自慰2
この3日間、私は一歩もアパートから出ていなかった。
食事も殆ど取っておらず、毎日、毎日、自慰行為に明け暮れていた。
楓に会いたくて仕方なかった。
金も底をつきかけていて、来月の家賃や光熱費、その他諸々の支払いを済ませる為の金もなかった。
何もやる気が起きず、どこかに出掛ける気にもなれない。
私がやっている唯一の事といえば盗んだ下着の匂いを嗅ぎながら自慰行為をする事だけであった。
自分が無性に虚しくなり、死にたくなってくる。
このままじゃいけないことも解っている。
しかし、体が拒絶反応を起こす。
何もする気が起きないのだ。
私はこのまま落ちぶれていくのだろうか?
いや、もう十分落ちぶれているではないか。
これ以上落ちることはないのではないか?
自分に問いかけてみる。
しかし、このままでは来月の支払いができず、借金するしかなくなってしまう。
・・・・・・・・・。
私は考える。
・・・・・・・・・。
とても働く気にはなれない。
・・・・・・・・・。
借金はしたくない。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
車を売るしかないか。
私が出した結論はこれだった。車を売り金を作る。
その資金を元手に一発当てる!
これしかない!
問題は何で勝負するかだ。
パチンコ、スロットは厳しいだろう。
競馬はもうしたくない。
・・・他には宝くじ、競輪、ボート、オート・・・。この辺りか。
悩む。
どれなら私は勝てるだろうか。
宝くじは確率的に奇跡でも起きない限り当たらないだろうからパスだ。
後は、競輪、ボート、オート。
オートは全く解らないためパスだな。
悩む。
ボートは若い頃一度だけやった事はあるが儲かった記憶はない。
競輪しかないな。
結論がでた。
まずは明日、車を売りに行こう。
そう決めると不思議と怖さが無くなってきた。
私はまた、盗んだ下着の匂いを嗅ぎ始めた。
落ち着く。
楓がそばにいるみたいだ。
楓に会いたい。
会ってやり直したい。
楓のいない暮らしは有り得ない。
洗濯も炊事も掃除も楓がいなくなってからは一度もやっていない。
やる気も起きないし、やり方もよく解らない。
私は楓がいないと何一つ自分ではできないのだ。
私は楓との出会いを思い出す。
市民公園で会釈するようになって数ヶ月が過ぎた頃、楓のOL仲間の関取が私に話しかけてきた。それは意外で私が待ち望んでいた答えだった。
「楓が貴方のこと気になってるみたいですよ。」
「えっ!?」
「この市民公園で貴方と会うのが楽しみだって楓が言ってましたよ!」
「えっあっああ、そうなんですか。」
私は顔を真っ赤にして答えていた。
内心は嬉しくて嬉しくて飛び上がりそうなくらい嬉しくて、今にも叫びだしたい気分だった。
関取はそれだけ言うと楓達の所に戻っていった。
向こうから楓の声がした。
「ミチル何話してたの?」
どうやら私が関取とあだ名を付けた女の名前はミチルと言うらしい。
「内緒。」
関取ことミチルが楓に言った。
しかし、冷静に考えてみれば何かがおかしい。
本当に楓が私みたいな冴えない男の事が気になるだろうか?これは何かの罰ゲームかドッキリなのではないだろうか?
私の心の中で信じられない今日の出来事が受け入れられないでいた。
しかし私の不安をよそに私と楓との距離は急速に縮まり始めた。
これも全て関取ことミチルちゃんのお陰だろう。
この次の日、また市民公園で楓に会えないかと私は公園のベンチに座っていた。
そして昼にいつものOL3人組がやって来た。
自動販売機で楓と一緒になった私は思い切って楓に声を掛けた。「こんにちは。」
私は勇気を出して声をかけた。本当は楓は私の事等何とも思ってないのかもしれない。関取が私をハメようとしているだけなのかも知れない。
それでも私にはチャンスだと思えた。
騙されていたとしても構わない。
当たって砕けろの気持ちで話しかけた。
その後は何と話したかはよく覚えていないが、この日を境に楓と話すようになっていった。
そして、しばらくたったある日、私は覚悟を決めてデートに誘った。
・・・・・・。
楓に会いたい。楓を抱きしめたい。楓とセックスをしたい。
私はまたパンティーの匂いを嗅ぎ始めた。
何回自慰行為を行っても満足できなかった。
盗んだパンティーは楓の物ではない。それは解っている。それでも楓が履いてたと想像し自慰行為を行う。
私の頭はどんどんおかしくなっていってるのではないか。
ギャンブル。
自慰行為。
毎日その繰り返し。
心は不安に襲われ、頭はおかしくなりそうで、それを抑えるために何も考えずに自慰行為を行うのだ。
ただ射精した後の虚しさや淋しさ悲しさは、とても耐えられるものではなかった。
自慰行為に疲れたら眠る、それが私の一日の終わりだった。
次の日、私は車を売って金を作った。