表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/152

123.おしっこ

 翌日。


 川に沿いながらワユビュリュの森を中心からやや北寄りに進んでいく。未開の森は木々も草木も堅固な檻のように行く手を阻む。鬱蒼と繁る酷い樹海の中、左手の川を見失わないように注意しながら懸命に進んでいく。


 この辺りは前にレームスさんが駆る馬車で訪れた地域と気候でも違うのか木々の生育が著しい。


 オレ達は冗談じゃないような獣道を進行している。獣道というか、……いや、ここ獣通るの?


 あくまで目視で確認出来る位置にある川に沿って進んでいるだけなのだ。分かりやすい川辺を通行出来れば何てことないのだけれど。


 曲がりくねり全方向に広がった寝癖みたいな格好の強靭な木の枝を掻き分け、見たことも無いような虫や小動物の襲来も越えて突き進む。



 先頭を走るガンクが剣を振るい通行可能な道を強引に確保する。後ろのイルマが探索魔法を用いながらガンクに方向の指示を飛ばしかつ弓矢も飛ばす。

 木々を薙ぎ払い猛進するガンクのことを、コルテは渋い顔をしては妖精に請い願い魔除けに厄除けに獸除けに虫除けと各種祈願を施しつつ通行した道を草木のトンネルみたいに造型していく。後に獣人達を連れて再訪した時のために道を残しているのだ。


 そしてその後ろをナノが……、まぁ遅れないように追従していき、最後尾のオレは魔化コッコーから降りていた。地を駆り木々の間を猿のように飛び回り背後から迫り来る脅威を押し留める役回りを担っているのだ。前方のガンク達を見失わないように気を付けながら付いていく。



 そんな陣形でノロマな速度でひたすら川上へ歩を進めていく。



コケーッ! コケッコッコッコケーッ!!


 うん、頑張れ!


 荒野を掛ければ馬より秀でる脚力に物言わせる大型バイクみたいな巨大なニワトリも熱帯雨林のように酷く草木が生い茂る深い森の中ではかなり動き辛そうだ。



「だあぁ~っ、キリがねー!」

「根を上げるな。渡河出来る程の幅はまだ見付からぬ!」

「……つってもよ、どこまで進むんだよ」

「まだ然程距離は詰めておらぬ」


 先陣を切るガンクはだいぶ疲弊しているのかな。

 でも後ろのイルマもどうやら向こう岸まで探索魔法を使いっ放しのようだ。疲労感が苛立ちの声に変えている。


 コルテもツラそうだ。「ヒィーヒィ~、しんどいいぃ~」とさっきからずっと断続的な呻き声が聞こえている。こちらも魔法使いっ放しだからな。頑張れ!


「みんなファイトー!」


 何もしてないナノだけは一人元気そうだ。今回は魔化コッコーに跨がっているけど、傍観しているだけの姿は冒険時のオレ達の馴染みのスタイルでいつも通りだ。


 それを知らないコルテは不満を口にする。


「ちょっとあんたも何かして働きなさいよ!」

「アタシはガンク組の応援隊長だからいいの!」

「ハァ? 何なのそれ。意味分かんないんだけど」

「オイ後ろ! くっちゃべってないで仕事しろっ」


 揉める声を聞いて振り返ったガンクが怒る。


 コルテを補食しようと大きな紫色の気味悪い花弁を広げて近付いていた食人植物を伸ばした爪で切り裂く。


 オレは働いてるぞ。


「あたしはしっかり働いてますぅ。でもナノがさっきから怠慢で……」

「ナノはいいからキリキリ動け」

「~~!」

「ほら、変な蔦がイルマに巻き付いてんぞ。ランド、助けてやれ」



 あっ、イルマッ! 


 オレはイルマに飛び掛かり、胴に巻き付いている蔦を爪で引き裂いて剥がす。イルマは無事な様子だけど蔦は麻痺毒を打ち込んでいたのか、少し朦朧としているイルマの顔を尻尾で叩くと、「む……う、油断した、すまぬ」と大丈夫そうだ。


 切断された蔦はしゅるしゅると上へと引っ込んでいく。コルテが魔法を掛けて後退させたのかな。


 ワユビュリュの森のこの辺りは手強くはないけど厄介な植物が多いな。相手が植物だとイマイチ気配が察知し難いことがやり辛い。



 そうこうしてる間に後方でナノの悲鳴が聞こえる。


「キャアアァァァ!! 虫っ! 虫ぃぃぃ」


 どうしたナノッ! 今いくぞ。


 オレは後方へ枝伝いに跳躍する。


 ナノの体というか魔化コッコーごと覆うように張り付いていたのは五,六匹の大型の蛞蝓なめくじだ。一つがウミガメくらいの大きさだ。気色悪い光沢を放ちながら蠢いている。

 ただしその中の一匹は魔化コッコーに啄まれているけれど。


 オレは魔力を循環させると飛び掛かかり蛞蝓をねこパンチで切り裂きつつ、即座に円上の力場を発生させる。


 オレは想像のままに創造する!


 ちょうど尿意を催していたから思い付いたんだけれど、効くかな?


 キャットスピンソルトピー!


 上へ飛びオレは回転しながら蛞蝓達目掛けておしっこを振り撒いた。黄色い液体がぬるぬるした蛞蝓の体表に掛かり、嫌な臭いと蒸気を撒き散らして縮んでいく。


 よし、効いてるっぽいぞ。やっぱ蛞蝓には塩だよな。おしっこを魔力で塩分高めに変化させてみたけれど……。


 ふと思い至って、オレは自分の股ぐらを確認する。大事なモノは腫れていないようで安心した。

 おしっこ掛けたらダメなのは蛞蝓じゃなくてミミズだったかな?


 てゆーかナノ、おしっこ掛けちゃってごめん。



 魔化コッコーごとナノに張り付き襲っていた蛞蝓達はオレの塩分高めのおしっこで、体内の水分を外へと流し出しながらずるずる地面へ剥がれ落ちていった。


 うん、上手くいったようだな。


 あ、でもナノが細かく震えて――


「……ちょっとランドちゃん?

 何、今のは。まさかアタシにおしっこ掛けたなんて。いやまさか、そんなまさかね??」


 恐っ! ナノが恐っ!! 違う、これは不可抗力ってやつだ。ナノごめん!



 前方から盛大な笑い声が聞こえる。


「ブふウッ! アァハッハ……、ねこにおしっこ掛けられちゃったのナノ!?

 アッハッハー! ちょっとやめてよこのクソ忙しい時に。魔法制御の邪魔する気? ひー、腹痛。躾はしっかりしないと」

「コルテ! ……ブフッ」


 注意しようとしたガンクも堪えきれず笑いを吹き出して。


 みんな酷いや。

 オレはナノを助けようとして考えて繰り出した技だってのに。



 イルマだけはオレに助け船を出してくれるようだ。


「コルテもガンクもふざけてる場合か! 見た様子からして塩分だろう、蛞蝓には最適な一手だ」

「悪ぃ」


 ありがとう、流石イルマ。


「フンだ。

 何よ、面白かったんだからしょうがないじゃない。和むのも必要でしょ」

「そういう問題ではない。

 ただしランドもランドだ。いくら有効だとて、小便は自重すべきだ。仲間に掛ける類の汁では無い」

「……類の汁?

 ひぃー。イルマ、追い討ちはやめてよね馬鹿っ」


 再びコルテは腹を抱えて蹲る。笑い上戸か。

 ガンクが前で振るっている剣線も乱れているから同様に笑ってやがるな、チクショウ!



 何だよ、みんなでオレを悪者にしてさ。


 確かにオレが悪かったよ。別にナノにおしっこ掛けたくてやった訳じゃないんだ。それなのに皆して笑って。



 背筋の寒気と共にとても低い声が背後から届いた。


「……我が体内に燻る熱き血潮よ、今こそ水の理を解し浄を成せ。別つ袂を奔流のまま際を繋ぎ交わらん」


 ちょっと……、ナノ? 魔力高めて詠唱して何する気??


 そう思ってると、悠然と周回した杖は高く振り上げられる。


「アクアノックフレーム」


 ナノが掲げた杖の先端から広大範囲へと魔力が放射状に広がっていく。左手の河川が生き物のように躍動し始める。


「うお!?」

「む? ナノか?」


 みんなが乗っている魔化コッコー達が氾濫した河の水に飲まれ、水面に浮いたまま河水に流された。


コケッ!? コッコッ、コケーッ!


「ナノッ、何魔法ぶっ放してんだ!」

「いやぁぁ!」


 先頭にいたガンクが怒り慌てながら、少し離れた先の辺りでどんぶらこどんぶらこ、と揺れている。


 近場のナノのニワトリに乗るのを避けたオレは、彼女が恐くてイルマの跨がる魔化コッコーに同乗している。


 短時間で水の勢いは落ち着いてしまい周囲一帯広範囲が水没している状況へと様変わりしてしまったぞ。


「スゴい! ニワトリって泳げるんだね~」

「ふむ。馬ではこうはいかなかったな」


 ニワトリって泳げるんだ?


 たっぷりと空気を含んだ羽毛が浮力持ってるのかな。

 ニワトリの顔に表情筋は無いのでそこから彼らの感情は読み取れないけど、突然の水泳を余儀なくされ大いに戸惑っているように感じるけど。



 この魔法、キュラザン遺跡でナノが使ったやつかな?


 規模が前より断然大きいのはあの時より魔力が大幅に向上したからなのか、横の大河の水のせいなのか、見渡せば森の周辺一帯はアマゾン熱帯雨林の浸水林みたいになっている。


 でも、遺跡で盗賊達を洗い流した魔法とは何か違うように感じられた。最初だけ波も水の勢いも強かったものの、今は穏やかに緩やかにたゆたい流れている。


 魔化コッコーは水面下でアヒルみたいに水掻きしているようだ。ガンクが手綱を動かしてこちらへやってくるとナノを気遣った。


「どうした。びしょびしょじゃねーか。大丈夫か?」

「えへへ。天然のシャワー浴びちゃった」


 それを言うならシャワーじゃないよね、洪水に飲まれたんだよな?


 ナノだけが全身ずぶ濡れになっていた。青いローブが水を吸いべったりと体と魔化コッコーに張り付いている。

 被害を受けてナノが乗る魔化コッコーだけは水面すれすれをもがくようにしてどんぶらこしている。可哀想に。



 そんなにオレのおしっこ臭かったかな。本当にごめんなさい。オレは尻尾を下げた。


「でもどうすんだよ。向こう岸がますます遠くなっちまったぞ」

「あ、それ心配無いかも!」


 そう答えたのはコルテだ。

 彼女が言うには水嵩が増した事と水が浄められたことで大勢の水の妖精達が、付近を見物しにまた遊びにやって来ているそうだ。


 さらに。コルテがナノをじっとり見やる。


「ナノちゃん、川底に何かしたね?」

「うん」

「うふっ、いいよそれ。大正解っ」


 コルテが手を掲げ、ナノとハイタッチを交わした。パチンと乾いた音が響く。


 なんだろうな、意味が分からない。


 イルマも首を傾げながら尋ねる。


「どうしたというのだコルテ。

 それにナノ、一体何をしたのだ?」

「うん、川底の地面にね、架台を作ってみたの。いけるかどうかの把握は難しかったんだけど、コルテが言うなら上手に成功出来たみたいで満足かな」


 うん? どういうこと?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ