崩壊
私の頭の中は暗い闇に覆われていた。
私にはどうすればいいのか解らなかった。
どんなに辛くとも、どんなに嫌いな人間が職場にいようとも家庭の為には我慢するべきだったのだろうか。
私は病院にいた。
妻が倒れ車で病院まで運んだ。
しかし、ここは産婦人科だった。
妻はお腹の中に私の子供を身ごもっていたのだ。
なぜ彼女は私に話してくれなかったのだろうか。
このことを後三日早く知っていれば私は我慢して会社に残ったのだろうか。
私は子供が欲しかった。自分の血を受け継いだ子供が欲しかった。
彼女は今の心境で私が会社を辞めた事を受け止めてくれたのか。
本当は辛かっただろう。
泣きたかっただろう。
・・・私が何とかしなくてはいけない。
私の責任だ。
私がここでしっかりしなくては生まれてくる子供に申し訳がたたない。
私は妻に一言
「とりあえずハローワークに行ってくる。お前は何も考えずゆっくり休んでろ。」
そう言って病院を後にした。
ハローワークに来たものの載っている求人は二日前と替わっておらず、まぁ当たり前なのだか、とても受けてみようと思う会社はなかった。
私はパチンコ屋へと足を向けた。
妻はギャンブルが大嫌いだった。
妻の両親はギャンブルの借金が原因で離婚しており、その為、私のギャンブル好きに頭を抱えていた。
妻が倒れた原因もツワリというよりも私が無職の身分でありながら呑気にパチンコに行き、しかも、暫くスロットで稼ぎたいと言ったことにショックを受けての事だろう。
しかし、その時の私には、金を稼いで楽させてやる。この感情が強かった。
普通に考えれば、そこでギャンブルって考えにはならないはずなのに、私にはそんな余裕さえなかった。
その日は夜7時近くまでスロットを打った。
結果は二万ちょっとの勝ち。
日当として考えれば充分な額だと思う。
私が犯した過ちの一つは、その勝った二万を妻に渡した事だった。
その日の夜、私は勝った二万弱を今日の稼ぎ分と言って妻に渡した。
・・・妻の目から涙がこぼれ落ちる。
「アナタは私が入院してる時でもパチンコに行くの?アナタは私が今どんな気持ちで入院してるか解ってる?私のお腹にはアナタの赤ちゃんがいるのよ!。」
妻は私にそう言って泣き崩れた。
少し考えたら解ることだったのに、せめて今日ぐらいはパチンコに行かず何かしら仕事を探さないといけなかったはずなのに。
せめてパチンコに行ったことを妻に言わなければ・・・。
長い沈黙が流れ妻が言葉を発した。
「別れましょう。」




