぇ、風も無いのにナノのローブがバタバタはためいてるよ。


「いっくよー。ファイアーボール!」


 ナノが掲げた杖の上に発生した火の塊がどんどんその体積を大きくしていき、やがてゴートの店にある6人掛けのテーブルくらいの巨大な火の塊に成長した。


 その火の塊にナノが杖で軽く触れた瞬間、5つに別れた火の塊がそれぞれロックワームの口目掛けて飛び込んで行った。


ギルシャアアアアアアァーー


 全ての火の塊が余すこと無く命中した瞬間燃え上がるロックワーム達。なんて火力だよ。


 もしかして一番怒らしたら怖いのってナノなのかも。


「こら、ナノ。加減がなってねぇって。俺にも残してくれよ」

「だってー、火魔法は調整が難しいから」

「安心はまだだ。2体生存している」


 小さめのロックワーム3体が黒焦げになり倒れた。小さいといっても人の背丈の倍くらいの長さに人間の胴くらいの太さだ。倒れたのが当たるだけでもダメージになる。


 巨大なのはまだ残ってるが動きが鈍くなっている。黒いワームは地中へ逃げたのか姿を消した。


 辺りは肉の焼け焦げた嫌な臭いが立ち込めている。せり上がる吐き気に戻しそうになる。


 牽制するようにイルマが残った巨大ロックワームに矢を放ち、その大きな口内に吸い込まれていった。あんぐり開けた口はとても当てやすい的だな。


 ガンクはロックワームの口撃を交わしつつ、攻撃の機会を窺ってるようだ。怒り狂ったように暴れるロックワームの動きは凄まじく、なんとかかんとか捌いているくらいだ。


 それでもイルマの的確な弓矢で確実に弱り始めてるようだけど、致命傷にはなり得ない状況だ。


「む、ナノの火で硬度が弱まった。矢が刺さる。ガンク!」


 さっき一本外した弓矢がロックワームの体に刺さってるからな。


「とおりゃああぁ」


 数回の交錯の中で魔物の動きを見極めたガンクが、掛け声と共に一刀両断に叩き切った。


 凄いな、ガンクの剣。あのロックワーム、剣の長さの倍くらいの太さだけど。それを真っ二つにするなんて、何かガンクも魔力を使えるのかな。


 地響きと共に倒れ落ちるロックワーム。さ、終わった終わった。怖かったな。だけどみんなすっごく強いから、危なげなく倒せて良かったね。


「さっすがガンク、蛇の薪割りだね」

「蛇じゃねえって、ロックワームだ。デカイ奴だったし高値で売れるかもな」

「回収してギルドへ急ぐぞ。ハストランはすぐ近くだ」


 怖くて動けなくてごめんね。だけどみんなが強くて心配無く旅が出来そうだよ。


 オレは彼らの元へ駆け寄ろうと岩を飛び降りた。


 その時だった。


「きゃああぁっ!」


 突如ナノの背後から漆黒の体皮のロックワームが地面を食い破って現れ、ナノごと飲み込み登り上がった。


 一瞬の出来事だ。そして元の地中へ戻ろうと後退を始めている。


 ガンクもイルマも位置的に間に合わない。


 ナノ、今助けるよ。


 オレは瞬時に全身に魔力を練り上げると、後ろ足の腿に【身体強化】して強靭なバネを作るとワーム目掛けて跳躍した。


 被弾の瞬間に全身と爪に【硬質化】を掛ける。爪には最大限の魔力を込めてワームの体を突き破ると、【物質変換】で大気中の空気の層を固めて踏み板にして蹴り方向転換した。


ギルシャアアアアアアァーーー


 目の前でぐねぐね気味の悪い動きをして苦悶に喘ぐワームの咥内へ臆すること無く飛び込んだ。ナノの姿が見える。中で気絶しているナノのローブのフードを口にくわえてそこから脱け出した。


「ちび、ナノ、大丈夫か」


 ガンクが血相を変えて近くに駆けてくる。だけどオレの闘争本能は止まらない。


 ナノを飲み込んだ。痛くした。苦しめた。絶対に許さない。


 頭を降り続け徐々に再度地中へ引っ込もうとしている許されざる魔物に近付き、オレは全身全霊の力を込めたねこパンチを放った。


 【身体強化(硬質化)】した腕と爪、それに【物質変換】で魔力を長い鋭利な刃のようにしたオレの必殺技であるねこパンチ。


 ナノの火魔法も効かない漆黒の体躯と土を噛み砕く凶悪な歯のどれもがオレの必殺の一撃に耐えきれなかったようだ。


 良かった、ナノ。食べられなくて。助けられて本当に良かったよ。


 黒い人食いワームの命が途絶えた事を感じ取ると、安心したオレは急激な魔力の枯渇で視界が暗くなり意識を閉ざした。

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