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108.悪夢

 暗黒空間の中に、真っ白に光り輝く火柱が立ち上がった。


 オレから少し離れた位置で迸ったその光の火柱は闇を断ち、その柱を起点に光が溢れていく。やがて暗黒空間を突き破ってさらに伸びていった。


 前世のオレと意識が繋がったオレは壮絶な痛みにみまわれ、激痛に顔を歪めることになった。



 『天限』はガンクの必殺技だ。

 海賊の港で堅固な魔導ロボットをズタズタに切り裂いたガンクの渾身の必殺技だ。その時よりも、もっともっと強い力が今のには込められていた。


 オレは嬉しかった。


 ガンクが生きていたこと。オレの、前世のオレの暴走をガンクの手で食い止めてくれたこと。それがオレは嬉しくてたまらない。


 ガンクにやられるならオレは本望だよ。





 掠れて消えていく視界の中で、オレは前世のオレの意識を探ってみる。


 ガンクの今の一撃で前世のオレが死んだとは思えない。そんなの寝覚め悪いし、ちょっと居心地も悪いよ。


 でも返答は無かった。

 元々前世のオレから一方的に意識が流れ込んでくるだけだったし返事なんか来ないことは理解していたけれども。


 ああ、もうダメだ。オレ、意識が混濁してきたよ……。




 気付くと、オレはねこの姿である今世の体へと意識が戻っていた。

 象サイズになってしまった身体は、元からの子ねこから少し成長した普通の大きさの黒ねこへ縮小していた。


 全身も前足一本すら動かすだけの力は残されていないようだ。超大型船の甲板の上に倒れたままオレは鉄の冷たさを脇腹に感じていた。


 そして、それ以上に身体の芯から寒かった。どうしようもなく凍える。


 くそ、オレ死ぬのかな……。




 目の先にはガンクがいた。ドルマックもだ。


 二人は血だらけだけどしっかり生きていてオレは安心して胸を撫で下ろした。


 ガンクは剣を納めてしっかり立っていた。悲しい顔をしているのかな。


 ……ありがとう、ガンク。


 そんなに悲しい顔をしなくても大丈夫だよ。オレのことを、前世のオレがした暴走を止めてくれてありがとう。


 ……大丈夫だ。


 ……オレ、まだ死なないから。


 やりたいことや、やり残したことがまだいっぱいあるから。


 ナノやイルマにだって会いたいし。みんなで一緒にもっといろんな街に行って冒険したいんだ。


 ターニャにだって会いたいよ。オレの初恋の人だから。ターニャと一緒に時計塔から夕陽を見たいんだ。


 それに、獣人達の建国だって。オレも見届けたい。協力したいんだ。


 ……リルやユーノにゴートやマズマにだって会わなきゃ。


 まだやり残したことがいっぱいあり過ぎて、どう考えてみてもこのままじゃ死にきれない。


 ……でも、やっぱり眠い。瞼が重いよ。


 嫌だな。


 おやすみ……。

















 ◆


 ん? どこだ、ここ……。



 オレは椅子に座っていた。前には黒板。周りには制服を着た男女がいる。


 中学生くらいかな。学ランとセーラー服に身を包んだ男女がちょうど社会の授業を受けているところだった。議会政治とか三権分立とか、そんな単語が黒板に赤色のチョークで強調されて書かれていた。



 何だろう、これは。


 もしかして、夢を見ているのか?


 いや、……これはオレの前世の記憶なのか?




 薄く靄が拡がっていって、場面が切り替わっていった。



 ここは? 


 オレは光沢がある床の上に突っ立ったまま室内を見渡した。


 上に書いてある文字は……『練武場』?


「おい、光弥コーヤ。お前が鈍臭いから大会で負けちまったんだよ。分かる?」

「光弥トロいんだから。

 練習相手にもロクにならないんじゃ仕方無いって」

「そうそう。

 分かったら、慰謝料な。お前のせいで負けたんだから俺の悔しさの原因を作った光弥がそれを負担するのは当然だろ?

 明日一万だぞ。絶対持ってこいよ、逃げんじゃねーぞ!?」


 ……なんだコイツ。


 それに、道着に袴姿だ。竹刀に防具もあるから、剣道の部活動ってことだな。


 それに光弥ってのがオレの名前か?


 しかもこの状況はいじめられてるっぽいぞ……。


「ア?

 なんだよその目はよ。オイ、石崎光弥!

 テメー、ナメてんのか?」

「ふふ、やっちゃおうよ」


 オレは後ろから羽交い締めにされた。そして顔を腹を殴られた。


 クッ、もしかしてこいつらがイジメ抜いてオレを閉じ込めたのか? まだガキじゃんか。


 オレを、一人の人間を閉じ込めて死に追いやる程、このガキ二人がそこまで悪さをしたのか!?






 気を失い、オレは気付いた時にはまた場面が変わっていた。



 オレは夜の田舎道を歩いていた。


 私服だった。闇に溶け込むような黒い服を全身に着ていた。それに手提げ鞄。


 鈍い身体の痛みは部活動のイジメのせいだろうか。それに頭が重いのは、塾帰りのせいなのか。


 夜遅くまで、こんなに暗い中大変だな。送り迎えも無いのか、とオレは思った。


 こんなんじゃ、あまりにも惨めだよ。



 街灯がポツリポツリと等間隔に道を照らしていた。お腹がぐーぐーうるさく鳴り響いている。オレは俯いたまま暗闇に紛れてトボトボと夜道を歩いていく。


 それにオレは、……泣いてるのかな。


 ああ。虚しさで心がいっぱいみたいだ……。


 鈴虫の声が大合唱している中、オレは重い足取りで体を引き摺るようにして自宅までの道のりを縮めていた。



 そこに不意に、後ろから車が猛スピードで走ってた!

 ヘッドライトが背後からオレを眩しく照らした、ってそう思った瞬間だった……。


 ドンッ! 


 オレはアスファルトの上を転げ回って動きを止めた。軋んで痛む全身は指先一つ動かすことすら出来なかった。


 何だよ、夢の中なのに物凄く痛い……。


「ヤベーよ、ガキ轢いちまったよ」

「誰も見てねぇ、逃げようぜ」

「いや、車に乗せろ。どっかに隠しちまおう。

 オイ急げ! 人が来る前にさっさとやるぞ」


 大人の男二人係りで面倒な粗大ゴミでも積み込むようにして、オレは車のトランクに載せられ運ばれていく。

 そして山奥の空き家みたいな場所に連れ込まれたのか、その中へオレは投げ捨てられるように放り込まれた。


 いくらなんでもあんまりだ……。



 扉の外から聞こえる施錠される音が真っ暗の密閉された小屋の中に響いた。とても冷徹で無慈悲な音だった。

 土と葉っぱのような臭いと鉄の、いや血の臭い。それに古いカビや埃の臭いがオレにまとわり付いている。


「よし、さっさとずらかるぞ」

「大丈夫かよ、ガキ閉じ込めて見付からないか?」

「心配無ぇよ。わざわざ過疎の村まで来てんだ、容易くは発見されるハズ無ぇって」


 離れていく二人の足音。

 

 オレの身体は自分の体ではないみたいに酷く重かった。どうしようもなく、オレは挙動一つ出来なかった。恐くて、惨めで、情けなくて、痛かった。


 鼓動だけが波打つように危険信号を強烈に発している。

 オレは叫ぼうとした。でも虫のように小さくしか出ずに弱く掠れている。


 助けてよ!


 ここから出して!


 お願い、戻ってきて!!




 ……でも、ダメだった。


 何一つとして、オレ自身もこの場所もこの境遇も、何一つとしてそこに救いは無かった。


 何だよこれ。前世のオレはこうして、こうやってオレは死んだのか……。


 ツラかったよね、オレ。


 こんなの本当に悪夢だよ。


 お願いだよ。悪い夢なら今すぐ覚めてくれよ……。本当にあんまりじゃないか。

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