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119. 巨大ニワトリに飛び乗れ!

 コルテが巨大な街門を挟んだ向こう側の通りから四匹の巨大ニワトリを引き連れて走ってきている。


 とゆーか手綱を握って、操ってるというよりは振り落とされないようにニワトリに懸命に掴まりこちらへ突っ走ってきている。


「きゃああぁ!」

「うおっ! 魔物が街の中から出てくるぞ」

「警備隊へ連絡しろ、大至急だ!」


 付近の通行者が巨大ニワトリに驚き口々に叫び声を上げる。騒ぎの元凶は後方に門の衛兵を引き連れていた。近付いてくるにつれその声が届く。


コケーッ! コッコッコッコ、コケーッッ!!


 鳴き声もニワトリだけど、だいぶ興奮しているのか物凄い声量だぞ。


「どけーっ! お願いどいてー!!」

「コルテーッ、こっちだ!」


 木から飛び降りたガンクが手を回して指示を出し、四匹のニワトリとコルテを迂回させようとする。しかしニワトリは気が立っているらしく手綱を手繰り引っ張るコルテの指示を聞いてくれないようだ。


 ちょうど街門は大きな荷車を引いた水牛がゆっくり進行している最中だった。


 ヤバイ、このまま進めばぶつかるぞ。


「言うことを聞けってば、こんのアホ鳥……」


 猛スピードで駆ける大き過ぎるニワトリの前に光の煌めきが生じた。その光はぶつかる寸前に門扉をなぞるように移動していくと、巨大ニワトリはその光を追って走った。


 凄いや。横向きに走ってる。


 この世界では見るも珍しいドリフト走行だ。

 茶褐色の羽毛体を横に倒して地面スレスレを駆けながら、巨大ニワトリは水牛が引く荷車を避けて方向転換した。そのまま開け放たれた門扉の上を煌めきを追って走る。


 それに今のあの光は何だ? コルテが何かしたのかな。


 コルテを乗せた巨大ニワトリを先頭にして、追随するように後ろ三匹が内側に開かれた門扉の上を駆け抜けていく。



 門の通行者に長蛇の列を作っている人々まで騒ぎ立てながらも見守っているようだ。通りまで出てイルマが叫ぶ。


「こっちだ!」

「よし、飛び乗るぞ。

 ……ニワトリって乗れるもんなんだな~」

「あれに? 絶対おかしいでしょ!」


 戸惑うナノ。ガンクの方は新種の遊具を見る目で巨大ニワトリに跨がるコルテを見ているようだ。……男の子だからだろうな。普通じゃないけど、見方変えれば楽しそうでもあるし。



 煌めく光は輝く粉を撒きながら、後ろにコルテを乗せた巨大ニワトリとその仲間達を連れ迫り来る。ご丁寧に停止して悠々と接触出来る気配は無さそうだ。ぐんぐん距離は縮まる。


 オレも枝上から飛び降りて地面を一度蹴ると、ガンクの肩に乗っかる。オレがねこの体じゃなくて人間だったならニワトリに乗って操ってみたいのだけど。

 四匹というか、四頭の巨大ニワトリだとするとコルテの他にガンク,イルマ,ナノが手綱を握り乗ることになるんだろうし。


 近付く程にその大きさが鶏にしては馬鹿げたサイズだって解る。サイズ感は頭から尾までで大型の自転車か二輪バイクくらいだろうか。姿はラクダや馬なんかよりずんぐりしていて不格好だけど、速度は普通の馬より早そうだ。


「止まれないか?」

「無理っ、このまま乗って」

「よしっ、イルマ、ナノ、乗れ! 俺が殿になる」


 バーシキノル街道に出て通りから木立のあるこちらへ駆け抜けるコルテを乗せた巨大ニワトリ達。オレ達は飛び乗り、後ろ一列に手綱をイルマ,ナノ,ガンクの順に掴む。吹き飛ばされるようにして体を傾けながらなんとか全員騎鶏していく。


「きゃああぁぁ!

 怖いっ、怖いよ振動が」

「ナノ!

 足をニワトリの脇腹に突っ込んで股で挟め。重心を前へ向ければ乗れるぞ。なんてことはない。怖がるな」


 一番早くコツを掴んだのはイルマだ。振り向いて後ろのナノに巨大ニワトリの騎鶏方法を伝授している。


 オレは早々にガンクの肩から離れ、巨大ニワトリの首根っこに掴まると鶏冠の下辺りを前足で引っ掛けた。


 うおおぉぉ、鶏臭い……。


 いや、それ以上に上下の振動で身体がバッサバッサと揺さぶられてしまう。


 爪を立てないように注意しながら、前後四本の足でなんとか身体を巨大ニワトリの首に固定する。茶褐色の羽毛は本来の鶏より大振りで硬く、無防備なままのお腹は気を付けないと擦れて痛くなりそうだ。


 当然だけどニワトリの首に抱き付いてる格好で前方が全く見えない。


 でも下の地面が過ぎる速度はかなりの早さで結構怖い。

 視線を落とすと逞しい乳白色の二本足が高速で大地を掴み、地響きを立てながら目まぐるしく前へ前へと巨体を進ませている。


 これは落ちたら……、落鶏したら大変なことになりそうだ。



 必死の形振りで羽毛にくるまれながらしがみ付いているオレの後ろで、ガンクが叫んで指示を飛ばす。


「コルテ、一体何だこりゃ!?

 詳しく説明してほしいけど、このまま行くしかねーか。文句は山ほどあるからな」

「ごめーん、話せば長くなる話が色々いっぱいあったのよ」

「分かったよ、ったく。後で聞く。

 ナノ,落っこちるなよ」

「が、が、頑張る」

「よし。

 イルマ、先導出来そうならコルテの前に出てくれ。このままワユビュリュの森まで移動しちまおう」

「相分かった!

 ……む」


 前方の様子が全然分からないし身体を伸ばして固定するこの体勢もキツイし。オレはどうやら今後乗る位置を検討した方がよさそうだ。


 オレには見えないけれど、巧みに巨大ニワトリを操り一番手へ移動して先導しているイルマが停止をかけたようだ。ゆっくりとオレとガンクを乗せた最後尾も減速していく。



 頭を上げ前へ向けると、視界の端に武装した数人の兵士がたむろしているようだ。


 巨大ニワトリ達は先頭が停止すると距離を幾分離して完全停止した。


「何だあいつら。警備隊か?」

「そう。街道警備隊ね」


 街道警備隊は、バーシキノル街道の要所毎に詰所を持つ警備部隊だ。メールプマインの都市警備隊と同じく、街道で発生する様々な揉め事などの治安維持や災害時などの負傷者救助も受け持ち、往来が激しい際には交通整理までもこなす非常に激務な警備隊だというけれど。



 ガンクがニワトリを前に進めて、横に付けたコルテの耳にひそひそ話で囁く。


「俺達のこと不審がってる風、なのか?」


 うん、絶対そうだよな。

 巨大ニワトリに跨がって街道を疾走するオレ達だし、どう見ても異質だよな。


 でも、どこか様子がおかしそうにも見えた。


 彼らの表情も雰囲気からもこちらへの敵意は窺えなさそうに見えるのだ。剣や斧に槍を後ろ手に構えている警備隊兵はその様子からだけじゃどうとも判断が付かない。なんだろう。


 後ろから呻き声が聞こえた。ナノだ。停まっているのに未だ手綱をきつく握り締め青い顔を歪ませている。


「ううぅ、怖かった。気持ち悪い……」


 うわぁ。ナノ,大丈夫か? よっぽどの恐怖体験だったんだな。



 コルテは巨大ニワトリから降りると、「ちょっと待ってて」と足取り悪く歩き出す。彼女も騎鶏して少し体に不調を来している様子だ。




 総勢六人集まっている街道警備隊から一人が歩み出ると、口元だけの笑顔を作った。


「確認したいのだが、貴方がコルテ殿か?」

「うん、そうだけど」


 コルテが答えると、途端に顔中笑顔を取り繕うとその男は名をカーセ、と申し出た。


「話は第一都市警備隊隊長から窺っております。“天限のガンク”殿,“司令官イルマ”殿,“魔術砲ナノ”殿を引き連れ、馬と思しき大型動物を駆って街道を渡る手筈になっている、と」


 ん、オレは?


 あれれ、“黒嵐猫のランド”は窺ってないのか??



 カーセはにこやかに続ける。


「少々……、予め聞いておりました馬とは違う動物のため困惑しましたが、お間違いは無さそうで安堵しましたよ」


 合点するに、ラウルトンさんが第一番街の都市警備隊に手回しして、前もって連絡をしていたようだ。


 でもどうやら今回ばかりはラウルトンさんの読みが外れてしまい、馬ではなく巨大ニワトリに乗ってここまでやって来てしまったようだけれど。



 バーシキノル街道警備隊の第一詰所の所長であるカーセさんが言うには、魔物級の乗り物を駆って移動することには了承するけれど、街道を通行する上での安全上の観点から幾つかオレ達に守ってもらいたいことがあると言う。


 一つは通行の妨げになるような行為をしないこと。

 巨大ニワトリに乗って暴走行為をしないことだ。そんなこと暴走族やゴーカートに乗って遊ぶ子供じゃないのだから当然するつもりはないけれど、このニワトリ操縦が難しそうだからな。どうだろうか。

 気を付けて走らないと人をはね飛ばしたりするかもしれない。注意しなきゃ。


 次に、魔物などの災害発生時には率先して手を貸してもらいたいことを挙げた。

 これも冒険者の務めだ。

 ……といっても完全にボランティアなので、こういう状況でも全く手を貸さない慈善事業大嫌いな輩は多いらしい。うーん、まぁ確かにお金にもならず下手したら死ぬかもしれない事態に首を突っ込むような正義感に溢れた冒険者は少ないのかもね。


 最後に、こんな得体の知れない動物に乗って移動することに我々は口を噤むのだから、幾らか金を払ってほしい、とのことだ。


 ……へ?


 金を要求するの? そんなアホな話ないよね、ここが関所でもあるまいし。


 少し距離のあるガンク達には聞こえない声量で三つめの要求をしたカーセに、コルテも納得いかない顔をして睨む。


「はぁ? あんた達頭オカシイんじゃないの、何で金を出せなんて言われるのさ。あんた馬鹿でしょ馬鹿っ」


 腰に手を当て憤慨するコルテ。カーセは未だにこやかにしている。


「なんら可笑しなことは申し上げておりませんよ。これは資金援助というやつです。

 我々もね、日夜こうして街道を回って経費がかさむんですよ。やれ足りない人足、厄介な争事、苦労に釣り合う給金じゃあないんですよ。狭い街の塀の中だけ維持管理してガッポリと給金を仕舞える第一警備隊とは仕事量が違うんですよ。

 考えて見てくださいよ、街道はとてつもなく広くて長いでしょ。お分かり頂けますよね?」

「それがあんた達の仕事でしょうがっ。

 あたし達にたかるつもり? 上に言いなさいよ、上にっ!」


 バーシキノル街道を管理しているのは、メールプマイン側のバーシキノル街道警備隊の管理部署と帝国領側の同じような部署だ。上というのはそこだよな。


 カーセは笑顔で目の前の幼女を見下ろしながら手の平を振る。


「たかるだなんて。人聞きの悪い言葉を使わないでもらえませんかね。

 第一番街隊長直々のお達しを出してもらえる程の冒険者なんでしょう?

 資金など振れば溢れ落ちるくらい持っているんじゃありませんか? 下さいよ。人助けだと思ってくれて、ね」


 後ろで成り行きを見守っていたガンク達は、一方的に話すカーセにコルテがまた突っ掛かっていきややこしい事態になりゃしないかとヒヤヒヤしながら傍観していた。

 でもそこでやっと雲行きが怪しくなってきていることに気付いたようだ。


 カーセの背後で武装していた男達がぞろぞろとコルテを取り囲み、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている。


 聴覚に優れるねこのオレは、さっきからのその一部始終がはっきりと聞き取れている。


 横暴だ。


 ムカッ腹立ちながらコルテの動向を注視していたのだけれど。

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